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連載21回:デジタルトラストは、どのように世界を変えるのか

第17回から第20回まで、当社の新しいビジネスの柱である「デジタルトラスト」について見てきました。
身元確認、認証、署名、データ連携、属性証明——これらが一つの体系として積み上がることは、お伝えできたと思います。

今回は、その「外側」の話をします。

日本通信は、この仕組みを使って何をしようとしているのか。どうやって収益を生むのか。今どこにいて、どこへ向かうのか。

なお今回は、公開資料で確認できることと、そこから先の筆者の見立てを、なるべく分けて書きます。第20回の予告でお伝えした「どう広げるのか」「今どの段階にいるのか」、日本通信の社員の視点から皆様にお伝えできればと思います。


1. 目指す世界——ビジョン2030が描くもの

今年、日本通信は創業30周年を迎えました。この節目に、2030年度を見据えた経営方針「ビジョン2030」を策定・公表しています。公式に掲げているキーワードは、「デジタルに『信頼』を取り戻す」。

このビジョンの根底にあるのは、『通信が神経(ネットワーク)でAI(知能)と社会をつなぎ、「安心・安全な社会OS」を確立する』という考え方です。
これにより達成できるのは、「摩擦ゼロ」の社会です。
街を歩いていると、改札を通り抜けるだけで運賃が引き落とされる。レストランで食事を終えて席を立つと、自動的に精算が完了している。手続きという概念が、日常から消えていく。通信は常にバックグラウンドで動き続け、「動作」そのものが価値交換になる——そんな社会を実現していきたい、と考えています。

このような世界を実現するには、ここまで自社で培ってきた「通信技術(ネオキャリア)」と、第17回から説明してきた「デジタルトラスト」の仕組みを組み合わせていく必要があります。

これまでは、日本通信のMVNO事業とFPoSが独立した形で動いているように見えましたが、今後、FPoSとMVNO(ネオキャリア)を組み合わせることで、通信事業とデジタル認証を推進する当社だからこそ実現できる、安心・安全な社会を実現していきたい、と考えています。


2. FPoSが生む価値を、どう収益に変えるか

FPoSによって、安全・安心な社会OSを確立していくーー理念としては明快ですが、当社は上場企業。事業として成り立たせるために、収益をきちんといただく必要があります。

デジタルトラスト事業における収益の考え方は、「本事業を通じて相手先にもたらした価値の一部を還元してもらう」ことになります。

例えば、社会OSの実装により、手続きがより簡略化され、導入事業者において運営費(システム維持費・人件費)が削減されたり、より多くのユーザーに使ってもらえることで、収益が上乗せされる。
さらに、デジタルトラスト事業は、「信用リスク」を大きく削減することができます。
AIや不正技術の進歩により、デジタルの世界で、相手が「誰か」「これまでに何をしてきたか」「何者か」を安易に信用できなくなりました。事業者(特に金融分野)は、不正防止に常に追われることとなり、そのたびにセキュリティ強化を図る必要があり、本業と全く関係ないところで多大なコストを払う状況になっています。しかも、一般事業者は認証技術に精通している方がなかなか少なく、自社運用もできず、セキュリティ会社に完全外注した結果、セキュリティホールが生まれてしまう、という本末転倒な事態も起こっています。
当社は、デジタルトラストという「社会インフラ」を提供し、導入事業者がより本業に専念できる仕組みを提供し、その代わりに利益を還元してもらう、という考えのもと、本事業を進めています。

では、具体的にどうやって収益に変えるのでしょうか。
基本的な収益モデルは、『認証回数×単価』が原則となります。つまり、より多くのユーザに使ってもらうことが重要となります。
ただし、より大事なのが単価です。当社のデジタルトラスト事業によって生み出される価値は、相手先・分野ごとに異なります。
そのため、導入先の分野毎、また相手の事業に応じて、どうすればお互いの利益が成立するのかを調整した上で決定します。
FPoSが生み出す価値が大きい領域では単価を高く、まず浸透させたい領域では低く——価値に見合った対価を、相手先ごとに柔軟に設計できることが強みです。

利用者が増えるほど認証回数が増え、収益が積み上がる。これは結果として生まれる構造であり、インフラ事業としての自然な帰結です。

ただし、この収益構造が本格化するには、FPoSが社会にある程度浸透している必要があります。病院と薬局がデータをつなぐためには、両者がFPoSを使っていなければならない。銀行と不動産会社が属性情報を共有するためには、共通の信頼基盤が必要です。

