🐴 Aussieオーストラリア、馬と暮らした物語 <3>🐴
【第3話】ポニークラブの競技会
—アップルボンビングって、何?—
ポニークラブに入って1年くらい過ぎた頃、競技会についての案内があった。
「競技会」と聞いて、私はすぐに想像した。馬が一列に並んで、よーいドン、と駆け出す。そういう、わかりやすい勝負だろうと。
実際は、まったく違った。
もっと自由で、もっとにぎやかで、どこか温かい熱気に包まれたものだった。
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競技会の日、子どもたちはそれぞれ、その日乗る馬と向き合う。
馬はとても賢くて、子どもたちのことをよく覚えている。
だからこそ、気の合う馬を見つける楽しさがある。一度気に入ると、毎回その馬に乗りたくなる。けれど、性格の良い馬はみんなに人気がある。なかなか思うようにはいかない。
「今日はよろしくね。」
そんな気持ちを込めながら、Rinaはある一頭の馬の首をそっと撫でていた。
その馬こそがJackだった。
額から鼻筋にかけて、星が流れるような白い線が入った、堂々とした雰囲気のある馬。どこか渋くて、つい「イケおじ」と呼びたくなるような風格がある。毛色がウイスキーの「Jack Daniel's」みたいだから、そう呼ばれるようになったらしい。
乗りやすかったのか、それともただ「大きい方がかっこいい」と思ったのか。理由はわからないけれど、気がつけばいつもJackの前に立っていた。
このときはまだ知らなかった。このJackが、この先長く付き合うパートナーになっていくことを。

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競技会には、いくつかユニークな種目があった。中でも印象に残っているのは、2つ。
ひとつは、Barrel Race(バレルレース)。
3つのドラム缶(バレル)を倒さないように回りながら、できるだけ速くゴールする競技だ。小さな馬は小回りがきく。大きな馬はどうしても大回りになる。けれどその分、直線では力強いスピードが出る。
競技の合間には、インストラクターによる模範演技も披露された。
まっすぐ走る馬はいつも見ていたが、バレルの周りを低姿勢で力強く回り込む姿は、また別の美しさがあった。
馬と人が一体になって重心を傾け、砂を蹴り上げながらコーナーを抜けていく。

RinaはJackとこの競技に挑んだ。Jackの大きな体をRinaが懸命にコントロールし、ふたりで砂煙を上げて駆け抜ける姿は、とても生き生きとしてまぶしかった。
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もうひとつは、Apple Bombing(アップルボンビング)。
日本では、まずお目にかかれない競技だ。馬で走り、下馬して、水の中のリンゴを口だけでつかむ。どこからこんな競技を思いついたのだろう。思わず笑ってしまった。
競技が始まると、子どもたちは迷わない。バシャッと勢いよく水に顔を入れ、ためらうことなくリンゴをくわえる。顔を上げたときには髪も顔もびしょびしょで、それでも気にする様子もなく、すぐに走り出す。もたもたしていると抜かされる。だからみんな、思い切りがいい。

その一生懸命な姿を見て、夢中で「Go!Go!GO!」と連呼していた。
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観客のほとんどは親たちだったが、その応援はとても本気だった。名前を呼び、声を張り上げ、まるで自分が走っているかのように叫ぶ。パドックの空気が、どんどん熱くなっていく。子どもたちは思いきり馬と走っていた。
思えば、ここでは親も観客ではなかった。子どもが走れば親も走る——そういう場所だった。オーストラリアでは、それが当たり前なのかもしれない。気がつけば、私たち家族もすっかりその空気に染まっていた。
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各競技が終わると、表彰式が行われる。栄光のリボンは、ともに駆け抜けた馬の首にかけられる。誇らしげな馬の姿と、寄り添う子どもの笑顔。その光景に、胸がいっぱいになった。

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この日から少しずつ、Jackは「クラブにいるお気に入りの馬」ではなくなっていった。
気づけば、家での会話にJackの名前が出るようになっていた。「今日のJackはね」「Jackってさ」——そんな言葉が、日常のあちこちに顔を出すようになっていた。
馬との暮らしは、クラブの外にまで、少しずつ染み出してきていた。
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