1杯のビールが持つ無限のカルチャー。ローカルで戦う連帯のかたち|B.M.B Brewery 松田温郎

「クラフトビールはいちいちかっこいいんだよね。いろんな顔を持っている。ときにアート的で、かたやサイエンス的でもある。型破りで自由度が高い。なんでもOK」
このときの表情と声のトーンは最高だった。好きなもの、日頃考えていることを話すとき、その人らしさが出るというものである。
一度ある世界にどっぷりと浸かっていくと、その源流を辿りたくなる衝動は多くの人が経験しているであろう。たとえば、クラフトビールの魅力にハマっていったがために、自ら醸造したくなるということも。
ビアバーからはじまり醸造所を建て、今では両拠点を運営する経営者に。何かにハマることは、人生をも動かしていく。
日本各地でつくられているクラフトビール

クラフトビールとは何か。ほんの10年前なら、その定義や意義について説明が必要とされる場面が多かった。一般に流通するビールとは異なる、一部の愛好家たちが飲むビールという印象が強かったように感じる。しかし、今ではクラフトビールを提供する飲食店は増え、スーパーやドラッグストアにも陳列されるほど一般に浸透してきている。
その定義は媒体によって違いはあるが、共通の見解として、大手飲料メーカーが製造する「定番」ビールに対する、小規模メーカーが製造する個性的なビールのことを指す。大資本から独立しており、地域に根付き、独自の製法やブルワリー(醸造所)としてのスタイルを築く。
2025年現在では日本各地に900以上のブルワリーが存在する(※)。どのビールも一つとして同じ味わいのものはない。ブルワリーの数だけ無限にビールの味わいは広がっていく。未だ出会ったことのないビールがどこかにある。クラフトビールの魅力は、そんな発見と結びついているとも言える。
製造力は15倍。危機を乗り越えた人気ブルワリーの挑戦

2024年7月、宮崎市清武町の国道沿いにクラフトビールの醸造所が誕生した。ホップをくわえたドクロのロゴマークが目を引く。「あれはなんだ!?」と道路を往来する人々の好奇心に満ちた顔、思わず二度見をする姿。外からその様子をうかがい知ることはできない。しかし、中ではDIY精神に溢れる者たちがビールづくりに熱を上げていた。
ここ、B.M.B Breweryは宮崎市の若草通商店街にあるビアバー・Beer Market BASEから派生したブルワリーだ。

Beer Market BASEは国内外のさまざまなビールが飲めるお店として、2012年にオープンした。提供するビールの質、店主である松田温郎さんの細やかな接客、そのキャラクターも相まって「ビアバーといえばベース」と認知されるほど人気店となった。
支持される店舗の特徴として「お店に集いたくなる」「仲間ができる」ことが挙げられる。温郎さんはお店に関わる人々を巻き込むのが上手い。2015年には資金100万円を募り、初のオリジナルビール「BADASS IPL」をつくった。

自分たちのブルワリーを持ちたい。温郎さんがそう考えていたところ、後の工場長となる醸造家・里真彰さんとの出会いがあった。宮崎市神宮の一軒家を自分たちの手で改装。2018年11月、マイクロブルワリーである“初代”B.M.B Breweryは産声を上げ、ビールづくりが本格的に始動した。
農産物が豊富な地元宮崎の素材を原料に、「グリムリーパー」「ハングオーバーIPA」など独特の風味をもつビールが次々に誕生。Beer Market BASEでの提供のほか、飲食店やスーパーに卸されることで、自社ビールのファンは広がり、同時に地元食材のPRにも貢献している。

「外側から見たら順調に物事が運んでいるように見えていたかもしれないよね。でも、内情は結構大変だったよ」(温郎さん)
手狭なブルワリーの設備ではビールの供給が追いつかない状態が続いた。また、人手不足から工場長の真彰さんの負担が大きくなっていた。そこへ追い討ちをかけるようにコロナ禍がやってくる。売上の大幅減少、原材料・資材の高騰が積み重なり、存続の危機に陥った。
事態を打開すべく、温郎さんは覚悟を決めた。ブルワリー移転・拡大し、生産量を増大させる。資金集めに奔走し、クラウドファンディングも実施。目標金額1,000万円という難易度の高い設定だったがプロジェクトは無事達成。519人が支援し、1,078万円以上が集まった。クラフトビール業界、既存のファン、活動に賛同した人々から数多くのエールが送られた。
「クラファン最終日まで不安で仕方なかったけれど、達成してみんなの愛を感じた。自分は独りではないんだなって。同時に責任も感じたね。応援してくれた方へのお返しもそうだけれど、これまで以上においしいビールをつくって、みんなへ届ける基礎を固めないといけないなって」(温郎さん)

手狭だった神宮から、土地の広い清武町へ移転。新ブルワリーの生産量は15倍に増大にした。また、新設備を導入したことで自社ビールを「缶」として流通させることが可能となった。一般層へビールを届けられる点では大きな一手だ。ブルワリーの拡大に伴い働く仲間も増え、B.M.B Breweryは一層醸造家たちの活動拠点らしく、また「会社」らしくなっていった。
クラフトビールは個性で勝負。ブルワリーに宿るインディペンデント・スピリット

