日本人の物語01404【アイヌ神話】アイヌ神話総括
かなり短いチャプターになってしまいました。次も多分そこそこ短くなります。
アイヌ神話について語ってきました。これらの神話は『ユーカラ』と呼ばれる叙事詩として仕上げられていますが、アイヌ語には文字がないため口伝でのみ伝えられてきました。この『ユーカラ』が文字となったのは明治時代のことです。
大正7(1918)年、国語学者・金田一京助が北海道登別市の金成マツ(かんなりまつ:1875~1961)という女性の家を訪れ、『ユーカラ』について詳細な聞き取りを行いました。ちなみにマツは産まれたときはイメカヌという名でしたが、明治政府から和人らしい姓名を名乗るよう義務付けられたことから、「金成マツ」になったそうです。
このときマツの養女として同居していたのが、マツの妹の娘に当たる知里幸恵(ちりゆきえ:1903~1922)でした。幸恵はアイヌ語も日本語も堪能な上、学問的な才能も豊かで、マツから聞かされた『ユーカラ』を書き留めていました。大変貴重な原稿であり、金田一は
「共にユーカラを文字として保存する活動をやろう」
と幸恵を東京に誘います。
東京の金田一宅に下宿した幸恵は稀有な才能を発揮し、アイヌ語を言語として整理して金田一に教えました。その傍ら、『ユーカラ』を長年書き留めてきたものを日本語に翻訳し、『アイヌ神謡集』として出版しました。この出版物がアイヌ語を保存する上で決定的な役割を果たすこととなりました。
しかし幸恵は重い心臓病を患っており、19歳で世を去ることとなりました。まさにアイヌ神話を世に残すことだけに捧げた生涯でした。
幸恵の死後は、その弟の知里真志保(ちりましほ:1909~1961)が活躍します。真志保は幼い頃から天才的な才能を発揮し、東京帝国大学に入学後、アイヌ語を言語学的に研究して多くの業績を上げました。その学問は言語に留まらず、民俗学、風俗、歴史研究にまたがっています。
さらに知里真志保の死後は、北海道平取町出身の萱野茂(かやのしげる:1926~2006)がアイヌ研究者として活躍しました。萱野は平成6(1994)年から参議院議員を務め、史上初めてアイヌ語で委員会質問をしたことでも知られています。
金成マツとその姪である知里幸恵のおかげで記録されたアイヌ神話は、多くの戦いを含んだファンタジックな話ではありますが、自然と人の対立と共生を含んだストーリーと捉えられています。日本人にとって日本神話、琉球神話とともに保存していくべき貴重な遺産といえるでしょう。
この連載の参考文献については、一覧にしてそのうち公開したいと思っていますが、とりあえずアイヌ神話の参考文献だけをここに列挙しておきます。
知里幸恵『アイヌ神謡集』岩波文庫
萱野茂『アイヌと神々の物語』ヤマケイ文庫
高安正明『面白いほどよくわかるアイヌ神話』ミスペディア編集部
新谷行『ユーカラの世界』角川書店
山本多助『カムイ・ユーカラ』平凡社ライブラリー
