北欧の夜に揺れるボッサ ―― レッド・ノーヴォとバーニー・ケッセル、1974年コペンハーゲンの『イパネマの娘』
レッド・ノーヴォ Red Norvo(1908–1999)は、ジャズ黎明期から活動したヴィブラフォン奏者で、もともとは木琴やマリンバを演奏しながら、その響きをジャズの語法に定着させた先駆的存在です。イリノイ州ビアーズタウン生まれ。若い頃、最初のマリンバ購入のために愛馬を手放したという逸話が残るほど、楽器への情熱を持っていました。1920年代にシカゴでキャリアを始め、ポール・ホワイトマン、ベニー・グッドマン、チャーリー・バーネット、ウディ・ハーマンらの楽団を渡り歩きます。妻ミルドレッド・ベイリーとの共演では“Mr. and Mrs. Swing”と称され、ビリー・ホリデイやフランク・シナトラとも録音を残しました。
1974年、デンマーク、コペンハーゲンでのコンサートで演奏されたのが、ボッサ・ノヴァの名曲 The Girl from Ipanema。この夜の編成は、ギターに バーニー・ケッセル Barney Kessel、ベースに ラリー・リドリー Larry Ridley、ドラムスに ドン・ラモンド Don Lamond。ノーヴォの柔らかく粒立ちの良いヴィブラフォンが旋律を導き、リズム隊が軽やかな揺れを与えます。
個人的に強く惹かれるのは、やはりバーニー・ケッセルのギターです。コードの置き方、単音フレーズの間合い、そして音色のコントロールが絶妙で、主役を立てながらも楽曲全体の空気を一段引き締める。決して前に出過ぎず、それでいて要所で存在感を示す——そのバランス感覚が、この演奏を単なるスタンダードの再演ではなく、成熟したジャズ・ボサの名演へと押し上げています。ノーヴォの長いキャリアが培った品格と、ケッセルの円熟したギターが交差する、静かな説得力を持つ一曲です。