規模が大きくなるにつれて、温郎さんの手の及ぶ範囲は限られていく。また、組織として向かう先も散漫になりがちだ。働く仲間が同じ方向を歩んでいけるよう地元の中小企業家同友会に入り、経営者たちと親交を深め、パーパスや理念を定めるなど、「経営者」としての役割が求められるようになった。B.M.B Breweryのあり方について仲間と議論することも増えたという。
「前より15倍の製造力を持つということは、15倍の顧客を探さなければならないということ。僕らのブルワリーはなぜビールをつくるのか、誰に届けたいのか、何を目指したいのか、それらを明確にして実践する段階になってきたよね」(温郎さん)

かつて温郎さんはクラフトビールと出会ったとき、「とりあえずビール」という言葉をなくしたいと思ったという。クラフトビールには定番品以外にもいろんな種類と味わいがあり、製法やブルワリーのスタイルもかなり自由だ。いわば独自のカルチャーがそこにはある。その世界は「とりあえずビール」という言葉では一括りにできないほど奥深い。
「スーパードライやプレミアムモルツのような日常的に飲める定番品は強い。誰が飲んでも『正解』なビールなんだから。大手の製造力や流通力、商品誕生後の歴史があるからこそ、ビールはここまで普及してこれた。けれど、定番品は個性が出づらいのが弱点。みんなに好かれようと思ったら『ザ・ビール』をつくるのが正解だけど、それだとクラフトビールの精神はなくなってしまう」(温郎さん)
市場の動向に目を向けながらも、魂までは売らない。そんな商品企画をしてきた。2025年9月時点で売れ行き好調な「スムージサワー」シリーズもその一つだ。「これがビール?」と思わせる不思議な見た目、柔らかな舌触り、しかし、味はしっかりとビール。

「僕らは『ビールからカルチャーへ』というコンセプトのもと、自由なビールづくりをしている。カルチャーと言うからには音楽やアパレルと掛け合わせるとか、届け方、売り方もおもしろくしたい。ある時点で流行るビールをつくるのも必要だけれど、その後も廃れていかないような、B.M.B Breweryを好きな人たちがずっと飲んでくれる、カルチャーとして根付くビールもつくっていかないとね」(温郎さん)
「ビールって、一つの輪っかが出来上がるイメージがあるんだよね」
「ビールからカルチャーへ」というコンセプトはB.M.B Breweryの働き方にも表れている。音楽好きなメンバーが揃っていることもあり、事務所や工場内ではスピーカーから音楽が鳴り響く。「遊びながら仕事をする、仕事をしながら遊ぶ」「『忙しそうだね』よりも『いつも遊んでいるね』と言われたい」という温郎さんの言葉には、ビールをつくることが、仕事以上に「楽しみ」であることがうかがえる。

「Beer Market BASEから13年やってきて、宮崎市内ではだいぶクラフトビールカルチャーが浸透してきたと思う。でも、県単位で見るとまだ足りないかな。同じ県内のブルワリーさんや、僕らのビールを丁寧に説明しながら提供してくれる飲食店さんたちと、もっと協力していきたい」(温郎さん)
最近では県外出張に出ることも多いB.M.B Breweryのメンバーたち。フェスやイベントに出店したり、地方のブルワリーと交流したりと、周知活動や仲間づくりに力を注ぐ。それらが功を奏し、B.M.B Breweryを訪ねて県外ブルワリーが来宮したり、コラボビールが生まれたりと新たな展開へつながっている。かつて、宮崎のクラフトビール界のパイオニアたる「宮崎ひでじビール」に醸造を習ったように、今では温郎さんや真彰さんらが新興ブルワリーへ教える側になることもある。
「ビールって、一つの輪っかが出来上がるイメージがあるんだよね。ブルワリーやお店やお客さんが、ただつながっていくだけじゃなくて、業界の底上げや土壌づくりをみんなでやっていこうと協力的。だからこそ、まずいビールは許さないよ、という緊張感もある。周りが度肝を抜くようなおいしいビールをつくって、みんなをワクワクさせたいな。いや、僕がワクワクしていたいんだと思う」(温郎さん)

2025年10月18日(土)に清武工場1周年記念祭「酔興日」が開かれます。
詳細はB.M.B BreweryのInstagramをご確認ください。
(取材・撮影・執筆|半田孝輔)
(場所協力:B.M.B Brewery)
(※)全国のブルワリーの数についてはインタビューおよび下記サイトを参照しています。
・オールウェイズ・ラブ・ビール|最新版941ヵ所!日本のクラフトビール醸造所(ブルワリー)一覧(2025年9月10日更新版)
・ビアクルーズ|クラフトビールの銘柄数 (2025年9月11日更新版)
【松田温郎】
宮崎生まれ宮崎育ち
市内の高校卒業後、板前の道を経てバーテンダーの道へ
在職中、クラフトビールと出会い2012年開業
2018年より、一軒家を改装し醸造所を開業
2024年に宮崎市清武町に移転
【B.M.B Brewery】
〒889-1602
宮崎県宮崎市清武町今泉甲3603-1
8:00〜17:00(日曜定休+不定休)
HP:https://bmbbrewery.com/
Instagram:@b.m.bbrewery
【Beer Market BASE】
〒880-0805
宮崎県宮崎市橘通東3丁目4-31 クラフトビル1F
17:00〜0:00(定休:月曜日)
最新の営業日程はInstagramをご確認ください
instagram:@beermarketbase
