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MCUに蜘蛛は食われた:遅れてきた骨太映画(アメイジング・スパイダーマン1&2)

公開から7年以上経って先日にようやく視聴できたのですが、アメイジングスパイダーマンいいですね!これはスナイダー支持者から好かれるのが分かります。

あまりカラフルになりすぎない引き締まった画面で、主人公が自身のアイデンティティや人間関係に悩む。これはスナイダーがDCEUでやっていた作風と共通していますね。本来は3作目も予定されていながらMCUへの合流を機にシリーズ打ち切りになってしまったようで残念な限りです。

⚠️注意喚起:以下はネタバレを含みます。

▼ドラマ部分が良い映画だった:

アクションシーンも良かったけどドラマ部分が良かったなと感慨に浸って調べたのですがマーク・ウェブ監督は『500日のサマー』と『ギフテッド』の監督だったと知り、納得感がすごいです。(これがトビー・マグワイア版のサム・ライミ監督だったら『死霊のはらわた』や『クイック・アンド・デッド』になるところですからね。笑)

無理に笑いを作るんじゃなくて、少し笑えたりジンとしたりする要素をさり気なく入れるのがお上手でした。この繊細な味付けは日本人好みかもしれません。(逆にMCUキッズの指示を集めるのはやや難しいかもしれませんが)

俳優が良かったです。エマ・ストーンが若くてキラキラしていて素敵で、アンドリュー・ガーフィールドの困った表情もいじらしくて、そしてアカデミー女優である大御所サリー・フィールドのメイおばさんの演技は圧倒的でしたね。もう彼女が出てくるだけで『フォレスト・ガンプ』みたいになってました。笑

デニス・リアリーも印象的でした。恋人のパパが警察官なのでヴィジランテ(勝手に警察みたいなことをやってるヤバい奴)であるスパイダーマンと緊張が生まれて口論になったりバレないように四苦八苦してドタバタ喜劇になる、というのはこの手のヒーロー映画ではお決まりになっている感がありますが、本シリーズではその父親がトカゲ男に致命傷を負わされながら息も絶え絶えに遺言として「娘に危険を近づけるな」と約束させるのはなかなか衝撃的だと思います。あくまで危険から遠ざけたいのであってスパイダーマンであることを辞めれば交際までは否定しないところも娘の気持ちを想いやる優しさが垣間見えて格好良い父親だなあと私は思いました。

父親の立場からすれば、娘を危険な目に遭わせたくないのは当然です。従来のヒーロー映画はその問題が顕在化しないように登場人物やドラマを調整していました。しかし、本シリーズではこの問題に正面からぶつかります。こうなってしまえば父親は断固反対するしかありません。最近では眞子内親王と小室圭氏の事例を見ても分かるように、父親には時として心を鬼にするべき時があるのです。

しかも遺言になってしまったので、グウェン父からピーターは相談や交渉や協力の余地も与えられず一方的に条件を押し付けられた形です。それが数年後も亡霊のように見えてしまったり、若い二人の恋愛の障壁として立ちはだかるのは、ドラマとしてかなり面白くなっていると言えるでしょう。

そして2作目でヒロインがあっさり死んでしまうのも衝撃でした。父親の悪い予感が的中してしまうという後味の悪さ。高所から落ちてもスパイダーマンが糸を伸ばして、間一髪、彼女を助けることができました!バンザイ!というヒーロー映画のお決まりを大胆に破ってきましたね。しかも彼女の意志による自己犠牲とか、ド派手な爆発に巻き込まれてとかじゃなくて、普通にスパイダーマンはベストを尽くしたけど間に合わなくて地味に後頭部を強く打っただけで絶命します。このゴンって音が容赦なくて。

この描写は「普通の人間の脆さ」をかなり現実的かつ残酷に提示するものになっており、精神的にキツイものがあります。私は映画『機動戦士ガンダムF91』の序盤で「味方モビルスーツが発砲したライフルの使用済み薬莢(長さ30cm程度)が落ちてきて母親の後頭部に直撃しただけで即死する」シーンを思い出しました。鈍器による殴打って怖いのよ。

