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「自分でやった方が早い」をやめて分かったこと

「自分でやった方が早い」

仕事をしていると、そう思う場面は少なくありません。

私の場合は、それだけではありませんでした。

私が所属する製造業の会社では、仕入れや在庫の管理、先々の計画を立てる仕事、業務を支える仕組みづくりなど、複数の部署にまたがる業務の責任者を任されています。

それぞれ別の仕事に見えますが、実際には密接につながっています。

たとえば、仕入れの状況が変われば、在庫やその先の計画にも影響します。

そのため私は、仕入れに関する変化をできるだけ早く捉え、問題が起きてから対応するのではなく、先々の意思決定を前倒しすることを意識してきました。

その判断材料の一つが、納品されるものの品質です。

納入元や時期、扱う品目によって状態は変わります。そして、その変化は「今回使えるかどうか」だけで終わらない場合があります。

今後の仕入れ方や数量、計画を考え直す材料になることもあります。

だから私は、納品されたものを確認し、後工程へ渡すまでの一連の現場作業にも長く関わっていました。

自分で作業をすれば、状態を直接見ることができます。

つまり私にとってこの時間は、単なる「現場作業」ではありませんでした。

先々の判断に必要な情報を、自分で取りに行く時間でもあったのです。

一方で、この一連の作業には週5~10時間ほどを使っていました。

週の業務時間から考えても、決して小さくありません。

「それだけ時間を使っているなら、なぜもっと早く他の人に任せなかったのか」

今なら、そう思います。

でも当時は、作業を手放せば、そこで得ていた情報まで失うと思っていました。

ところが実際に人へ任せてみると、これは私の思い込みだった部分がありました。

必要だったのは、自分が作業をすることではなく、必要な情報が自分に届くことだった。

仕事を手放して初めて、その違いに気づきました。




週5~10時間。それでも手放せなかった

この現場作業は、一回だけならそれほど大きな仕事ではありません。

ただ、納品のたびに発生します。扱う量や状態によって必要な時間も変わります。

関連する作業まで含めて積み上げると、週に5~10時間ほどになっていました。

もちろん、他の人でもできる作業はありました。

それでも自分が関わり続けていたのは、先ほど書いた通り、そこで得られる情報に価値を感じていたからです。

もう一つ、当時の会社が成長期にあり、業務が増えていく中で、この仕事を任せられる人がなかなか見つけられなかったという事情もありました。

「自分でやる意味がある」と考えていたことと、「そもそも任せられる人がいない」という状況が重なり、結果として自分が担当し続けていました。

納品されたものを直接見ることで、単純な良し悪しだけでなく、「いつもと少し違う」という変化にも気づくことができます。

その変化が一時的なものなのか。
今後も続きそうなのか。
この先の仕入れや計画を変える必要があるのか。

そういったことを考えるための材料を、現場から得ていました。

だから当時の私は、この5~10時間を単なる作業時間とは考えていませんでした。

現場を把握し、次の判断を早くするために必要な時間だと思っていたのです。


手放して生まれた時間を、次の引継に使った

事情があり、自分が担当している仕事を整理し、他の人へ引き継いでいく必要が出てきました。

そこで、この現場作業についても改めて見直しました。

他の人でもできる部分を整理し、作業方法をまとめ、実際に引き継いでいきました。

結果として、自分の業務から週5~10時間ほどの時間が空きました。

改めて考えても大きな時間です。

ただ、その時間をそのまま余裕にしたわけではありません。

生まれた時間を使って、別の仕事のマニュアルを作ったり、自分が不在でも最低限仕事が回るように業務ハンドブックを整えたり、さらに別の業務を引き継いでもらうための準備を進めました。

