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📕 あらすじ・第䞀章 301


あらすじ


その蚘録は、完璧なはずだった。
だが「301」から始たった芳察ログに、たったひず぀の䞍䞀臎が発生する。
䞀臎しない行動履歎。存圚しない識別子。
そしお発芋される公匏文曞――
『ナヌザヌ認蚌ログの䞀郚䞍䞀臎に぀いお』。
善意の隣人、レビュヌを芁求する怪異、最適化される陀霊。
芳察し、分析し、合理的に凊理するたび、異垞は静かに内郚ぞ䟵入する。
やがお浮かび䞊がる、もう䞀人の“曞き手”。
この物語を曞いおいたのは誰なのか。
すべおのログが接続されたずき、反転するのは事件ではない。
最埌に残るのは、「自分の思考そのものが、最も逃れられない怪異である」ずいう認識だけである。
※本䜜は、実際の思考過皋および芳察蚘録の圢匏をもずに構成されおいたす。

第䞀章 301の隣人


「たたゎミが萜ちおる」

酒井は箒を持ち、共甚廊䞋の掃き掃陀を始めた。
管理人は名ばかりで、ゎミ収集の曜日の昌に来おは、少し確認をするだけだ。掃陀などしおいるずころは䞀床も芋たこずがない。
目に぀くゎミを掃き、ビニヌル袋ぞ突っ蟌む。少し動いただけで汗ばんでくる頬を、゚プロンの裟で拭う。

日課ずいうものは、どんなに呜の危機ずも蚀われる暑さだろうが、やめられるものではなかった。朝のコヌヒヌ䞀杯ず同じで、雪が積もっおいるずか、台颚が盎撃したりずか、事情で出来なかった日はなんずなく気持ちが悪い。

平日は仕事ぞ向かい、い぀も同じ時間に垰っおきおは倜九時のドラマを芳お、終われば眠りに぀く。これが倉わらない日垞だ。
孊生でも、独身女性でも、誰にも邪魔されない䞀人暮らしは自由で、呚りが思うよりも満たされおいるものだ。

真倏の殺人的な倪陜が少し傟いた頃、アパヌトの前にトラックが止たった。匕越し業者らしい。
むンタヌホンが抌される。しばらく空き宀だった隣宀に匕っ越しおきたようだった。
そこには、いかにも今日䞊京しおきたしたずいった顔があった。お排萜には疎く、よく蚀えば䌞び代のありそうな、これから垢抜けるであろう原石ずいった颚貌の、ボサボサ髪の若い男だった。
少し離れたずころにある倧孊ぞ通うようだ。

「 隣の302に匕っ越しおきたした、倪田です。よろしくお願いしたす。」
笑みもなく、差し出された「ご挚拶」の癜いタオル。手觊りが最悪で吞収性も無い、粗悪品。

「こんにちは、301の酒井゚リです。あなた、そこの倧孊の孊生さん䜕か分からないこずがあったら、い぀でも聞いおくださいね」
愛想良く、笑顔で応える。

「 ありがずうございたす」
無愛想に軜くお蟞儀をしたあず、倪田はドアを閉めおしたった。䞀芋䞁寧だが、ボ゜ボ゜ずした小さな喋りで、笑顔もなく玠っ気ない印象だった。隣人ずしお䞊手くやれるだろうか。
そんな䞍安がよぎり、「少し冷たい人かもしれない」ず思った。

そのうち、隣の郚屋からバタバタず家具を配眮したり、数人が出入りする音が始たった。

慌ただしい匕越しから数日埌、汗で滑り萜ちそうな袋を持っお、ゎミ捚お堎に向かう。ただ朝だずいうのに、倖はすでにサりナになりかけおいる。ゎミ袋の結び目に汗が滎った。

そこで酒井は信じられないものを芋る。半透明な薄い袋越しに、玙類や匁圓箱。挙句の果おにはペットボトルの蓋らしき緑色の䞞いキャップが芋えた。匁圓箱はそもそもプラごみだし、ペットボトルはリサむクルである。

同じく䞀緒くたにたずめられおいた倧孊のパンフレット、「批評、芳察、芖点」ずいう文字が䞊んだ本。「文孊郚」ずいう文字も透けお芋えた。このアパヌトに倧孊生は倪田しかいなかった。

その倜、テレビのくだらない連続ドラマが終わった頃。隣の郚屋のドアの開閉音が聞こえおから、隣宀ぞ向かう。
コンコン、ずノックの音が響く。
「 はい」
玠っ気ない返答。バむト垰りのようで、前髪はじっずりず額に匵り付いおいた。

「今日、燃えるゎミの日だったけど、匁圓箱ずかペットボトルずか、あずこの本も。䞀緒に捚おたした個人情報もそのたただし 分からなかったら聞いおくださいよ。」
「 なんでわかったんですか、たさか開けたんですか」
こちらを芋る芖線は、迷惑だず語っおいた。ゎミ出しのルヌルを守っおもらわないず、自治䌚もうるさい。迷惑なのはこちらだ。

「今回は分別しお出し盎しおおきたした。次回から気を぀けおくださいね。」
倪田の目が少し芋開かれた。
「勝手にやめおくださいよ、そのたたりチの前に眮いずいおくれたら良かったのに」
「この時期だから、䞀日䞭ゎミを眮いおおきたくないの。開けられたくなかったら、ちゃんず出しおくださいよ。」
ゎミ出しルヌルの曞いおあるチラシを枡す。
「それず、぀いでに蚀うけど。䞉階だからっお、ベランダの窓、鍵開けっ攟しにしおおくのは防犯䞊気になりたす。」
倪田は換気のためか、昌間は窓を少し開けお倖に出おいた。

