Photo by
turara_note___
清掃員、名前の呼ばれない場所で
清掃員として働く私は、派遣先の介護施設で名前を呼ばれることはない。
「派遣会社名+さん」だ。
それが思いのほか、私の心に自由を与えてくれた。
名前。
新入社員として入った会社、子どもが入園した幼稚園。
人の名前をすぐ覚え、気軽に呼びかけてくれる。そんな人に、私はアウェイの地で居場所をもらえたような気がして、何度も救われてきた。
私にとって、人の名前は重い。
忘れるのも間違えるのもご法度。
湯婆婆が従業員の名前を奪って支配したように、名前は相手の存在そのものを象徴するもののように思えるからだ。
会社員時代、メールを送るために一度も話したことがない人のフルネームを把握している状況は、どこか奇妙だった。
CCのリストを確認する緊張感。
顔より先に座席表で覚える名前。
席に別の人が座っていたら、もう誰だかわからない。
名前と座席表が、そのまま世界の地図になっていた。
当時、名前ではなく「派遣さん」と呼ぶ同僚を見て、相手の存在を薄めているなと感じたことを覚えている。
それでいて、私も退職した人の名前はすぐ忘れてしまっていた。
今の職場は、個人名があまり聞こえてこない。
お年寄りたちは、少しずつ名前が消えていく。
そして私も、誰の名前も覚えない。
私は、名前に縛られていたんだろうか。
名前を呼ばれなくても、たしかにそこに居場所があると感じられる。
