あと何回、親と旅行に行けるだろう。母と娘のふたり旅
この旅行は、昨年の11月のことだ。
書こうと思いながら、なかなか書けずにいた。書き始めると、あの2日間のことが鮮明に蘇ってきて、なんだか少し切なくなってしまうような気がして。
別に特別なことをしたわけでもない、普通の親子旅行。でも、これから先の親子旅行はすべてが何か意味を持ってしまうような気もする。
「あと何回、親と旅行できるだろう」——どうしてもそれを考えてしまうからだ。
サフィール踊り子に乗って、下田へ
父が同窓会で大分に帰省することになった。母がひとりになってしまうので、せっかくの機会だからと誘って、下田へ1泊2日の旅に出ることにした。
母と旅行に行くのははじめてではない。でも、普段は父も一緒のことが多いから、母とふたりきりというのはひさびさで新鮮だった。
好奇心旺盛な母は、じっとしているよりも動き回るのが好きで、いつも「あそこに行きたい」「これを食べてみたい」と話している。そんな母とだからこそ、ふたりで出かけるのが楽しみだった。
下田行きを決めたのには理由がある。駅で見かけたサフィール踊り子のポスター。母と一緒に眺めながら、「いつか乗りたいね」と話していた。海を見るのが好きな母にとって、車窓から海を存分に眺められる電車は特別だったのだと思う。
当日は快晴。青い空が広がっていた。
横浜駅で、車内で食べるパンを買った。あまりにも食べたいパンが多くて、母と「これもおいしそう」「これも気になる」と選んでいるうちに、たくさん買ってしまった。電車の中で母と分けながら食べた。車窓から見える景色を眺めながら、パンを頬張る。それだけで、なんだか特別な時間だった。

70歳を迎えた母は、以前よりも股関節あたりに痛みを覚えるようになって、階段の上り下りがつらいと話すことが増えた。病院にリハビリに通うこともある。小柄な体でちょこちょこと歩く母は、私よりも父よりも先を行くくらい速く歩くのだけれど、最近は少しペースもゆっくりになってきたような気がする。
「海キレイだね!」とはしゃぐ母。その姿を見ながら、あと何回一緒に旅行に行けるんだろうと、ぼんやりとそんなことを考えていた。

気の向くままに過ごした2日間
伊豆急下田駅に着いたら、まずは荷物をコインロッカーに預けた。身軽になって、さっそく下田ロープウェイへ。

ロープウェイに揺られながら、寝姿山山頂を目指す。山頂に着くと、目の前に下田港を一望できる絶景が広がっていた。快晴の空と海。遠くまで見渡せる景色に、母も「すごいね」と何度も口にしていた。



山頂をひと通り散策して、楽しみにしていた山頂のカフェへ。11月なのに少し暑くて、思わずかき氷を注文した。めちゃくちゃ空いていて、のんびりとした時間が流れていた。


駅に戻ってタクシーで宿へ。母が選んだ、家族経営のペンションのようなこぢんまりとした場所だった。せっかくの2人旅だから、にぎやかな大規模ホテルよりもゆっくり過ごしたいという私の希望とも合致した。

夕食は宿でコース料理。お料理がウリという宿だけあって、本当においしかった。私たち以外にはあとひと組くらいしかいなくて、静かで落ち着いた時間だった。母はずっと楽しそうで、足の疲れも大丈夫そうだった。
行き当たりばったりで予定を詰め込んでいない旅。部屋に戻ってから「明日はどこに行こうか」「何を食べようか」と話した。
夜、ベランダに出てみると、都会ではなかなか見えない星空が広がっていた。母は星空を眺めることも楽しみにしていた。オリオン座がはっきりと見えた。うまくスマホで撮影できなかったのが残念。



2日目、チェックアウトして宿から近くの海岸へ向かった。びっくりするくらい雲ひとつない空で、白いサラサラの砂浜が広がっていた。海にはサーファーがサーフィンを楽しんでいる。寒くもなく暑くもない、ちょうどいい気温。最高の景色をどうしても見せたくて、大分にいる父にLINEでビデオ通話した。


その後は下田の街へ。ペリーが上陸したという場所や、歴史ある街並みが残るペリーロードも散策した。気の向くままに雑貨屋さんに立ち寄ったり、おみやげ屋さんで買い物したり。



道の駅で立ち寄った回転寿司も、ものすごくおいしかった。特にあなご。ふわふわで、しかも安い。おかわりしてしまった。母も「また来たいね」と言っていた。父も誘って、また来たいなと思った。
あと何回、親と旅行に行けるだろう
帰りの電車でも、やはり同じことを考えていた。あと何回、こうやって母と旅行に行けるんだろう。
親が70代になって、足腰に不安を抱えるようになったり、いろいろと病院に通うようになったりしているのを見ると、この思いが余計に強くなる。
父も最近、足腰に不安を覚え始めた。旅行に出かけることができるのは、あと何年もないかもしれない。国内でも海外でもどこでも歩き回れるくらい、いつまでも元気でいてほしいけれど、それが難しくなる日はそう遠くない。それが現実なのだと思う。
近くに住んでいるとはいえ、毎日自分の生活に追われる中で、親との時間をつくる難しさを感じることもある。でも、気づいたら、親と出かけることすら叶わなくなってしまうかもしれない。
もっと出かけたかった、もっと旅行したかった、そう後悔しないためにも、思い立ったら先延ばしにせず、親と出かけてみよう。
旅先で、普段とは違う親の表情を見られるかもしれない。何気ない会話の中で、知らなかった親の一面を知ることもあるかもしれない。まだまだ知らない親のことを、心にとめておくためにも。
次はどこに行こうか、さっそく両親と話し始めている。