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F91では主人公たちが目の前の悲劇をすぐに受け入れて残された幼児を引き取るという冷静な対応をするのが戦場のリアルという感じで良い脚本だったのですが、アメイジング〜でも同様に、そのあと主人公が怒り狂って敵を倒すみたいなわざとらしい展開にならないのも硬派で良かったです。安っぽい日本映画なら手っ取り早く感動を稼げるポイントだと思って大暴れしていたでしょう。よく予告編とかで見かける主人公の顔がドアップで「うおおおお!」って叫ぶアレです。笑。しかし本作はそんな品位に欠けたことはしません。監督が観客を信頼しているからこそできる演出です。続く墓場に立ち尽くすショットだけで時間の経過を見せるシーンもアメコミらしさ全開で、かつピーターの喪失感を描いていてシリアスな映画としての矜持を感じられました。

▼音楽も良かった:

これは特に2で感じたのですが、映画の開始からずっと音楽が良いなと思ってて、30分くらいで我慢できなくなって途中でスマホで検索(自宅視聴はこれができるのが良いですね)したらハンス・ジマーでした。道理で。笑

申し訳ないですが私は1はそこまで音楽に感心しなかったので、こちらも調べたら1は別人でした。つまり、やはりジマーの個性は強いということですかね。実際にはジャンキーXLなど他に6人の音楽家(その名も「マグニフィセント6」という!)も参加していたようではありますが。

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ちなみにパイプオルガンを使ったような楽曲が似ていると感じたのですが、これってインターステラーと同じ曲なのでしょうか?鷺巣詩郎さんがエヴァの曲をシンゴジラで使い回したように別にやっても良いとは思うのですが。別会社のヒーローフランチャイズの曲でない限りはOKなのではないでしょうか。笑

▼これぞ「クモ男」のアクション:

よく指摘されることですが、MCU版のスパイダーマンがあまりスイングしないのに対して、アメイジング版では1&2共にニューヨークの高層ビル街をド派手に飛び回ります。それが本当に爽快でした。

特に1に至っては終盤の見せ場として工事現場の男達がクレーンでスパイダーマンをサポートする感動的なシークエンスがあります。この工事現場の男達はまさしく「親愛なる隣人」であり、スパイダーマンのテーマそのものです。つまりピーター・パーカー1人ではなくて、ニューヨークの街全体がスパイダーマンなのだというメッセージがそこにはあります。このため、私はむしろトカゲ男とのバトルよりもクレーンのシーンを鮮明に覚えているくらいです。笑

しかしながら少し残念な点もありました。

画面がシネスコであることです。

近年ではIMAXブームやスマホが普及したこともあり、画面比率にビスタ(1.85:1)を採用するケースが増えていますが、アメイジング〜は2012年頃には圧倒的多数派だった横長のシネスコ(2.35:1)になっているのが少し勿体無いと感じます。ビスタを見慣れた昨今では、如何せんシネスコは画面のタテの動きが小さく感じてしまうからです。

IMAXといえばクリストファー・ノーラン監督が有名ですが、彼と同じく近年はIMAXにこだわり(ノーランから特注のIMAXレンズを借りて撮影することもある)遂にはビスタよりさらに縦長の「4:3」(1.33:1)を全編で採用する奇抜な作品をリリースしたザック・スナイダー監督は「ヒーロー映画はスーパーマンが飛ぶシーン以外は縦に長い方が良い」と明言しています。

なるほど、ニューヨークの摩天楼をまさに「縦横無尽」に飛び回るスパイダーマンには、この理論はよく当てはまるかもしれません。

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“My intent was to have the movie, the entire film, play in a gigantic 4:3 aspect ratio on a giant IMAX screen. Superheroes tend to be, as figures, they tend to be less horizontal. Maybe Superman when he’s flying, but when he’s standing, he’s more of a vertical. Everything is composed and shot that way, and a lot of the restoration is sort of trying to put that back. Put these big squares back… it’s a completely different aesthetic. It’s just got a different quality and one that is unusual. No one’s doing that.”

