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鹿児島市立科学館のオムニマックス上映体験記

 2019年の夏、久しぶりに大型映像での期待の新作がありました。47都道府県全制覇まで、あと福岡県を除く九州地方だけだった私にキッカケを作ってくれた出来事をお伝えしたいと思います。
※この原稿は、自分のブログ「じんけし日報」にアップした物を再構成した物です。

『アポロ11:ファースト・ステップ版』日本公開が決まる

 『アポロ11:ファースト・ステップ版』は、月面着陸から50周年と言うことで制作されたドキュメンタリーで、アメリカでは2019年3月に公開されたのですが、なんと限定公開にもかかわらず全米興行成績ベストテンにランクインしたという・・・これだけでも期待は高まろうというものです。しかも驚いたのが打ち上げ当時に撮影された70ミリフィルム映像がアーカイブで発見されたという事実。そもそも機動性を考えたら記録映像で70ミリフィルム(正確には65ミリフィルム)で撮影したなんてビックリですが、それだけの価値があると予算も割かれたのでしょう。一体どんな映像になっているのかなあとワクワクしたのですが、日本公開はしないだろうと思っていました。

 ところが! 博物館科学館限定の短縮版とはいえ、まさかの公開決定。さらに! 私のテンションをあげたのが、とある方がSNSに「本作はIMAXドーム(通称オムニマックス)版での上映がある」という情報をアップされていたこと。

オムニマックス版上映決定にビックリ!

 IMAXという上映システムは現在世界的に普及が進み、日本でも知っている方が増えている実感があります。ただ、現在一般的な映画館で採用されているものはIMAXデジタルというもので、2台の2Kデジタルプロジェクタで上映し、明るくクリアな画質を可能にしたものが基本ですが、ここでいうオムニマックスはちょっと違います。このシステムの希少価値をわかっていただくために、先にこのシステムの解説を少しだけします。

 IMAXはもともと博覧会のパビリオンなどでの上映を目的にしたカナダ生まれの大型上映システムで、70ミリフィルム(通常は35ミリフィルム)を縦方向ではなく水平方向に送ることで、通常の劇映画で利用する場合の3コマ分の面積を使い、縦がビル3フロア分相当の巨大なスクリーンで上映しても画質の低下がないようにした上映システムです。オムニマックスはその中でも、プラネタリウムのような半球型のドームスクリーン上映を前提としたシステムでした。なお、もっと詳しく知りたい方は、ご自分で調べるか、私の関連記事も参照していただけるといいかと思います。

 うっそー、日本では絶滅したのでは?と勝手に思い込んでいました。浜岡原子力館もデジタル素材のみの上映になったようですし、北九州スペースワールドのギャラクシーシアターも2017年で閉館になっています。が、鹿児島の鹿児島市立科学館だけはまだ健在(2026年現在も!)でした! しかも今回ハッキリと70ミリフィルムによるオムニマックス上映とうたっておりました! この当時、上映予定の他の場所での上映はどうなってるのだろうと思って、各所に問い合わせてみたのをまとめたのが下記の表です(お返事をいただいた関係各位の皆様、ありがとうございました)。

※2019年6月時点 じんけし調べ

<わかったことの整理>
映像:4K上映素材はあり(アスペクトは2.20:1)
音声:英語(日本語字幕版) 日本語(吹替版)
どちらも5.1chバージョン(2ch再生になるところも)
※IMAXデジタルだと12chバージョンもあるようだ
上映時間:47分
上映フォーマット
・IMAX 70mm(鹿児島だけだ!
・IMAX 4Kレーザー&2Kデジタル(日本はなし)
・4KDCP(日本はほとんどこれかと)

 神奈川県在住の私には鹿児島は遠すぎるなあ。けれども近辺で大型映像を体感できる可能性がある場所が微妙なのも現実。さいたまが一番設備的には新しそうだけれど、1日限定とは厳しい。と思っていたら完全版93分の国内公開も決定! やったよ! 109シネマズが入っているからIMAXデジタル、いや大阪なら4Kデジタルかな?と妄想していたら、そもそも日本ではIMAXデジタル版の国内上映はないらしい(涙) さあ、どうする、私?! 久しぶりの遠征か??

