日本全国油田めぐり—北海道編—
天明10年の『松前志』巻10貨財部幷石土類に「トモシアブラ幷臭水」の項があり、「東部支利宇知海邊石脳油アリ和名クサウヅト云フ又東部ヱサシニアリ又カヤベ邊ニモアリトキケリ醫書ニ石漆ト云ヘリ和爾雅ニ地溲ノ字ニカケリ」とある。
「石脳油」とは江戸時代まで一般的に用いられていた石油を表す語で、「クサウヅ」とは「クソウズ」、すなわち「臭い水」のことで、これも石油を指す。
「支利宇知」は道南に位置する「知内」を指す。少なくとも18世紀後半にはその地で石油が出ていたことがわかる。ただし、現在の知内の油田についてはほとんど資料がなく、石油の出る場所に関して手がかりとなるものは見つからなかった。
一般に北海道では、石狩、茨戸、勇払などの油田(ただし勇払は油ガス田)が知られており、石狩市の周辺には石狩油田のほか、厚田油田、茨戸油田も含まれる。他方、勇払は苫小牧市に位置する。
あまり知られていないが、実は北海道は日本有数の石油地帯なのである。たとえば、下の画像は苫小牧にあるJAPEXの勇払プラントであり、こちらは現役で活躍中である(以下の写真はすべて筆者撮影)。ちなみに、筆者はエネルギー関連研究所に所属していることもあり、日本国内の油田をめぐることを趣味にしている。とはいえ、同僚のなかでも同好の士はけっして多くない(なお、本業の中東では、油田は警戒が厳重で、入るどころか、近づくことも困難だ)。

上述のとおり、北海道ではそのほかにもいくつか油田が知られているが、大半は放棄され、油田ではなく油田跡にすぎない。たとえば、下の画像は2019年に訪れた石狩油田跡である。


なお、下の2つの画像は石狩油田八の沢鉱業所跡の記念碑である。


記念碑から少し離れたところに「いしかり砂丘の風資料館」があり、数は少ないが、石狩油田関連のものが陳列されている。新潟や秋田では石油を前面に押し出した資料館のようなものがあるが、どうやら北海道では石油はそこまで売りにはならないのであろう。
さて、2025年5月17日から18日にかけて筆者の所属する学会の年次大会が北海道大学で開催された。年を取ってくると、研究発表よりも、地方で開催されるのをいいことに開催地で観光するほうが重要になってくる。今年の学会には同世代のベテラン研究者の参加がけっこう目立っていたのだが、彼らの話を聞くと、やはり北海道だからきたという意見が多く、さもありなんという感じであった。
今年の北海道大学での総会では学会奨励賞を授与するという大役があったのだが、それをつつがなくすませると、完全に観光モードに突入だ。
札幌でレンタカーを借りて、まずは石油ではなく、夕張市の石炭博物館に行った。夕張といえば、財政破綻で知られ、そのためであろうか、街中を歩いている人すらまばらであった。実際、博物館敷地に入るところにあった案内には、「圧倒的な廃墟感に負けず」という自虐的な案内があり、先が思いやられたが、いざ入ってみると、駐車場には多くの車がとまっており、見学の人たちもかなりの人数がいた。展示内容にも、たしかに自虐的なものが多かったが、レベルは高く、日本の経済発展における夕張炭鉱の役割やその後の衰退の要因などが理解しやすくなっていた。博物館のお土産として石炭まんじゅうを購入、夕張の財政再建に貢献した。



で、次に行ったのが厚真町である。厚真町は苫小牧の東隣、勇払郡にあり、石油備蓄基地も存在する。ここにはいくつもの石油湧出地点があるのだ。
厚真町で石油の採掘がはじまったのは1887年ごろ、大倉喜八郎らの北海道石油組合が手掘りでの試掘を開始したのを嚆矢とする。その後、南北石油によって振老油田、スタンダード石油系のインターナショナル石油会社(本社横浜)が軽舞地区で試掘を行っていたが、いずれも手掘りの段階であり、開発のスピードはけっして速くはなかった。大正末期以降、日本石油(現ENEOS)、さらに帝国石油による開発が行われるようになり、多数の油井が掘られ、櫓が林立した。最盛期の1931年には年産9420キロリットルを記録、北海道では石狩油田につぐ、あるいは一時はそれを凌駕する生産量を誇るようになった。残念ながら、昭和40年代はじめには採算が合わないことを理由にすべての油田が閉山に追い込まれている。







なお、本油田見学に当たって、軽舞遺跡調査整理事務所にいろいろ便宜を図っていただきました。この場をお借りして厚く御礼申し上げます。あとちなみに、石油湧出地点はクマが出る可能性があるそうですので、行かれるかたは十分ご注意ください。

おもな参考文献
岩本龍夫編著『石狩油田史—その開発・技術・生活について—』2005年(非売品)
厚真村広報委員会『厚真村志』厚真村、1956年
厚真町史編集室『厚真町史』厚真町役場、1986年
増補厚真町史編集員『増補厚真町史』厚真町役場、1998年
「石油が湧く町—厚真の地下資源—」『生涯学習だより』2020年
(保坂修司)