まず浸透させる。その後、価値に見合った対価が積み上がる。 今の日本通信の優先順位は、ここにあると理解しています。


3. 3つのフェーズ—FPoSの展開ロードマップ

では、どうやって浸透させるか。
具体的には、以下の3つのフェーズで整理して進めています。

▼ フェーズ1:基本技術の確立

デジタル認証基盤としてのFPoSを完成させるフェーズです。
これまでは、デジタルIDの発行、認定/特定認証局による、身元確認・当人認証を実装し、実際のお客様に使っていただくことで、基盤技術を実装することが目標でした。

▼ フェーズ2:社会実装によるFPoS浸透(現在)

今年度から、本格的にこちらのフェーズに進む想定です。具体的なステップは下記2つに分かれます。

まず①法令対応・信用が重要な分野での導入
金融、電子契約、医療、自治体など、「やらなければならない」場面でFPoSを使ってもらうことで、確実に導入数を積み上げます。

次に②機能拡張と使いやすさの改善。属性認証など、FPoSの価値を高める機能を追加しながら、導入のしやすさを改善します。使いやすくなることで、さらに導入数が増える好循環を作ります。

①を先に進め、②で加速する——この順番が重要なのは、まず「使わざるを得ない場面」で実績を積み、その上で「使いたくなる仕組み」を重ねていきます。

▼ フェーズ3:データ連携による事業の本格展開

FPoSが社会に十分浸透した後、異なる分野間のデータ連携を本格的に展開するフェーズです。マネタイズの主軸であるデータ連携収益が本格化するのはここです。ビジョン2030が掲げる「2030年度・デジタルトラスト事業売上150億円」は、このフェーズ3の実現を前提とした目標となります。


4. 今、FPoSはどこにいるか

今年度からフェーズ2を本格的に動かしています。現時点での展開状況を見てみます。

① 法令対応・信用が重要な分野での導入

ⅰ)自治体への横展開

2026年6月現在、4つの自治体(群馬県前橋市、北海道江別市、長崎県大村市、大阪府門真市)における住民IDの基盤として、FPoSが採用されています。今後は各自治体への提供機能の拡張を進めながら、新たな自治体への横展開も推進しています。他の自治体が導入しやすいような新たな仕組み・機能も併せて検討を進めています。

ⅱ)金融機関への展開

地銀ネットワークサービス株式会社(CNS)と共同で、金融機関向けの本人確認サービスを2026年4月より商用開始しており、他の地方銀行と導入検討を進めています。
地銀以外の金融機関への展開も検討しており、今後一層の拡大を進めていきます。

ⅲ)電子契約事業への提供

FPoSの署名機能を活用し、実印相当の電子印を手軽に実施できるサービスを展開する形で、様々な事業者と話を進めています。
2025年11月に業務提携を開始したPaperlogic社との連携を皮切りに、さらなる展開を想定しています。

② 機能拡張と使いやすさの改善

従来のデジタルID発行プロセスの最適化に加えて、以下のアップデートを今後予定しています。

属性認証——第20回で説明した仕組みです。身元確認の上に属性証明を重ねることで、「誰か」だけでなく「何者か」をデジタルで証明できるようになります。

決済機能の強化——ウェルネット社と共同で、「本人認証付き電子マネー」をさらに強化します。FPoSの信頼の連鎖と決済が結びつくことで、「誰が・何を・いつ」決済したかが証明可能になります。

上記の他にも、第20回で説明したFPoS IoTや、AIとの連携をはじめとした新たな取り組みも今後スタートしていきます。また、これまで当社は自社認証局を構築し、展開していきましたが、今後は、他社の認証局・認証技術とも連携し、先方の発展に寄与したいとも考えてます。

このうち、当社が特に注力しているのが、「FPoSとAIの融合」です

AIエージェントが人間の代わりに手続きを行う時代が来たとき、「そのAIは本当に本人の意思で動いているか」を証明する仕組みが必要になります。第17回で「インターネットには『誰が送ったか』を保証する仕組みがない」という話をしましたが、AIエージェントが普及すると、この問題はさらに深刻になります。FPoSの認証機能をAIに実装する取り組みを、今まさに加速させています。

仕組みを作り、広げ、社会に浸透させ、そしてAIの時代へ——デジタルトラストの旅は、まだ続きます。


次号予告

次回で、デジタルトラスト事業に関する説明は一旦区切りになります。

最後に、『AI×FPoS』について掘り下げます。
フィッシング詐欺やなりすましが「人間」を標的にしていた時代から、「AIエージェント」を標的にする時代へ——攻撃の対象が変わるとき、デジタルトラストの仕組みはどう進化するのか。
最後までお付き合いいただける幸いです。


【執筆・編集】
日本通信株式会社 事業開発部 
高澤 敦紀

2020年に日本通信に新卒入社、2021年にmy FinTech株式会社に兼務出向。コンプラ管理・PM・経営企画その他に携わる何でも屋。

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