ショートショート『腕時計』
いよいよ明日は高校受験の日となって、茉莉香は古い銀の腕時計を母から手渡された。
「何コレ?」
夕食のカツカレーを食べながら、茉莉香はそれを受け取った。
「おばあちゃんの時計よ。おばあちゃん、教育熱心だったから。お守り。今晩のうちに、ネジ、巻いときなさいね」
茉莉香はおばあちゃんを知らない。産まれる直前だったか直後だったかに、亡くなったからだ。長女の真砂音と次女の寿美香は、かろうじて顔を知っている程度だ。
「あ、茉莉香。今晩、腕時計して寝なさいね。グッドラック」
もう社会人の真砂音は、早朝に出社してしまうので、親指をたてて妹を応援すると、自室へと消えていった。
「なんで?」
「おばあちゃんが、アドヴァイスくれるから」
「あたし、オカルト信じない派なんですけど」
茉莉香は左腕に腕時計を留めると、カレーをたいらげた。
「まさねぇの時も、あたしの時も。来たもん。茉莉香にも会いにくるよ」
「へーへ」
茉莉香は気のない返事をすると、一応、仏間を覗いた。
(ばあちゃん来んのか・・・)
ふと茉莉香は部屋を軽く片づけ、明日の準備に取り掛かった。来るとなると、やはり部屋か。
「何してんの、寝なさい」
「へーい」
茉莉香は腕時計を嵌めたまま、ベッドに入った。
「・・・受験よりばあちゃんが気になるじゃないかっ」
暗闇に文句をぶちまけると、茉莉香は目を閉じた。
「はじめ」
茉莉香はテスト用紙を表返した。結局、おばあちゃんなんか現れず、茉莉香は受験の本番を迎えた。顔も知らない子の所なんて、来てくれやしないんだと思うと、なんだか無性に悲しかったが、夢などは結局自分の意識の底であり、見も知らない人が来るわけがないと考えれば、腑には落ちた。
「なんでこんなに難しいの??」
思わず声に出た。A判定は出ていたはずなのに、茉莉香は一問も解けていなかった。時間だけが、迫ってくる。こんなにハードル高かったか??と思いつつ、鉛筆を走らせては、消す作業を繰り返す。
「どうしよう・・・」
もう一度、声に出た。試験監督が怪訝な顔をしている。
ふと、真っ白な答案に影がさし、茉莉香は反射的に顔をあげた。
「時は金なり」
「ばあちゃん??」
茉莉香は遺影のままの笑顔を目に焼き付けると、跳び起きた。夢オチ・・・・・・。
茉莉香は左腕の時計を見た。動いていない。ネジを巻き忘れていた事を思い出し、茉莉香は腕時計を外した。
「金払えってか? ばあちゃん」
茉莉香はくすりと笑うと、左腕に腕時計を留めた。
さあ、今日は受験日。
あとがき
お疲れ様です。星降 かなたです。
お題、腕時計? うーん・・・かぶれる?(夏場はかぶれるタイプのかなたです)
美しくない(笑)
なんかないかなと頭を振ってみたところ、星降のおばあさんが降ってきました。星降のおばあさんは、教育ババだったらしく、かなた達が有名私立高学歴中高に通っていた事を、あの世で自慢しまくっているだろうと、父が昔言っていたのを思い出したのです。
鼻高々やろうなと(笑)
かなたは、星降のおばあさんを姉妹の中で一人だけ知りません。かろうじて間に合ったんだったかな? もうその頃には、病院でチューブに繋がれていたようですが。(心臓が弱かったそうです)
その分、雲間のおばあさんをよく知っています。
このおばあさんたちは対照的な人で、(男ばかりを育てた人と、女ばかりを育てた人だからか)なかなかに面白いエピソード持ちです。
腕時計から話が随分逸れましたね。今使っている腕時計は、かなたが大学時代に初めて文章で稼いだお金で買った、記念時計です。裏に、『2001 conguratulations Never Fade』と彫ってあります。
『Never Fade』。アルフィーの当時最新だったシングル曲です。『色あせない』という意味だったので、彫ってもらいました。
当時は、作家になるとか、デビューするとかいった目標はなく、『書き続ける自分でいたい』という気持ちだけがありました。
叶ったのかな??
それでは、また・・・。
2018.08.25 星降 かなた
