能力より先に見るべきもの――採用と組織リスクの盲点としての「侵襲性」
序:なぜ、優秀な人材が潰れるのか
日本の多くの職場では、採用時に次の二点が重視される。
①業務遂行能力
②コミュニケーション能力
これは合理的に見える。しかし、現場で起きている問題を冷静に観察すると、ある違和感に突き当たる。
* 業務能力は高い
* コミュニケーションも一見問題ない
にもかかわらず、周囲の人が疲弊し、優秀な人材が去り、組織の空気が悪化する――そうした事例は少なくない。
その原因は、能力不足ではない。また、研修不足でもない。見落とされているのは、「その人が、どれくらい他者に侵襲的か」という視点である。
第1章 侵襲性は、能力とは別のリスク要因である
多くの職場で、次の事実が暗黙の前提になっている。
> 研修制度があれば、仕事はできるようになる
これは概ね正しい。日本の多くの労働現場における多くの業務は、一定期間の教育で「そこそこ」回るように設計されている。
しかし、次の前提は成立しない。
>侵襲的な言動は、研修で改善できる
他者に対して侵襲的になる人間の特徴は、能力の問題ではなく、態度・姿勢・自制力の問題である。
* 雑談で人を疲弊させる
* 仕事の進め方で他者を追い詰める
* 指摘されると自己正当化に走る
こうした行動は、研修を受けたから消えるものではない。むしろ、立場や裁量を与えられるほど、侵襲性は拡大する。
結果として起きるのは、
* 本来能力のある人材の離脱
* 職場の沈黙
* ハラスメント事案の発生
* 組織全体の生産性低下
これは倫理の問題である以前に、明確な経営リスクである。
第2章 なぜ日本の採用では見られてこなかったのか
なぜ日本の採用現場では、こうした観点が顧みられてこなかったのだろうか。理由は単純である。
* 履歴書に書かれない
* 数値化しにくい
* 面接で「問題が起きる前」は目立たない
しかし、見えにくいだけで、兆候は必ず出ている。侵襲的な人間は、無意識のうちに、日常的な態度にそれを表す。重要なのは、「何を言ったか」ではなく、「どう語るか」を見ることである。
第3章 侵襲性は、採用段階で十分に篩分けられる
侵襲性は、性格診断や心理テストを使わなくても、面接の視点を少し変えるだけで可視化できる。例えば、以下のような観点である。
観点① 語りの主語
* 話の中心が常に「自分」になっていないか
* 他者は成果を引き立てる背景としてしか登場しないか
観点② 責任の扱い方
* 問題の原因を、環境・他人・制度に一貫して帰していないか
* 自分の判断や影響について語ろうとする姿勢があるか
観点③ 自制力の兆候
* 話すスピードや熱量を、相手に合わせて調整しているか
* 指摘や質問に対して、加速するか、立ち止まるか
これらは、一つ一つは些細に見える。しかし、侵襲的な人間に共通しているのは、自制力の欠如である。自制できないものは、立場を得た後、必ず表に出る。
第4章 例えば、こう聞くだけで見えてくる
侵襲性を可視化するために、質問を大量に用意する必要はない。
例えば、こんな問いで十分である。
> 「チームで意見が対立した経験を教えてください。その時、あなたは何を大切にしましたか?」
ここで見るべきは、「正解」ではない。
* 他者の視点が自然に出てくるか
* 自分の感情や行動を振り返る言葉があるか
* 立ち止まって考え直す余白があるか
侵襲的な人間は、この問いに対して、必ずどこかで自制のなさを露呈する。
※より詳細な観点・質問リストは、後日改めて提示できる。
第5章 導入コストと、得られるメリット
この視点を採用プロセスに導入するために、新しい制度・高額な研修・外部コンサルは不要である。
必要なのは、面接官の視点を一段階増やすことと、「能力」とは別に「侵襲性」を見るという合意、それだけだ。得られるメリットは明確である。
* ハラスメントリスクの低減
* 優秀な人材の定着
* 組織の心理的安全性の向上
* 管理コストの削減
これは、長期的に見れば、極めて費用対効果の高い投資である。
結語 「問題が起きてから」では遅い
侵襲的な人間は、問題を起こす前には「一見穏やか」に見えることも多い。だからこそ、
* 研修で何とかする
* 事後対応で処理する
という発想では、常に後手に回る。
予兆は、採用段階に必ずある。それを見ないことが、最大のリスクなのである。
※こちらのマガジンに、以前の記事が収録されています。
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