十数幎前は田舎だず鍵を閉めないのが圓たり前だったし、防犯なんおあたり意識はしおいなかったが、珟代は䜕かず物隒だ。特に最近、この蟺りでは空き巣も倚いらしい。
「え、やめおくださいよ。管理は自分でしたすから。ゎミの件はすいたせんでした。」
匕っ越しおきた日の挚拶よりもぶっきらがうに返事をした倪田は、そのたた扉を閉めた。
すぐに、無機質な、突き攟すような冷たい「ガチャリ」ずいう音が響く。
酒井はその態床に戞惑った。
「芪切で蚀っおるのに。」
䞖代の差だろうか。それずも、倪田が愛想のないだけか。
顔に貌り぀けおいた笑顔が、ゆっくり厩れおいった。

そのあずはほが芋かけるこずはなかった。孊生の生掻リズムの音ず、芏則正しい音だけが、混ざっおいた。
このアパヌトは壁が薄い。目芚たしの音も、ドアの開閉音も、スマホのバむブレヌションの音でさえ聞こえるこずもある。
あれからゎミ出しは、しっかりされおいるようだ。

気枩が少し䞋がっおきた頃、ひぐらしの声が僅かに聞こえる倕方。最近眠りが浅いようで、生気のない疲れた顔で垰宅する。
䞁床、郚屋から出おきた倪田ずばったり出くわした。盞倉わらず、ボサボサの髪は寝癖のたた䞍栌奜に䌞びおいる。芋かけるには珍しい時間だった。

「こんにちは、倪田くん。やっず少しだけ過ごしやすくなりたしたね。最近はゎミ出しも完璧だし。窓の鍵も閉めおいるみたいで、安心したした。」
うっすらずクマが出来た顔に、咄嗟に笑顔を貌り付け、倪田に話しかける。
「 それは、良かったです。」
盞倉わらず、愛想のない呟くような声が返っおきた。
「最近は困ったこずはないですか遠慮なく蚀っおくださいね。お互い、気持ちよく暮らしたいですから。」

䞀瞬、倪田はこちらを真っ盎ぐ芋据えたが、すぐに目を逞らし、呟くように蚀葉を発する。
「そうですね。ただ、芳察ず介入は違いたすから」
「 介入」
意味がすぐに理解できず、少しだけ蚀葉に詰たる。酒井は、悪埳勧誘業者のようにドアを無理やり開けさせおいる蚳でもない。
301ず302の間には、きちんず壁はある。
「あの、ただ」
蚀葉が出たが聞こえおいないのか、倪田は軜く䌚釈し、静かに自宀ぞ戻っおいった。酒井は、ただ蚀いたいこずがあったかのように、立ち尜くしおいた。
無機質な鍵の閉たる音の埌、廊䞋には、わずかに気たずい沈黙が残った。

満月の綺麗な倜だった。
僕はい぀ものように、ノヌトに今日の出来事を曞き終えた。明日は、どこたで曞けるだろう。
わずかに冷たくなっおきた颚が心地いい。そっず頬を撫でる颚が、眠気を誘った。
「 郜䌚は、狭いな」
そのたた、窓を少し開けお寝た。

明け方ごろ、ずんでもない悪倢を芋お目が芚めた。ただ息苊しかった。どんな倢だったかはよく思い出せない。ただ、痛くお苊しい。その感芚だけが残っおいた。党身が冷たく震えおいお、ただ痺れおいる。
ずおも喉が也いおいた。うたく息ができない。氎を飲みにキッチンぞ向かおうずしたが、䜓は思うように動かなかった。

い぀のたにか郚屋は明るくなっおいた。枕元のスマホが鳎る。
通知を芋るず、倧孊の友人からだ。

「倪田、おい倪田倧䞈倫か」
再び寝おしたったのか、友人の倧きな声がした。そんなにうるさくしたら、酒井に文句を蚀われおしたいそうだ。
ただ䜓は痺れおいたが、寝過ぎただけだろう。
そんなに心配するこずでもない。友人は䜕故か慌ただしく、ずおも焊っおいる。
どこかに電話をかけおいる。救急車を呌んだようだ。そこたでしなくおもいいのに、ずいう声すらたずもに出なかった。
そんなに酷い状態なのだろうか
サむレンの音がだんだん近くなっお、頭にうるさく鳎り響いおいた。

ふず目が芚める。真っ癜く冷たい郚屋。
そうか、そういえば救急車のサむレンがしおいたな。病院に運ばれたのか。あい぀、倧袈裟だな。
遠くからニュヌス速報が聞こえた。僕の䜏んでいる町。
「たさかあの人が 芏則正しくお毎朝掃陀をしおいたり、い぀も笑顔で感じのいい人だったのに。」
そんな、よく聞くお決たりみたいなむンタビュヌ。
殺人事件。その犯人の名前は、聞き芚えがあった。酒井゚リ。隣人トラブルのようで、銖を絞めお殺しおしたったらしい。

 あの悪倢は、倢じゃなかったのか。
芖界が、倧きく䜕床も揺れた。

傍らに、「301」ずいう衚玙の、芋慣れたノヌト。曞き溜めた芳察蚘録。やりすぎたのかもしれない。
線銙の銙りが満ちおいっお、もう䜕も聞こえない。

いいなず思ったら応揎しよう