多疾患併存の時代に生きる
はじめに
人生100年時代を迎え、長寿が当たり前になった今、健康をどう保つかが大きな関心事となっています。年を重ねると、体のあちこちに小さな不調が増え、「血圧」「糖」「コレステロール」「関節」「腎臓」など、いくつもの慢性疾患を抱える人が少なくありません。このように複数の慢性疾患を同時に持つ状態を「マルチモービディティ(多疾患併存)」と呼びます。多病は世界共通の課題であり、日本の高齢者の多くも例外ではありません。多病は単なる病気の重なりではなく、薬の副作用、身体機能の低下、気力の衰えなどを通じて生活の質(QOL)を下げ、介護や入院のリスクを高める問題です。
多疾患併存の広がりと背景
国際的な調査では、65歳以上の高齢者の6〜9割が2つ以上の慢性疾患を抱えており、特に「高血圧+糖尿病」や「心臓病+関節症」といった組み合わせが多いことが知られています。加齢とともに腎臓や心臓、筋肉などの機能がゆるやかに衰えるため、一つの病気をきっかけに別の臓器にも不調が連鎖しやすくなります。つまり多疾患併存は、加齢に伴う自然な変化の延長線上にある“現代の老化像”なのです。
多剤併用(ポリファーマシー)のリスク
多疾患併存に伴って避けられないのが、ポリファーマシー(多剤併用)です。5種類以上の薬を使う人は珍しくなく、10種類以上を飲む人もいます。薬が増えるほど副作用や飲み合わせのリスクが高まり、その副作用を抑えるためにさらに薬が追加される「負の連鎖」に陥ることもあります。薬による眠気やふらつき、食欲低下がきっかけでフレイル(心身の虚弱)が進み、転倒や認知機能の低下につながります。研究では、慢性疾患が3つ以上ある人ではフレイルを新たに発症するリスクが約6倍に上昇すると報告されています。つまり多病は、老化を加速させる一因でもあるのです。
認知機能と心の健康への影響
多疾患併存の患者さんは、記憶力や注意力など一部の認知機能が低下しやすくなります。また、うつ症状を持つ割合が2〜3倍に増えることも報告されています。慢性疾患が多いほど、通院や服薬の負担、経済的・社会的なストレスが重なり、孤立感や意欲低下を招きやすくなります。医療だけでなく、心理的支援や地域とのつながりが欠かせません。
ガイドラインの限界と人を中心にした医療
多くの診療ガイドラインは1つの病気を対象に作られています。もし高血圧、糖尿病、心不全、骨粗しょう症、関節症のすべてをガイドライン通りに治療しようとすると、12種類の薬と14種類の生活療法をこなす必要があると試算されています。現実的には続けることが難しく、「ガイドラインを守るほど生活が崩れる」という矛盾が生まれます。そのため、最近では病気中心ではなく「人を中心にした医療(パーソン・センタード・ケア)」への転換が求められています。治療の目標は「数値を下げること」ではなく、「その人らしく暮らすこと」へと変化しているのです。
おわりに
多疾患併存の高齢者を支える医療は、いま転換期を迎えています。病気を個別に治すだけでなく、全体としてどう生きるかを支える医療が必要です。「本当に必要な治療を選び、その人らしい生活を守る」ことが重要です。
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