聖騎士編② 観測者アルスは解き明かしたい
「いいか皆の者! 3日後に控えた大司教様のパレード警護は、
我ら『白き刃』の全存在をかけた聖戦だ!」
王都の守備隊舎。
私はずらりと並ぶ部下たちの前で、高らかに声を張り上げていた。
「邪悪な輩が、神聖なる大司教様の命を狙い蠢いているという噂がある!
我らは神の矛であり、決して砕けぬ純白の盾!
血の一滴まで絞り尽くし、護衛対象のためなら肉の壁となれ!
恐怖を見せることは、悪に屈したのと同じ大罪だ!」
「ははっ!! 命に代えても!!」
若き斥候のキースをはじめ、隊員たちは私の言葉に狂信的な瞳で頷いた。
彼らの真っ直ぐな尊敬の視線が、私に注がれている。
そうだ、私は勇敢な正義の代行者なのだ。
彼らを導く私に、一切の死の恐怖などあってはならない。
「ユリウス隊長。隊舎の前に、差出人不明の封書が」
「…確認しておく」
隊員が持ってきた蝋封の黒い手紙を、私は詳しく確認もせずに受け取った。
自室に戻り、一人の空間で何気なくその封を切る。
『高潔なる騎士殿へ。哀れな貴方へ警告を』
美しい筆記体で記されていたのは、あまりにも具体的すぎる『私の殺害予告』だった。
王都のパレードルートの正確な見取り図。
大司教様ではなく、
厄介な警護長である『私』を最優先で排除するための、
建物の屋上からの魔法狙撃。
そして、私の白銀の鎧のわずかな関節の隙間を正確に貫くための、
狙撃兵の配置図。
さらに末尾には、
『この奇襲を受けた場合、聖騎士ユリウス殿は確実に命を落とす』
と、ご丁寧に脅し文句まで付けられていた。
「…」
あまりに下劣な内容に、手紙を握りつぶす。
私はこのような脅しには屈しない。
来るものなら来てみよ。我が高潔なる精神と屈強なる盾で、
必ずや守り抜いて見せる。
だが、腹の奥深くを、チクリ、と針が刺す感覚。
【ユリウス:正義 100、使命感 100、死への畏れ 75】
「……ふん。異端者の、くだらんハッタリだ」
私はそう嘯き、窓の外を見る。
私の思考に少しずつ掛かるこの暗雲を振り払うかのように、
手紙を燭台の火で灰へ返すのだった。
◇
翌日からの市街地での巡回任務。
私はいつも通り、威風堂々と先頭を歩いていた。
だが、あの一文が、脳裏から剥がれ落ちない。
『――三番街、右手の時計塔からの狙撃。
貴方の左首筋、鎧の合わせ目の僅かな隙間、
そこが貴方の致死の急所だ』
ふと、右手の建物の屋根に視線が誘導される。
そこには野良猫が一匹、瓦屋根の上を歩いていただけだった。
チクリ。
【ユリウス:正義 100、使命感 100、死への畏れ 77】
「ユリウス様? いかがなさいました?」
「何でもない。貴様ら、油断するな。邪悪は常に隙を伺っているのだ」
不審がるキースたちに言っているのか、あるいは自身に言い聞かせているのか。
だが、荷馬車の車輪が跳ねる「ガタンッ!」という音。
すれ違った物乞いが落とした硬貨の響き。
チクリ。
【ユリウス:正義 100、使命感 100、死への畏れ 79】
夜。隊舎のベッドの上で、
私は無意識に自分の左首筋を手で覆っていた。
(この私が、恐れているというのか…?ふん、馬鹿馬鹿しい)
