見出し画像

丸刈りーだ【アマノ文筆クラブ】

 世界ピッツァ選手権で、賞を取った。


 受賞で店は救われた。
 それは良いとして──。


 飲食業は甘くない。受賞ピッツァ、その一枚だけで何十年もやれるはずがないのだ。
 店を支えるためには、次の味が必要だ。

 試行錯誤の末、ついにそれを完成させた──。


『丸刈りーだ』


 名前は、私の髪形から着想を得た。
 時間をかけた答え。
 そう。それは『マルゲリータ』の亜種なのだ。いける!


 ──これが、ドすべりした。


 まったくだ。
 まったく、注文が入らない。

 よくよく考えれば、そうだ。
『マルゲリータ』も店のメニューにあるのだから。
 得体の知れない『丸刈りーだ』など、誰が頼むものか! 定番を頼むに決まってるじゃないか!


「……味には自信があるんだ。
 食べてもらうことさえできれば、『丸刈りーだ』を気に入ってもらう自信はある。
 だが、どうやって──。」

 閉店後の厨房で、思わず漏らした言葉だった。
 それを、アルバイトのマイちゃんに聞かれた。


「店長、髪を伸ばしたらどうですかぁ?」

 ……私は、ちょっと何を言ったらいいのかわからなかった。
 本気なのか冗談なのか。マイちゃんは笑みを浮かべながら言った。

「『丸刈りーだ』を食べると、髪が生える。
 店長もフサフサになっちゃった!
 ──そのウワサだけで、食べたいと思う人、けっこういると思うんですよねぇ。
 あたし、拡散しておいてあげますね。」


 ──そうして。


 私の髪が伸びるほどに。


『丸刈りーだ』は、飛ぶように売れた。

《生えてきた気がする!》
《抜け毛が減った感じがある!》


 店のレビューにも、そんなコメントがつくようになってしまった。
 いたたまれなくなって、私は注意喚起することにした。

《医学的な根拠はありませんので悪しからず──。》

《そんなはずはない! 事実、俺は生えてきた!》
《本当に効果があるから隠そうとしている!》
《というか、効果がなくても単純に美味い!》


 こうして、ネットから火がついた『丸刈りーだ』は大人気商品となった。
 私も、ピッツェリアチェーン『俺の丸刈りーだ』を展開することになった。


「……店長も、これでピッツァ界の『丸刈りリーダー』というわけですねぇ。」

 私は、すっかり伸びた前髪を掻いた。





 参加させていただいたのはこちら。

いいなと思ったら応援しよう!

この記事が参加している募集