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日本人の物語00081【神代】オオクニヌシ誕生

 スサノオの試練を次々とクリアしたオオアナムジでしたが、続いてスサノオはオオアナムジに対し、自分の頭の虱(しらみ)をとるよう命じました。ところが、スサノオの頭を見てみると、そこにいるのは虱ではなくムカデだったのです。これまたスサノオの嫌がらせと思われますが、スサノオ自身も嫌じゃないのかなあと不思議に感じてしまいます。
 ここでまたスセリビメが助け舟を出してくれました。オオアナムジに椋の実を渡し、
「椋の実を噛んでプチプチと音を立てれば、きっと父はあなたがムカデを噛み殺していると勘違いしてくれるでしょう」
と言うのです。言われたとおりにすると、スサノオは作戦通り満足して眠ってしまいました。
 さて、これまで助けられてばかりでちっとも主体性が見られなかったオオアナムジが、ここへ来て俄然攻撃的になります。オオアナムジは眠っているスサノオの髪を束ね、部屋の太い柱に結び付けて動けないようにしました。そしてスセリビメを背負って逃げ出すのです。
 オオアナムジは、この機に乗じて太刀と弓矢と琴を失敬して行こうと考えました。ところが、琴をうっかり落としてしまい、大きな音を立ててしまいます。その音でスサノオは目を覚ましてしまいました。スサノオは2人を追いかけようと立ち上がりますが、髪が柱に結び付けられているため、家が倒れてしまいました。
 2人は逃げ始めます。スサノオは追いかけますが、髪がほどけず、家を引きずりながら追いかけるのでスピードが出せません。それにしてもものすごい力です。老いたりといえ、さすがスサノオです。スサノオは2人を追いかけて黄泉比良坂までやって来ますが、そこで諦めて立ち止まります。そして大きな声でオオアナムジに呼びかけました。
「これからはオオクニヌシと名乗るが良い! そしてその太刀と弓矢で兄たちを倒し、我が娘を正妻として、出雲の山に壮大な宮殿を建てよ!」
 ここで、「黄泉比良坂は黄泉の国の入口じゃなかったっけ? なぜ根之堅州国の入口を黄泉比良坂というの?」と思った方、良い質問ですが、専門家の間でも答えは出ていません。
 オオアナムジ改めオオクニヌシは、スサノオから奪った太刀と弓矢で兄らを倒します。古事記では、兄らを倒す場面の詳細は描かれていませんが、いつの間にか強くたくましい男に成長したようです。スサノオの試練を乗り越えて一皮むけたということでしょうか。
 そして婿に嫌がらせばかりしていたスサノオも、最後には潔く結婚を認めたようですね。ヤマタノオロチを倒したときのスサノオと、オオアナムジに試練を出すときのスサノオとは、若干キャラが異なるようにも思われますが、暴れん坊が円熟して癖のある壮年男性になったというのは何だか頷ける気もします。
 芥川龍之介に『老いたる素戔嗚尊』という短編があります。老いたスサノオは若い頃持っていた冒険心を失い、静かに暮らしていたところ、オオアナムジの来訪によってかつての蛮性を取り戻します。最後は娘を奪われるものの、悔しさよりもすがすがしい大らかな気持ちで若い二人を見送るというものです。心境の変化が実に面白く描写されている名品です。

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