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ラーメン屋のバイトは、想像以上に楽しかった話「やりたいこと」と「やらなきゃいけないこと」


「やりたいこと」と「やらなきゃいけないこと」


人生って、この二つの間を行ったり来たりしている気がする。
俺にとって、このラーメン屋のバイトは「やらなきゃいけないこと」から始まった。家計のため、家族のため、自分のスキルアップのため。理由は色々とあったけれど、ぶっちゃけ、疲れやストレスで嫌になる日も来るだろうと、心のどこかで身構えていた。
でも、本当は心の奥底で、密かに「やりたい」という気持ちを、このバイトに託していた。
それが、まさかこんなにもハマるとは思ってもみなかった。
初めて厨房に足を踏み入れた日、むわっとした熱気と、豚骨スープの香りが鼻腔をくすぐった。慣れない手つきで丼を拭き、テーブルを運び、お客様の「いらっしゃいませ」の声に、喉が張り付くような緊張を感じた。
ある日、洗い場で器を重ねていたら、店長に「おい、それじゃ皿が割れるぞ」と厳しい声で指摘された。一瞬、心の中で「まだ教わってないし…」と反発心が湧き上がった。でも、次の瞬間、その言葉を素直に「申し訳ありません!」と受け止めている自分がいた。
本業の現場では、プライドが邪魔して素直になれないこともあった。でも、ここでは、ただ純粋に「うまくなりたい」という気持ちが、すべての鎧を剥がしていく。失敗を一つ乗り越えるたびに、自分が少しずつ成長しているような、そんな喜びを感じる。
客席から「大将、ごちそうさま!」「今日のラーメンも最高だったよ!」という声が聞こえる。厨房では、店長が黙々と麺を茹で、俺は湯気を上げる寸胴鍋の前で、黙々とスープを混ぜる。額から流れる汗を拭う暇もないほど、時間はあっという間に過ぎていく。
スープの色、麺の固さ、盛り付けのバランス。一つ一つの作業に、なぜか心が満たされていく。家計のため、家族のためという最初の目的は、いつの間にか「もっと美味いラーメンを出したい」というシンプルな衝動に変わっていた。
そして、ふと思った。
「ああ、俺はいま、夢中になってるんだな」
“いつもの”一言が、俺の背中を押してくれた
ある日の夜、閉店間際に一人の常連客が来店した。彼はいつもカウンター席の隅に座り、何も言わずにラーメンをすすっては、静かに帰っていく。その日も、いつものようにラーメンを出し、下げ膳をしていた。
店長は奥でまかないの準備をしていた。ふと、その常連客が俺に小さな声で話しかけた。「あんた、最近入った子かい?」。俺が「はい」と答えると、彼は少しだけ口元を緩めて言ったんだ。「なんかね、あんたがここにいてくれると、ホッとするんだ。いつもありがとう」。
その一言が、身体の芯まで染み渡るような感覚があった。俺の仕事は、ただスープを混ぜて、麺を茹でて、運ぶだけじゃない。誰かの日常に、小さな安らぎを届けることができるんだ。本業では味わったことのない、「誰かの役に立っている」というダイレクトな喜びが、胸にじんわりと広がった。
“好き”という感情が、思考の地図を塗り替える
バイトを始めてから、俺の生活は大きく変わった。朝起きるのが億劫だったのが、今日はどんなお客さんが来るだろう、どんな新しい仕事に挑戦できるだろう、とワクワクするようになった。疲れていても、不思議と体が軽かった。
休日は、他のラーメン屋の食べ歩きをするようになった。以前は「ラーメンなんて、どこも同じだろ」と思っていたのに、今ではスープの濃度、麺の太さ、チャーシューの炙り方など、細かな違いがわかるようになった。まるで、新しい言語を覚えたみたいに、世界の見え方が変わった。
ラーメン雑誌を読み漁り、店長に「このスープの隠し味って何ですか?」と質問を重ねた。店長は、最初は怪訝な顔をしていたけれど、やがて俺の質問に丁寧に答えてくれるようになった。「好き」という感情は、こんなにも人を熱中させ、新しい世界への扉を開いてくれるんだと、改めて実感した。
あなたの「やりたいこと」は、何ですか?
疲れて帰った日の夜、ぼんやりと天井を見上げながら考える。
ラーメン屋を本業にしてもいいかもしれない。
そう考えたのは、これが単なるお金を稼ぐ手段ではなく、自分自身を生き生きとさせてくれる場所だと気づいたからだ。「やらなきゃいけないこと」が「やりたいこと」に変わったとき、人生はこんなにも豊かになるのか。
あなたは、やりたい仕事をできていますか?
その仕事は、あなたを夢中にさせていますか?
このバイトは、俺にそんな問いを投げかけてくれた、大切な経験です。

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閑野 怜 | 📷 記憶を現像するフィルムエッセイ 最後まで読んで頂きありがとうございました🙇 宜しければ応援して頂けると励みになります☘️ 活動費に役立てさせて頂きます🙇