Phil Collins 『Face Value』~ 「中途半端なポップさ」が美味な1stソロ
ドラムマシン(Roland CR-78)のチャカポコした音色で幕をあける『Face Value』は、フィル・コリンズのソロ第一作目にあたるアルバムだ。
で、(いきなり話が飛んでしまうが)私がリアルタイムで最初に聴いたフィルのアルバムはソロ三作目にあたる『No Jacket Required』である。

アメリカ、イギリスをはじめとして全世界で特大ヒットを記録したこの作品集は、すべての曲をシングルにしても違和感ない「無敵のポップアルバム」と呼ぶにふさわしい傑作で、当時中学生だった私は夢中になって聴きまくったものだった。
自分にとって「青春の一枚」という言葉がピッタリくる作品である(笑)
次に聴いたのは、これまたポップ色全開のジェネシス名義でのアルバム『invisible touch』、その次はやはり大ヒットを記録したソロ作『bad ...seriously』だった。
他にも、それらのアルバムには未収録のシングルまでもが次々とヒットしていく有様をリアルで見ていた当時の私は、フィル・コリンズというアーティストを「ヒットポップス量産職人」という認識で捉えていた。
そんな私が後追いの形で『Face Value』を聴いた時の第一印象は
「……ん?🙄」だった。
ひと言でいうと「地味」なのだ。
ミドル〜スローテンポの曲で占められた、全体的に陰りを帯びた作風であり、曲もポップには違いないのだが、有無を言わせぬキャッチーさでヒットチャートを制圧していた頃のフィルに比べると中途半端なポップさなのだ。
『No Jacket Required』の洗礼を受けた浅はかなポップス少年だった当時の私には「コレのどこがいいんだろう?」くらいにしか思えなかった(笑)。
そんな私の『Face Value』に対する印象がガラリと変わったのは2016年に出たリマスター盤を聴いた時である。
ドラムの音の迫力がはるかに増しており、旧盤では聞こえなかった細かい音やアレンジの妙が意識せずとも耳に入ってくる。
まさに再発見の連続である。
「こんなに良いアルバムだったのか…」と目からウロコ😳な気持ちになった。
歳を重ねるとともに色々な音楽に触れ、自分で音楽も作るようになった私の耳には、そのリマスター盤の音は25年前に聴いた『Face Value』とはあまりにも違って聞こえたのだ。
考えてみれば、『Face Value』を初めて聴いた時は、レンタルした旧盤CDをカセットテープにダビングして、それを安いラジカセで聴くという状況だった。
それじゃあ、このアルバムの良さは半分も理解できないかもしれない。
私は音楽を聴くにあたって音質にはそこまでこだわらない方だが、やはりあまりにショボい音質、環境では伝わるものも伝わらないというコトを痛感した。
また、先述の文章に「中途半端なポップさ」と書いたが、それはあくまで『No Jacket Required』に比べてであって、ここでのフィルは今まで自分がやってきた音楽をよりポップに、耳なじみのよいものとして提示しようとしているのが分かる。
そして、かつては「中途半端」に感じられた、このアルバムの持つポップさが今の自分にはとても美味に感じられるのだ。
↑アルバム3曲目にあたる「behind the lines」は、これの一年前に発表されたジェネシスの名盤『Duke』の冒頭をかざる同曲のセルフリメイク・バージョンである。
ジェネシスのバージョンがスケールと重量感あふれるロックナンバーだったのに対して、フィルのソロバージョンはポップで軽やかなアレンジがほどこされており、同じアーティストの同じ曲とは思えないほど印象の違う仕上がりになっているのが興味深い。
この「軽い仕上がり」であるフィル・バージョンにおけるグルーヴ感も素晴らしく、フィルのドラマーとしての有能さがしっかりと生かされている。
フィルのソロ音楽のトレードマークとなるフェニックス・ホーンがここですでに導入されている所も見逃せない。
↑はアルバムからシングルカットされ、中ヒットとなった曲で、ここでもフェニックス・ホーンが効果的に使われている。
メロディ自体はシングル曲としてはやや地味で、フィルの歌声もチャートバスターと化した80年代後半の自信みなぎる歌唱に比べてやや控えめに聞こえる。
アルバムからの最初のシングルにしてジェネシスのアルバムに入っていてもおかしくない「In the Air Tonight」があったと思えば、フィルのソロというにふさわしい、しっとりとしたバラード「This Must be Love」「If you Leaving me is Easy」「You Know What I Mean」もある。
また、Brand Xへの参加が影響しているのか、「Thunder and Lightning」「I'm not Moving」のような軽快な曲にはフュージョンの香りも感じられる。
つまり、このアルバムには当時のフィル・コリンズの「これまで」と「これから」がまんべんなく散りばめられているのだ。
巨大化していくジェネシスのフロントマンの役割を背負い、同時期にプライベートでの問題も抱えていたフィルが、息抜きとして作ったと思わせる気負いのなさがこの1stソロ作には感じられる。
その軽さや余裕がこのアルバムの魅力であり、どの曲も完成度が高いのだが、フィル・コリンズを「ヒット曲職人」として捉え、後追いで聴いた私の耳には「中途半端」にしか聴こえなかった。
そして本作の真価を理解するには思った以上の時間を要してしまった…
10年前にリマスター盤を購入した私は、一方的な誤解を詫びるような気持ちで本作を繰り返し聴いた。
そして気がつけば、自分がいちばん聴いたフィルのソロ作は『Face Value』なのかもしれない。
すべてをなぎ倒さんばかりの勢いとポップさに満ちた『No Jacket Required』が私にとって永遠の名盤である事に今も変わりはない。
だが、当初は「コレのどこがいいんだろう?」くらいにしか思えなかった中途半端なポップさが持ち味の『Face Value』も歳を重ねるほどに好きになってきている。
