「E-GS131」(一瞬しか登場しない)
「車、好きか?」
俺は、一時の感情に流された。
18歳の2月初めに東京で面接。大阪有線の内定。2週間後までに書類を返送してくれとの事。なるべく地元に配属するが、転勤は全国。クソババアとヘタレ伯父と別れられるのも良いかと、決めたのだ。
小学校高学年から憧れてた仕事は「自動車整備士」。
高校からソレは2番目になり、現在一番なりたいのは「ミュージシャン」。
「せんせ。ちょっと良いかな。」
高校の担任に、家庭のこと、仕事のこと、今更だが聞いてもらった。
「解った。会社にはコッチから先に連絡する。そうだな、、、木曜日13時頃お前からも謝罪の電話しとけ。けじめだ。5月から仕事したいと。そんな都合の良い会社、無いだろ。自動車屋だろ。ちょっと待ってろ。色々聞いてやる。」
タバコとカビ臭い、旧車熟成され途中の「豚鼻 マーク Ⅱ」の車中相談。いつも飄々としてる先生だったが、良い大人。又々今更、再評価してお礼を告げた。後に「呑み友」の一人になると想像もして無い。
想像通り、ババアは発狂、伯父は興味無し。こんなもんかと俺、落胆。戸籍上の父は、3回目の失踪中だ。借金と会社の金ちょろまかして。最後の頼りにしたい大人に先生を選んで正解。
背、ちっちゃ。ガタイ良い。マジ顔とニコニコ顔の切り替わり早っ。丸刈り!雰囲気怖っ!友達付き合いしてる先生と話してる顔が、普段の表情かな?奥さん綺麗〜癒やされる。
「ゴールデンウイーク明けから、働きたいって?理由は?」
「はい。一番の夢を叶えて、ダメ出し貰って、諦める為です。1ヵ月だけミュージシャンしてきます。」
「整備は2番目ね?」
「、、、、、、はい、」
「車、好きか?」
面接はコレだけ。
3月の終わりから、ゴールデンウィーク明けまで、元バンドメンバー同学年のギターと、同居生活。同じバイト、同じ恵比寿の事務所。一度だけ、1日2ステージライブを金貰って演って、退所。
これからは自動車整備士。帰って来てからババア、伯父共に無視されまくってる。どうでもいいや。
KTCの工具一式、ワゴン事渡される。消耗品やら、何やら置いてある所を説明される。
「半年は、工具貸すけど、自分で買え。すっげぇ頑張って背伸びした物買え。大事にするだろ?無くさないよな。つまり、お客の車に置き忘れる確率が減る。今日は洗車だな。ウチのやり方を教える。」
は〜。すっげ丁寧。ピッカピカやん。
「他はどうか、知らねっけど、ウチはコレが基本。整備したってよ、出来上がりの違い、客は解んねっペ。エラくキレーになってたら、喜ぶっぺよ?しばらくはチェック入れっけど、オメの仕事だ。後、車検整備も教える。俺が居ね間、洗車だけ、工場の整理整頓だけじゃ、金になんね。おれとオメしか、時間工賃、発生しねっぺよ。」
10時と3時にお茶。お昼は、ウキウキウォッチングしながら1時間。1日のルーティーンは、ほぼ覚えた。
「コレ、社長のですか?」
「ああ。〇〇社長に「コレぐらい乗ってね〜と、バカにされっぞ!」って言われて。別に台車いっぺー有るから要らね!って言ったらよ、〇〇社長が、▲△社長を突然紹介してきてよ、▲△さんのお下がり。この二人が、最近又、やいのやいの言ってきてよ、もう変えろって。お古まだ乗ってんのか!ってよ。」
MS-85HQ 3代目クラウン2600cc。深いブルーメタリック。俺は余り興味が無い。スポーツカーとか、2ボックスタイプが好みだ。社長、車にコダワリ無い?
「お〜〇〇君!小学校以来かな。元気そうだ。これから宜しく!」
元気なヒゲオヤジ。同級生に、親が自動車屋やってる子が3人居た。そのうちの一人。俺と同じく、母親無しという境遇で、仲良くなった娘の親だ。俺は、ほぼ父親も居ないけど。
「うわ!ハーレーっすか。相変わらず好きっすね。■ちゃんも元気っすか?」
?。俺はバイクが気になって仕方ない。ヒゲオヤジも自慢してくる位好き。社長は愛想笑いで、お茶に呼んでる。あれ?やっぱり、、、
「ああ、好きじゃない。初めは好きで初めたぞ。マツダ好きだったから、マツダディーラーで修行した。30歳の時、同じ職場で事務やってた「ウチの」と、ココに工場建てて独立。その頃から、もう興味無かったかも。子供産まれて、この地区に馴染むこと、食っていくことで一杯だったからな。今は、料理と酒が趣味だな。言っとくけど「嫌い」じゃない。「好きじゃない」だかんな。」
とか言ってた社長。2年後、スーパーチャージャー付きのクラウンに乗り換えた。「やっぱ、加速たまんね〜じゃん。相変わらず乗り心地と静かさ良いし。」この頃から「社長」から「オヤジ」呼びに変わった。師匠。気の良い兄貴。優しい父親。付き合っていくうちに、血の繋がってるバカ共より、甘えられる存在に変わっていたから。んなこと、恥ずかしくて「言葉にできない」20歳の春の出来事。
