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【叙事詩】トト神の書と王家の悲劇 ②『蛇の結界を破りし者』

船から見下ろすコトプスは、
人々が忙しく交易を行う盛んな都市だった。

ネネフェルカプタハは王家の船で
妻イフウェレトと幼子メルイブを連れ、
ナイル河を南へと進み、この地へ来た。

王子は甲板に立ち、
トト神の魔法の書への憧憬を胸に、
都市の喧騒を見つめていた。

老神官が語った言葉が、
王子の心を離れなかった。

「魔法の書はコトプスのナイル河の中にある。
何重にも封印され、
蛇がとぐろを巻いて守っている」

ネネフェルカプタハは妻と子を残し、
漕ぎ手たちを率いて三日間、
ナイルの流れを遡った。

そしてついに、
魔法の書が眠る場所へと到着した。

王子は魔法の砂を水面へ投げ、
ナイルの中に道を作った。

水の底では、
不気味な生き物たちががもぞもぞとうごめいていた。
大量の蛇、そして不死の大蛇。

蛇たちは次々と飛び掛かり、
王子は切り伏せた。

だが最後に残った不死の大蛇は、
斬られても、斬られても蘇った。

ネネフェルカプタハはついに大蛇を真っ二つに裂き、
魔法の砂をかぶせ、
その命を封じた。

私は見ていた。
コブラの女神である私は、
王子が神聖なる蛇の結界を破り、
私の化身を殺した瞬間を。

蛇が死骸が水底を離れると、
そこには鉄製の箱が現れた。

何重にも重ねられた箱を開けていくと、
最期に黄金の箱が輝いた。

ネネフェルカプタハは蓋を開けた。

そこには――
本当にトト神の魔法の書があった。

書には二つの呪文が記されていた。

王子は一つ目の呪文を唱えた。

その瞬間、
彼の体は空へ、海へ、地上へと移り変わり、
鳥、魚、砂漠の獣たちが
彼に話しかけてきた。

次に二つ目の呪文を唱えた。

今度は冥界へと移り、
月、星々、そして神々の姿が
彼の目の前に現れた。

ネネフェルカプタハは、誰よりも早く
妻イフウェレトに伝えたかった。

彼は何も飲まず、何も食べず、
漕ぎ手たちを急かし続けた。

ついに船が戻ると、
イフウェレトは夫の無事を喜び、
その胸に抱かれた書に目を奪われた。

「見せてください」
彼女は震える声で言った。

ネネフェルカプタハは書を差し出した。

イフウェレトが呪文を唱えると、
王子と同じように、
鳥や魚、砂漠の獣たちが彼女に語りかけた。

月や星が昼の空に現れ、
九柱神の影が彼女の前に立った。

ネネフェルカプタハははパピルスを一枚取り出し、
魔法の書に記された呪文を
一字一句、完璧に書き記した。

そしてそれを炎で焼き、
灰を水に溶かし、
それを飲み込んだ。

彼は書の内容をすべて悟り、
トト神の知識を自らの血肉としたのだった。

第三節に続く


本叙事詩は、大城道則氏『神々と人間のエジプト神話』に収められた
「セトナ・カエムアスとトト神の魔法の書」をもとに、
守護女神メルセゲルの視点から再構成した創作作品です。


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