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9bossanova20
未入金は、静かに心を削る
未入金は、静かに心を削る。
請求書を出したあと、通帳を確認する。
入っていない。
それだけのことなのに、
胸の奥が、じわじわと重くなる。
催促するべきか。
でも、言い方を間違えたくない。
関係を壊したいわけではない。
かといって、このまま終わらせるのも違う。
その取引先とは、
もう続けなくてもいいと思っていた。
だからこそ、迷った。
強く言ってもいい。
関係が切れても困らない。
でも、
「嫌な気持ちで終わりたくない」
という思いだけが残った。
怒って終わると、
自分の中に濁りが残る。
未入金よりも、
それの方が嫌だった。
とはいえ、諦めるつもりはなかった。
今回の金額は、10万円。
軽く扱われたままにする額ではない。
もし動かなければ、
次はきちんと手順を踏む。
その準備だけは、静かに整えていた。
私は、手紙を書くことにした。
メールではなく、手書きで。
何を書いて、何を書かないか。
そこに一番時間をかけた。
催促の言葉は入れない。
責める言葉も入れない。
ただ、
これまでのやり取りへの感謝と、
返却物を送ること。
そして、請求書を同封する。
それだけにした。
封をする直前、
一度だけ手が止まった。
これで動かなかったら。
そのときは、次に進む。
そう決めて、ポストに入れた。
数日後、入金があった。
理由は分からない。
でも、ひとつだけはっきりしている。
怒らなかったこと。
でも、諦めなかったこと。
その線を、自分で引けた。
未入金は、
ただのお金の問題ではなかった。
自分がどうありたいかを、
問われる出来事だったのだと思う。
少し前に、カラスの夢を見た。
不吉だと言う人もいる。
でも、再生の象徴だとも言われる。
私は、後者を選んだ。
あの出来事がなければ、
自分の中の線は、曖昧なままだった。
怒らない。
でも、譲らない。
それを選べたことが、
今は静かに残っている。
