2作目 第3章:イチオシの味と、確かな迷い
引っ越しから次の週末、亮に公園ピクニックに誘われた。
「何も持たずに来てください!」という言葉に甘えて手ぶらで行くと、彼の手作りの、色とりどりのお弁当が用意されていた。
「僕、スパイスが大好きなので、スパイシーチキンを挟んだサンドイッチがイチオシです!」
亮が自慢げに差し出してきたのは、スパイシーな香りが立ち上るサンドイッチ。イチオシ、と言われたら、苦手とは言いにくい。もしかしたら、亮が作ったものなら食べられるかもしれない──そんな淡い期待を抱きながら、一口食べた。
けれど、一口噛んだ瞬間、鼻に抜ける強烈な香りに、私は一瞬で後悔した。
(……ダメだ。)
味はきっと美味しいのだろうけれど、苦手な香りが勝って、全く喉を通らない。食べ続けるのは無理だ。でも、亮は私が美味しそうに食べるのを待っている。
「……今日はちょっと暑いから、のどが渇くね!」
私は無理やり笑って、飲み物でサンドイッチを一気に流し込んだ。
なんとか話をそらしながら、果物や他のおかずをつまみその場を事なきを得たけれど、心の中には冷たい澱が溜まっていくのを感じていた。
「咲さんの手料理も食べたいな」
そう言われ、次の休みに手料理を振る舞うことに。海鮮の美味しいスーパーで、サバと海老を買った。海老は殻を剥き、乾煎りしたものを出汁に使いスープを作ったら、亮は美味しそうに食べながら、
「殻を使う発想はなかった!咲さんの手料理には敵わないな~」
和食なら問題はないのかとは思ったが、ピクニックのスパイシーな香りを思い出すと心が沈んだ。
完璧なエスコート、マメな連絡、そして私を喜ばせようとする純粋な優しさ。
亮は、私がずっと求めていた、理想的なパートナーかもしれない。けれど、一緒に食事をするという、日常の何気ない時間にこんなに気を遣うなんて。
(……食の好みが、合わないってキツすぎる)
今まで、どんなダメ男でも、食の好みさえ合えばなんとかやってこれた。けれど、亮との食卓には、私が感じる「ズレ」が、静かに、でも確実に横たわっていた。
前作で、地雷男たちとの決別を選んだ時、私は「自分を大切にする」と誓った。
亮は、私を大切にしてくれる。けれど、私も亮を大切にするために、自分を偽り続ける必要があるのなら、それは本当の幸せと言えるのだろうか。
完璧な彼との、決定的な「ズレ」に気づいてしまった。
揺らぎ始めた私の気持ちは、もう、止めることができなかった。
続く
