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【ANORA アノーラ】あらすじ・感想(三幕構成で読み解く)

#ネタバレ

結末まで語るので、本編を未見の方にはブラウザバックを推奨します。

登場人物
アノーラ(マイキーマディソン):ストリップバーで働く若い女。
イヴァン(マークエイデルシュテイン):ロシアの大物実業家の御曹司。
トロス(カレンカラグリアン):イヴァンのアメリカでの世話役。
イゴール(ユーリーボリソフ):トロスの部下の用心棒の男。


まずは、物語を三幕8場構成に分解します。

一幕

1)アノーラはニューヨークで働くストリッパーで、ある夜にロシア語ができるという理由でイヴァンを接客する。

2)実はイヴァンは超大富豪の御曹司で、アノーラはイヴァンに気に入られて暫くレンタル彼女のように過ごす。

二幕

3)アノーラは旅行先のラスベガスでイヴァンと結婚する。

4)ロシアの親にバレてトロスの部下が押し掛けてイヴァンは逃亡し、取り残されたアノーラは屋敷で身柄を拘束される。

5)アノーラは「結婚取消を成立させて金銭を受け取る」という条件で身柄解放されて、トロスやイゴール達と一緒にイヴァンを捜索する。アノーラはこの時点で、イヴァンを説得すれば結婚は継続できると思っていた。

6)アノーラは古巣のストリップバーで泥酔状態のイヴァンを発見するが、ニューヨーク州では手続きできなかった。アノーラは正気に戻ったイヴァンを説得するが、あっさり却下される。

三幕

7)アノーラはイヴァンの両親のプライベートジェットでネバダ州に移動して結婚取消の手続きを完了する。

8)アノーラはイゴールに送られて元のアパートに帰ってくるが、そこでイゴールがこっそり盗んでいた結婚指輪を手渡されて、感情が滅茶苦茶になってイゴールに性奉仕で礼をしようとするも結局最後まで出来ず、泣き崩れる。

FIN

2024年製作/139分/R18+/アメリカ
原題または英題:Anora
配給:ビターズ・エンド
劇場公開日:2025年2月28日

▼解説・感想:

●構成

一幕
 一場:状況説明
 二場:目的の設定
二幕
 三場:一番低い障害
 四場:二番目に低い障害
 五場:状況の再整備
 六場:一番高い障害
三幕
 七場:真のクライマックス
 八場:すべての結末

参考:ハリウッド式三幕八場構成

1-1:知り合う
1-2:レンタル彼女を開始
2-3:ベガスで結婚
2-4:親バレで夫逃亡
2-5:大捜索
2-6:古巣で見つけるも夫は拒絶
3-7:ベガスで離婚(正式には婚姻取消)
3-8:「自分、不器用ですから。」

第一幕はアノーラとイヴァンの関係性ができるまで。

第二幕は関係性を前に進めるも限界が来てあっけなく崩れて、アノーラはそれでも繋ぎ止めようと奔走するも結局失敗する。

第三幕はその後処理ですね。

3-8で極限までセリフを減らした演出が見事でした。

●感想

めちゃ良かったー。奔放すぎて何処に向かうか読めない前半、まさかの展開でジャンルがガラリと変わる後半、そしてラストで不器用な人間達のグチャグチャになる感情。華やかで孤独な、強くて弱い女が、どんな人生でも生きると決意する。「自分、不器用ですから」って聴こえましたよ。(笑)

●ラストの解釈

その場で対応するだけの用心棒だと思って現場に来たら、そのまま夜を徹しての大捜索とラスベガスまでの出張に付き合わされた不運な男イゴール。しかし彼こそが一番アノーラを人間として扱ってくれる人でした。

イゴールは、必死にもがくアノーラを見ながら、彼女の愛はまあ一時の思い込みのようなものだろうとは思いつつも、彼女の本質は純真で、今この瞬間の愛情は本物であることを認めていて、だから最終的に結婚が取消されても優しい言葉をかけてやるし、アノーラが心の拠り所にしていた結婚指輪をこっそり盗んでいて、それを旅客機のエコノミークラスでニューヨークに帰ってイヴァンの家で最後に一晩だけ許された滞在中に渡すことも出来たのにずっと隠し持ってて、最後の最後に車から降りる間際に渡してやりました。

あれが前夜だったらアノーラの性格だとあのままセックスまでしてくれそうだとイゴールが見抜いていたからなのか、イヴァンの家の近辺で渡すと屋外とか何かしら監視カメラに映ることを危惧したのかは不明ですが、なんとなくアノーラが無料では受け取れない性格なのを解っていて「断れないタイミング」で渡したのかなと思われます。

アノーラはアノーラで自身の信念というかポリシーを曲げることができず、指輪を渡してくれたイゴールに何かでお礼を…と言っても彼女に出来ることは性奉仕しかないですからそれをしようとしますが、目を合わせた時に限界が来て泣き崩れました。

私が高倉健の「自分、不器用ですから」を引用したのは、このためです。不器用なアノーラには、あのやり方でしかお礼をすることが出来ない。でもイゴールは「そんなことせんでもええで」と優しさで返してあげる。

ここで二人が何も言わないのが良かったですねー。日本のよくあるドラマや映画なら「もう大丈夫だから」とか言いそうなもんですけど、ただ見つめって目で訴えるだけですからね。大したもんです。

それがまさに「心の交流」になっていて、また感動するんですよねー。

●ジャンルの切り替え

前半のシンデレラストーリーは過激と大胆で彩られて目新しいですし、後半のロードムービーはいきなり恋愛要素ゼロになって凸凹チームで古典的な映画の手法になって楽しかったです。

そして前半に「これ絶対にうまくいかねーわw」と心配しながら見ていた観客の、完全に予想通りになって完膚なきまでに現実的な終了を突きつけてくるラスベガスでのシーン。

そして順当に「成功者のレール」から脱線して、人間らしさが爆発する雪が降る車でのラスト。すごく新鮮な作品だと思います。

●アカデミー賞

https://x.com/neonrated/status/1896406771948044795

作品賞は『ANORA アノーラ』だったかー!

監督賞と脚本賞と編集賞(と主演女優賞)も獲ったから、事実上の完全制覇と言えるでしょうね。

ショーンベイカー監督は1つの作品で4つのオスカー像は最多新記録だそうで。まあ、これは編集権を監督に渡すのが一般的になりつつある時代の変化のお陰というのもあるだろうでしょうけど。かつては分業するのが業界の掟でしたから。とはいえ、快挙であることには変わりないですね。おめでとうございます!

●キービジュアル

やっぱり【ANORA アノーラ】のポスターはこのクライテリオン版が至高だと思います。

https://x.com/Criterion/status/1896594126659010568

これなら王道なシンデレラストーリーだと誤解して期待しちゃうリスクも低いですし、実際の映画が展開を読めない脚本になってるのともマッチしてます。

映画を観て赤いスカーフがどう使われたかを知ってると、そんなものを一枚だけ身にまとってストリッパーとして逞しく生きるアノーラの人生観みたいなものが見えて、また味のあるBDジャケットですね。

(了)

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