曼殊沙華は恋をする【毎週ショートショートnote】
「実験用の検体は、すべてが同一の遺伝子体だ。近交系マウスと同じように。」
「へえ、曼殊沙華にも似ていますね……。」
「──君には、その管理から任せたい。」
厳重な扉をいくつも抜けて、その部屋に辿り着いた。
覚悟はしていたのだが、異様だ。
まったく同じ顔かたちの少女が5人、一斉に振り向いた。人体実験用の近交系ヒューマンだ。
「作り方はマウスと同じ。
ただし、こちらは国家機密だ。この国の先端医療の正体がこれだ。
君は曼珠沙華と言ったが、まさに彼岸の花と言える。消耗品だ。」
所長は言う。意図して感情を殺しているのか、それとも、最初から何も感じていないものか。
「そうでしたか。でも、それも今日で終わりです。所長。」
所長はこちらの意図がわからず、呆けた表情をしている。そこへ、無言の鉄拳を叩き込んだ。
「逃げるぞ!」
曼珠沙華に伝えた。が、そこで疑問が浮かんだ。
──通じるのか? 言葉が。
しかし、それは杞憂だった。少女たちの瞳に、光が灯ったのはそのときだ。
曼珠沙華を彼岸から連れ出す。
脱出は、いま始まったばかりだ──。
完
(本文458字)
参加させていただいたのはこちら。
