【東方幻想物語】四季の風景に彩られる私達 第弐拾捌話
第弐拾捌話;山頂の桜
博麗霊夢:

空気が、ほんのわずかずつではあるけれど確実に変わってきているのを、私は日々の中で静かに感じ取るようになっていた。
冬の冷たさが完全に消え去ったわけではなく、むしろ朝晩にはまだ肌を刺すような冷気が残っているというのに、その奥底には確かに異なる気配が潜み始めていて、それがまるで次の季節の訪れを予感させるかのように、ゆっくりと、しかし逃げ場のない形で私の中に入り込んできていた。
――春が、近づいている。
そのどうしようもない事実が、胸の奥を静かに、けれど確実にざわつかせていた。
私は縁側に腰を下ろし、まだ冷たさの残る板の感触を足先に受け止めながら、行き場のない思考を抱えたまま、ただぼんやりと境内の先へと視線を投げ続けていた。
あの日からというもの、私の意識はほとんどそこに囚われたままになっていたと言ってもいい。
あの手紙は、本当にちゃんと届いたのか。
魔理沙は、確かにそれを手に取り、そして中に書かれた言葉を最後まで読んでくれたのか。
そして――その言葉を、どのような想いで受け止めたのか。
答えは何も返ってこないまま、時間だけが静かに過ぎていく。
返事はない。何も届かない。
だからこそ、不安だけが降り積もる雪のように音もなく積み重なっていき、気づけば簡単には払い落とせないほどの重さを持ち始めていた。
それでも、時間というものは決して立ち止まってはくれないもので、一日が過ぎるたびに、少しずつ、しかし確実に――あの約束の時が、避けようのない形で近づいてきているのを感じていた。
胸の奥が、どうしようもなく落ち着かない。
鼓動がやけに強く、やけに近くで鳴り響いているように感じられる。
まるで逃げ場を完全に失ってしまったかのように、どれだけ意識を逸らそうとしても、その存在は消えることなく、むしろ一層強く私の内側に響き続けていた。
もし、来なかったら。
もし、あの手紙が途中で途絶えてしまって、魔理沙の元へ届いていなかったとしたら。
もし、たとえ届いていたとしても、それが開かれることなく、どこかに置き去りにされていたとしたら。
そんな考えが、ふとした瞬間に容赦なく頭の中へと入り込んでくる。
――いや。
私は、その思考を振り払うように、小さく息を吐き出した。
違う。
そんなはずがあるわけがないと、私は自分に言い聞かせる。
これまでのあいつを、私は知っているはずだ。
何度も、何度も。
私と話す機会を掴もうとして、この神社へと足を運んできた。
あれだけ冷たく突き放しても、それでも諦めることなく、何度でも同じように訪れてきた。
それに――。
あのバレンタインの日のことを、私は忘れていない。
あいつは自分の想いを、ああいう形でここに残していった。
あいつらしい、言葉にはせず、それでも確かに伝わる方法を選んで。
そんなことをするやつが、手紙を見ないはずがない。
……そうだ。
きっと、もう読んでいる。
きっと、分かっている。
私が、どれだけ迷って、それでもなお何を伝えようとしたのかを。
そう思った瞬間、胸の奥に小さな熱が灯るのを、私は確かに感じた。
不安が消えたわけではない。
それでも、それ以上に――信じたいと思う気持ちの方が、わずかに強くなっていた。
だから、私は待つ。
花が咲く、その時まで。
逃げることなく、目を逸らすこともなく、ちゃんと向き合うために。
そう決心し続けていた、ある日のことだった。
山の頂上に、ただ一本だけ立っている、あの木。
まだ固く閉じているはずだった枝先に――。
気づけば、いくつもの花が、まるで静かに時を告げるかのように咲き始めていた。
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次回 第弐拾玖話は、2026年 4月5日(日曜日)投稿予定です!
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