鹿児島、行っちゃいました!(笑)

 久しぶりに映画のための遠征、もう、それだけで大興奮です。

 まず鹿児島市立科学館の立地ですが(あくまで旅人向け)鹿児島中央駅からだと徒歩は辛い距離です。公共交通機関利用となると鹿児島中央から市電、バスなどでとなります。トータルで30分ぐらいみておくとよいのではないでしょうか。ちなみに火曜日が休館、さらには平日は本作の上映が1日1回(土日祝のみ16:10の回があり)なので気をつけてください。※2019年時の情報

 時間の関係で、科学館自体はあまりゆっくりと見学できなかったのですが、オーソドックスな感じの展示内容でした。

さあ、いよいよ5階の宇宙劇場へ

 ロビーには作品についての解説類が。さすが、科学館です。

 おおっ、なんと映写室がガラス張りになっている!

 おおおっ すごい! 私も何回かIMAXの上映設備がある映写室はみたことがありますが、今となっては国内でも貴重な施設です。

 ちなみにIMAXフィルムの取り扱いは大変なのです
 かつて劇映画の撮影は一般的に35ミリカメラを使用しました。フィルム1巻(約10分強の上映時間)は重量が約4キログラム。IMAXフィルムの場合、70ミリで、しかも3コマ分で1コマですから、同じ上映時間で考えるとそれだけで24キログラムになる計算になります。そんな重量のフィルムですからIMAXフィルムカメラは1巻で3分強の撮影しかできません(これは現在に至るまでそうです)。ということは上映時、劇映画で120分になると全体の重量は300キログラムになる計算。そこにIMAX独特の機構(ローリングループ方式、通常上映のためにフィルムは横のスプロケットホールにツメをひっかけて送るが、IMAXではそれが物理的に不可能なので、フィルム自体の弾性を活用して送り込む方式。上映時にフィルムはレンズ後面部に真空の原理を利用して密着させる)の摩擦による静電気の問題などが絡み、長編作品の上映は、なかなか難しかったのです。そのため、IMAX上映は、アトラクションとしての性質が強かったのです。プラネタリウムやドームシアター、テーマパークのアトラクションなどでの上映がほとんどだったのです。

 そんな事実や歴史的背景を知っている身としては、この様子だけで胸アツなわけです

 しかし、大興奮している私とは違い、一緒の回をみる予定の親子連れは、そんな上映機器よりも、同じ映写室内に並べられていた大量の虫かごの昆虫たちにガラス越しに大興奮(笑) 同時開催の昆虫展示に関連していて、きっと映写室内が空調が効いていて過ごしやすいからかなあと察しました。

「いやいや、君たち。昆虫も大事だが、文化では失われゆくものの方にも価値はあるぞ、きっと(汗)。ほら、これがプラッターで、そこに巻かれてるのがフィルムで、ねっ!幅が広いでしょう?!」と力説したくなる気持ちをグッと抑えます(大汗)。上映後には映写技師の方の作業の様子もみられました。お疲れ様でした!(凝視してスミマセン(汗))
 なお、ドームへの入り口には過去の大型映像作品のポスター類が(入場時にしかみられないのはもったいないです)掲示されていました。

上映スタート

開映前のドームスクリーン いかにもプラネタリウムらしい番組案内
おお、こちらもワクワクする番組案内!

 いよいよである。かつての映写室とおぼしき窓が完全に目隠しされていたので、一体どこから映写するのだろうと思っていたら、ドーム中央部のプラネタリウムの投影機が降下し、ぬわんと私が座っていた席のすぐ隣(ドーム中央部中央通路沿いのオレンジのところ)から上映用の映写ガラス部が出現! 映写機の音が思いっきり聞こえます。まあ気になる方にはかなりノイジィだと思いますが、個人的にはあのカタカタとしたフィルム映写機の音すら愛おしく感じます(汗)
 まずは予告篇。字幕無しだったので、もともとのプリントについていたのかなあと推測。予告編はいわゆる通常のIMAX画角でドームの一部分に映写されてて、まあ、画質的にもこんなもんかあと思っていたら、ここからが本領発揮。本編はいきなりの全天周ドーム映写へ

驚き、しかなかったです。そこでみたのは驚愕の映像でした。

 この映像の情報量はすごい。これだけ大きな映像なのに破綻がない。ウソっぽくない。IMAXのフィルム版をみるのはいつ以来だったでしょうか。この質感、すっかり忘れていました。まあ、シネコンから比較すると場内は明るめだし、コントラストや先鋭感に欠ける部分はあります。ドームに投影なのでドーム壁面の継ぎ目の目立ち方は一般的な映画館とは比較にならないぐらい目立ちます。音響も悪くはないですが、最先端とは言えません。

 でも。

 圧倒されます。言葉が出ません。

 特にサターンロケットが打ち上げられる時のショットは、画質は事前情報から考えても65ミリカメラで撮影されたものかなと思われましたが、一緒に私も見上げている感覚になりました。この没入感はこれでしか味わえないでしょう。