「僕はこれ(ZSJL)をIMAXの巨大スクリーンに全編4:3で映写したいんだ。スーパーヒーローっていうのはあまり水平的じゃない。まあスーパーマンが飛ぶ時は別として、立っている時は垂直的だ。ほとんどのショットをそういう意図で撮影した。マスタリングもその縦に大きな四角を意識した。これは(従来の横長とは)全く異なる趣向だよ。全く異質なものになってるんだ。こんなこと他に誰もやってないだろ」

Den of Geek に掲載されたスナイダーの言葉を引用。

これは余談ですが、画面比率4:3は100年以上昔に映画(当時は「活動写真」と呼んだ)が誕生した時から使われたフォーマットで、1950年台から徐々にワイドスクリーンに置き換わるまではずっと主流でした。また何よりもブラウン管だった頃の家庭用テレビ(つまり昭和の時代)ではずっと4:3が使われていたので、昭和生まれの世代にとっては懐かしい画面比率だったりします。またヒッチコックや黒澤明の初期作品などの映像ソフトでも視聴できるので、スナイダーカットは「ものすごくトラッドなファッションで最新の映像技術が楽しめる」という不思議な体験ができる作品になっています。

今回はアメスパの話なので、このIMAXの画面サイズの話は別記事にまとめました。興味がある方はそちらもチェックしてください。結構ふみこんだ話をしております。

要するに、アメスパに関して言いたかったのは「縦に長い画面の方がばえるのに残念だったなー」という話でした。

さて、余談はのこのくらいにして閑話休題します。

▼ダークナイトの呪いとMCUのトレンド支配:

アメイジング・スパイダーマン・シリーズがダークでシリアスなテイストなのは、スタジオがコロンビア/ソニーだから結構攻めた企画が通りやすいことに加えて、ノーラン監督の『ダークナイト』の影響を受けたためだと考えて間違いないでしょう。特にヒロインが死んで主人公が落ち込むという展開は「完全に一致する」と見なして良いレベルだと思います。

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主人公の横顔だけで語る;完全に一致してますね

重厚で気合いの入っていたアメイジング版でしたが、3作目の企画段階でシリーズ打ち切りの憂き目に遭っています。なぜこんなことになったのでしょうか。当時の公開作品を並べて考えてみます。

2007.05: Spider-Man 3
2008.05: Iron Man
2008.07: The Dark Knight
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2012.05: The Avengers
2012.07: The Amazing Spider-Man
2012.07: The Dark Knight Rises
2013.06: Man of Steel
2014.04: Captain America: The Winter Soldier
2014.05: The Amazing Spider-Man 2
2015.05: Avengers: Age of Ultron
2016.03: Batman v Superman: Dawn of Justice
2016.05: Captain America: Civil War
2017.07: Spider-Man: Homecoming
2018.10: Venom
2018.12: Spider-Man: Into the Spider-Verse
2019.07: Spider-Man: Far From Home
2019.10: Joker

公開月は米国のもの。

このように当時の作品を時系列で並べると、2008年にMCUの立ち上げ作品である『アイアンマン』が公開された直後に『ダークナイト』が公開されています。このダークナイトはヒーロー映画をリアルかつシリアスな路線で描き切った最初のアイコンとして超強力なゲームチェンジャーだったと言えます。その後に多数の作品に影響を与えることになりました。

そして、そのダークナイトの路線を踏襲して世界観を作り上げていた『アメイジングスパイダーマン』と『マンオブスティール』がようやく公開できた2013年は、すでに2012年に『アベンジャーズ』が明るくてファニーな作風で旋風が巻き起こして次の潮流を作ってしまっていた(再びゲームの流れを変えた)後であり、映画界はそのまま空前のMCUブームへと繋がっていくのでした。くだらないジョークを言い合いながらワイワイ戦って最後には全員でテーブルを囲ってケバブサンドを食べるのがクールだとされる時代の到来でした。