一つの仕事を手放す。

そこで生まれた時間を使って、次の仕事を整理する。

その仕事をまた誰かへ渡せるようにする。

振り返ると、この循環がかなり重要でした。

すべての仕事を整理してから引き継ごうとしていたら、時間が足りなかったと思います。

最初の一つを手放したことで、次を手放すための時間が生まれた。

週5~10時間という数字以上に、こちらの効果の方が大きかったかもしれません。


心配していた品質は、別の方法でも把握できた

では、一番心配していたことはどうなったのか。

現場作業から離れれば、これまで自分で得ていた品質に関する情報は当然減ります。

これは実際にそうでした。

しかし、必要な情報まで失ったわけではありません。

納品された段階で目視によるスクリーニングを行い、その後の状態については後工程の担当者から話を聞く。

この二つを組み合わせることで、自分自身が一連の作業に関与し続けなくても、必要な情報はおおむね把握できました。

そして、実際に製品の品質を維持することもできました。

ここで、自分が一つのことを混同していたと気づきました。

「自分が作業をすること」と「必要な情報を得ること」です。

私は情報を得るために、自分自身が作業をする必要があると思っていました。

でも、本当に必要なのはそこではありませんでした。

品質に関する情報がどこで発生するのか。

そのうち、自分の判断に必要なのは何なのか。

そして、その情報を誰から、どのタイミングで受け取ればいいのか。

そこを整理すれば、自分がすべての作業をする必要はありません。

情報を得るために作業を抱えるのではなく、必要な情報が自分に届く仕組みをつくればいい。

今では、そう考えています。


自分で情報を取りに行かなくなったら、会話が増えた

仕事を手放したことで、もう一つ想定していなかった変化がありました。

部署間の情報交換が少し増えたことです。

以前は自分で現場作業をしていたため、必要な情報の多くを自分自身で拾うことができました。

一見すると、とても効率的です。

でも別の見方をすると、情報が自分の中だけで完結しやすい状態でもありました。

現場作業を手放すと、自分では分からないことが出てきます。

そこで、後工程を担当する人に状況を聞くようになりました。

反対に、担当者側から気になったことを伝えてもらうこともあります。

結果として、以前より部署をまたいで情報をやり取りする機会がさらに生まれました。

大きな組織改革をしたわけではありません。

新しいシステムを導入したわけでもありません。

ただ、一つの仕事を手放しただけです。

それでも結果として、部署間の連携が少し良くなるきっかけにもなりました。

これは、引き継ぎを始める前にはまったく想定していなかったことでした。


引き継いで初めて、「自分しか知らないこと」に気づいた

さらに大きかったのが、自分の中にある暗黙知に気づいたことです。

長く同じ仕事をしていると、

「この場合はこうする」
「ここは確認する」
「これはいつもと違う」

といった判断を、いちいち意識しなくなります。

自分にとっては当たり前だからです。

そのため、自分一人で仕事をしている間は、それが「自分しか知らないこと」だと気づきにくい。

ところが、人に仕事を渡そうとすると、その当たり前が通用しません。

説明している途中で、

「そうか、これは書いていなかった」

「ここは自分しか判断基準を知らない」

と気づくことが出てきました。

質問されて初めて、「なぜ自分はそう判断しているのか」を考えたこともあります。

自分にとっての当たり前は、他の人にとっての当たり前ではありません。

今考えると、これは当たり前のことです。

でも、実際に引き継ぎをするまで、
 自分がどこに暗黙知を持っているのか 」
を完全には把握できていませんでした。

そして、この発見が、その後のマニュアル作成や標準化を考える上で大きな意味を持ちました。

標準化するためには、まず何が標準化されていないのかを知らなければなりません。

人に仕事を渡すことは、その「見えていないもの」を探す方法にもなりました。


「任せる」は、仕事を知らなくなることではなかった

もちろん、この経験から「仕事はどんどん人に任せればいい」と考えるようになったわけではありません。

実際には、簡単に渡せない仕事も残っています。

複数の条件を組み合わせて判断する仕事。

先々の変化を予測しながら複数の選択肢を用意する仕事。

人によって得意不得意が大きく分かれる仕事。

そうした仕事まで無理に手放せば、別の問題が起きます。

だから必要なのは、「任せるか、任せないか」の二択ではないと思っています。

なぜ自分がその仕事をしているのかを、一度分解して考えること。

今回の私の場合、

「品質情報が必要だから、自分で現場作業をする」

という一つのまとまりに見えていた仕事を、

「現場作業をすること」

と、

「品質情報を得ること」

に分けることができました。

前者は他の人に任せられる。

後者は自分に必要なので、別の方法で情報を得る。

そう考えればよかったのです。

仕事を手放すことは、自分の仕事を知らなくなることではありませんでした。

むしろ、

人に渡そうとしたことで、自分が本当にやる必要のあることが見えるようになりました。


「なぜ自分がやっているのか」を一度考えてみる

もし「自分でやった方が早い」と思って抱えている仕事があるなら、いきなり人に任せる必要はないと思います。

その前に、一つだけ考えてみる。

「なぜ、自分がこの仕事をやっているのだろう」

自分にしかできないからなのか。

自分がやった方が速いからなのか。

人に教えるのが面倒だからなのか。

それとも、私のように、その仕事をすることで得られる情報に価値があるからなのか。

理由が分かれば、その目的と作業を分けられないか考えることができます。

そして実際に人へ渡してみると、そこで初めて見えるものもあります。

私の場合、一つの仕事を手放したことで、週5~10時間ほどの時間が生まれました。

その時間で、さらに別の仕事を整理できました。

必要な情報を受け取る方法を考えたことで、部署間の情報交換も少し増えました。

そして何より、人に説明したことで、自分の中にあった暗黙知に気づくことができました。

最初に期待していたのは、単純に「時間をつくること」でした。

実際に得られたものは、それだけではありませんでした。

仕事を手放すことで、自分の仕事を改めて理解することになった。

これが、実際にやってみて一番大きかった発見かもしれません。

この記事が、あなたの仕事を少し軽くし、自分に使える時間を増やすきっかけになれば嬉しいです。

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