70ミリフィルム上映のスゴさ

 PLF(ラージフォーマット)と呼ばれる上映形態に関しては、IMAXやScreenX、ドルビーシネマなど、近年さまざまなトピックがありました。70ミリプリントによる上映という括りで拾っただけでも、注目すべきトピックが多かったのです。例えば海外ではC・ノーランやQ・タランティーノが撮影時からこだわって上映時にも70ミリプリントによる上映を希望したとか、定期的に70ミリプリント作品を上映している映画館のニュースが伝わったりとかしています。
 一方国内ではフィルム上映がほぼ壊滅し、70ミリプリントの上映可能館が絶滅状態である中、国立映画アーカイブ(導入当時はまだフィルムセンター)が70ミリ上映設備を稼働できるようにさせたことは大きなニュースでした。2017年、記念すべき上映1作目の『デルス・ウザーラ』はプリント自体の状態の良さに驚愕しましたし、2018年の『2001年宇宙の旅』は前売りがプラチナチケットと化したために、当日券を求めるために早朝から並んで国立映画アーカイブで鑑賞し、これもまた素晴らしい経験でした。

 そんな中での今回の上映は間違いなく貴重な体験でした。何よりオムニマックスでの上映というのが大きかった

 私自身、過去に数回体験している中で、一番強烈だったのはやはり筑波万博の富士通パビリオンで上映された「ザ・ユニバース」。あの大口孝之さんもこれで人生が大きく動いたとおっしゃってましたが、あの没入感はオムニマックスという上映形態ならではです。
 しかしオムニマックスのような全天周映像をフィルムで稼働しているところは2026年現在、鹿児島市立科学館しかありません。まあ多分コストパフォーマンスや作業効率でいったら、あのとんでもない総重量になるフィルムより、IMAXデジタルを選択するのは仕方がないと思います。でも。本作のデジタル素材(完全版)で商業劇場で鑑賞して、それと比較してみても、70ミリプリントに圧倒的なアドバンテージがあることは断言できます。実際近年のDCPの優秀さは素晴らしいと思います。でも大画面でみた場合、それは物の輪郭表現だったり、色味だったり、漆黒の深さだったり、細かい物差しをあげていくと大きな差ではないのかもしれません。でもトータルのパッケージとしての「画質」でいうならば、私が考える以上に情報量に大きな差がありました。

 私自身、IMAXフィルム上映に限定してもいろんな思い出があります。IMAX上映専門館としてオープンしたタカシマヤタイムズスクエアの東京アイマックス・シアターでみたジャン=ジャック・アノー監督のIMAX史上初の実写ドラマ『愛と勇気の翼』(しかも当時は珍しい液晶シャッターメガネによる3Dだった)。凄まじい創作過程で知られるアレクサンドル・ペドロフの『老人と海』。通常版とは完全に別物だった『ファンタジア2000』。あの真賀里文子さんが作った全編ストップモーションアニメ(!)のIMAX作品『天までとどけ』。そしてわざわざ大阪までみにいった『U2 3D』。みんな大きい画面での上映に意味がありました。『U2 3D』なんてデジタルの通常上映版とは別世界で、メンバーと一緒に演奏したような臨場感があって感動が段違いでした。迫力とか臨場感とか没入感とか、いろいろな表現ができると思いますが、こういう家庭では実現できないスケールとクオリティがあるということは、結局「映画館にみにきてよかった」という言葉に尽きると思うのです。

間違いなく比類無き映像体験

 もちろん誰にでもすすめるものではありません。上映時間わずか47分、中身は真面目なドキュメンタリー、しかも鹿児島(神奈川在住の私としては、これが動機の1つで鹿児島に出かけたというのは、なかなか理解してもらえないことの方が多いですね(汗))。映画好きな方でもこういう方面に興味がある人にでないと、という条件付きではあります。でも、それだけの価値がありましたし、その価値がわかる方は絶対にいらっしゃると信じています。そう、これは間違いなく比類無き映像体験。だから鹿児島市立科学館は、今でもオムニマックス上映を継続されてるのだと思うのです。

 もし、あなたが映写機の話でわくわくするならば。70ミリとかシネラマとかIMAXという言葉で心躍るならば。さらには九州の素晴らしい観光地に足を伸ばしたついでに時間的な余裕があれば。あなたにとって忘れがたい映像体験となることでしょう。そのぐらい素晴らしかったです。ぜひご自身の目で確かめてみてください。

(記:じんけし 文中写真はすべて筆者撮影)


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