子供とカエル

#創作大賞2026
#オールカテゴリ部門
#舞台脚本
#演劇
#元禄時代
#徳川綱吉

あらすじ
爺さまが、通りすがりに畦道でカエルを
小枝で叩いている子供見つけ、
その子供にカエルが痛がっていると伝えるが、
子供はカエルの気持ちなんてわからないと言う。
そこで爺さまはオマエがカエルになったらその心が分かると
言いい子供にカエルになってみろ、と言うが・・・。

第一幕

登場人物
爺(じ)さま 六十歳
子供 八歳
カエル

 第一場
時は元禄十五年、綱吉公の治世。
ひぐらしの鳴く夏が終わりに近づいた頃。
ある村はずれの田んぼの畦道で子供が一人、
小枝を持ち一匹のカエルを叩いて遊んでいる。
そこへ通りかかった爺さま。

爺さま「コレコレ子供、そのようにカエルをいじめてはならん。
   カエルが可哀想ぢゃ」
   ト、子供、後ろを振り向くコナシ。
子供「カエルが可哀想だって?」
爺さま「そうじゃ、カエルは痛がって泣いておるぞ」
子供「へっ、カエルが泣くもんか」
爺さま「カエルの顔をよく見るのぢゃ」
   ト、子供、カエルの顔を覗き込むコナシ。
子供「泣いてなんかいないよ。ケロッとしてるよ」
爺さま「良く見るのぢゃ、じっとカエルの顔を見るのぢゃ」
   ト、子供、しゃがみ込んでカエルを掴み
   目の前に持ってきてじっと見るコナシ。
   カエルがケロ、ケロとか弱く鳴く。
子供「本当にこのカエル、痛くて泣いているの?」
爺さま「そうさな、このままでは分からんかも知れぬな。
   そうぢゃ、オマエがカエルの気持ちになって見ると良いのう」
子供「カエルの気持ち?どんな気持ちだい?」
爺さま「オマエがカエルになったと思うのぢゃ。
   そうすればカエルの気持ちも分かろうと言うもの」
子供「どうやってカエルの気持ちになるんだい?」
爺さま「まず、目を閉じるのぢゃ。そうして十、数えるのぢゃ。
   数えながら俺(オラ)はカエルぢゃ、俺はカエルぢゃと
   心の中で思うのぢゃ」
子供「ウン、分かった。やって見るよ」
   ト、子供目を瞑るコナシ。
子供「ひい、ふう、みぃ、よぉ・・・とお」
爺さま「どうぢゃ、カエルになれたか?」
子供「オラ、オラのままだ。カエルにゃなれねえよ」
爺さま「イヤイヤ、なれるとも。立派なカエルになれるぞ。
   も一度やってごらん。そうだ、オマエは立ったまま
   だからうまく出来んのかも知れぬな。
   それ、カエルのように四つん這いになるのぢゃ、
   そうすれば上手く行くかもしれぬ」
   ト、子供四つん這いになり爺さまを見上げるコナシ。
子供「こうかい?」
爺さま「そうぢゃ。なかなか立派なカエルぢゃよ。
   そうしてもう一度さっきのように目を瞑り、
   心の中でオラはカエルだ、オラはカエルだ、
   と唱えるのぢゃ」
   ト、子供、目を瞑り唱えるコナシ。
爺さま「どうぢゃ、カエルになったか?」
子供「いいや、まだまだ」
爺さま「そうぢゃ、四つん這いのそのままではいかん。
   カエルのようにピョンピョン跳ねて見るのぢゃ。
   そうすれば立派なカエルになれようぞ」  
   ト、子供は辺りをピョンピョンと跳ね回るコナシ。
爺さま「そうぢゃ、そうぢゃ、立派なカエルぢゃ」
子供「オラ、カエルだ、カエルだ」
爺さま「ならば、カエルになったオマエをオマエが
   小枝で叩くのぢゃ」
子供「えっ、今、オラはカエルだよ。オラはカエル
   でオラがオラを叩くのか?」
爺さま「ウム、それもそうぢゃな。よし、ではワシがオマエ
   になろう。ではこの小枝でオマエをいや、カエルを叩くぞ」
   ト、爺さまが子供を叩くコナシ。
爺さま「どうだ、痛いか?痛いかえ?」
子供「痛え、痛えよぅ。もう、やめてくれよ!」
爺さま「これでカエルの痛みがわかったな。
   よしよし、もうカエルからオマエに戻って良いぞ」
   ト、子供、四つん這いから立ち上がるコナシ。
子供「よく分かったよ、爺さま。あっカエルがピョンピョン
   跳ねていった!」
   ト、子供はカエルを真似てピョンピョン跳ねるコナシ。
爺さま「良かった、良かった。これでオマエも他人(ひと)
   の気持ちが分かる人間になれたと言うものぢゃ。
   しかしな、カエルばかりでなく鳥に
   も魚にも虫にも花にも心はあるのぢゃ」
子供「えっ、魚にも虫にもか?」
爺さま「そうとも。魚や虫を取ったりした時はな、
   その顔を見て話しかけて見るのぢゃ。
   そうすれば魚や虫は機嫌ようなる。
   花だってそうぢゃ。花を見たら話しかけて見るが良い」
子供「えっ、どう話しかけるの?」
爺さま「そうぢゃな、例えば、オマエは可愛いな、
   よくオラの所へ来てくれてありがとう、とかな。
   魚などは広い川や海に住んでおるがそれがオ
   マエの所へ来たと言うのも何かの縁ぢゃて」
子供「オラはトンボが好きだ。魚も好きだしドジョウ
   も可愛い、花は綺麗だな」
爺さま「そうぢゃ。そうぢゃ。オマエは良い子ぢゃ、
   ほんに良い子ぢゃ」
子供「爺さま、オラがカエルになった時、
   爺さまはオラになったよね」
爺さま「そうとも。ワシはオマエになったな」
子供「じゃあ、オラの気持ちが分かるよね」
爺さま「ああ、分かるとも」
子供「今、オラが何を考えているか分かるか?」
爺さま「分かるとも。分かるとも。腹が減った、
   なんか食いたい、ぢゃろ」
子供「大当たり!」
爺さま「ぢゃあ、茶店へ行って団子でも食おうかのぅ」
子供「うん!」
   ト、二人茶店へと歩き出す。

       ー幕ー

※五代将軍徳川綱吉公は生類憐みの令を発しましたが
単なる犬公方と言う事では無く生命の尊さを考えて
いた名君です。
この物語は命の大切さ、他者を思いやる気持ちを
表現したつもりです。


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