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つまり一言でまとめれば「時すでに遅し」。アメイジングスパイダーマン(とマンオブスティール)はトレンドを逃したのです。どんなに質が良くても、トレンドに遅れていれば「それは古い」と斬り捨てられてしまうリスクが増えます。

そもそも2008年のダークナイトが社会現象になったことは今でも記憶されている方が多いと思いますが、あれは人気俳優の不審死がスキャンダラスな味付けを加えたという側面もありました。

一方で、その影で着実に「明るくて楽しいユニバース」を進めてきて数年越しの努力でトレンドを支配したのがマーベルだったと言えるでしょう。(余談ですが、日本では前年の東日本大震災での自粛ムードからの反動で一気にエンタメ性の高いアベンジャーズの人気に火が着いた側面もあったと思います)

そして、充分に多くの固定ファンを獲得した後でMCUは2014年の『ウィンターソルジャー』でさらにもう一度ゲームチェンジを仕掛けており、ルッソ兄弟による硬派シリアス路線を主軸にしながら、破格のフランチャイズとして剛柔陽陰織り交ぜた無双の展開を見せていきます。

そしてアメイジング版は2016年の『シビルウォー』からスパイダーマンがMCUに合流するために打ち切りが決まりました。

ヒーロー映画のトレンドの大きな流れ:
1)ダークナイトがシリアス路線で話題になりフォロワーが続出。
2)アベンジャーズがライト路線で大成功して流れが大きく変わる。
3)ウィンターソルジャーで再びシリアス路線に転換。
4)GOTGやアントマンなどライト路線も並行しMCUの全面勝利状態に。
5)ジョーカーという変化球でDCが一矢報いる。

ワーナー(DC)とソニー(スパイダーマン)とフォックス(X-MEN)はそれなりに健闘するも社会的かつ継続的なブームを作り出すことは遂にできませんでした。私は映画は芸術でもあるので数字が全てだとは思いませんが、数字が出なければ続編制作が難しいのは納得できます。しかし数字での敗北を理由に「MCU的ではない巨大プロジェクト」の多数が変更を余儀なくされたり、打ち切りになったことは非常に残念です。

= = =

ということでMCUとDCEUの陰に隠れて、むしろMCUから登録抹消される形で、不遇を経験したアメイジング版でしたが、作品の内容は1&2ともに素晴らしい出来栄えでした。

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アメイジング・スパイダーマン2のポスターには大きく「His greatest battle begins(彼の大いなる戦いが始まる)」と書いてあります。本作を鑑賞前であればシンプルに本作の戦いを予感させるキャッチコピーだと思われるでしょう。

しかし実際はアメスパ2はラストでライノと激突する場面で終わりますし、オズコープの地下にはヴァルチャーとドクターオクトパスの装備と思われる機材も置いてありました。つまり、ポスターに書いてあったのは「これから新しいシリーズが始まるよ」というメッセージだったと分かる仕掛けだったのですね。

だから当時に、劇場でアメスパ2を観た人は、映画館を出たときにもう一度このポスターを見て気づくのです。なんと粋な計らいでしょうか。それだけに実現しなかったことが無念です。

私は2021年に全てが終わった後の世界で視聴したので、言い換えれば最初から覚悟していたので比較的すんなり受け入れましたが、当時にリアルタイムの映画館で鑑賞されていた方々には打ち切りは結構ショックだった事案だと思います。

最近では2018年のスパイダーバース、2019年のジョーカー、2021年のスナイダーカットなど、マルチバースの概念に寛容的な作品や、ファンの直接的な声を反映した作品も増えています。願わくば今後は、このアメイジング版のような「悲劇の名作」がなるべく生まれないことを祈ります。

了。

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