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オイラはジロ。血統書付きの柴犬だ。 〜オイラと、とうちゃんの13年〜

オイラはジロ。
血統書付きの柴犬だ。

気がつけばオイラ13年、生きてるらしい。
そう人間どもが言っていた。

オイラにとって時間なんてのは、たいした意味はない。
年寄りかというと、まあちょっと腰にきてはいるが、
次の誕生日がきたら人間でいう72歳になる。

そうなったらオイラ、もうとうちゃんと同い年ってことだ。

とうちゃんはオイラに「すぐ帰ってくるから待ってろよ」
そういってまだ帰ってこない。

あれから7年が過ぎた。

もう、とうちゃんと過ごした時間より、
世話係と過ごしている時間の方が長くなった。

それでも、オイラの中ではとうちゃんが一番だ。

犬ってのは、そういうもんだ。


オイラはあの日、透明ケースに入れられて店先に並んでいた。
隣にはタヌキ顔のまだ幼い柴犬。

それに比べ、オイラはキツネ顔でちょっと大きめな子犬だった。
オイラの値札には「値下げしました」と書かれていた。

命に値段をつける、世知辛い世の中だ。

オイラは精一杯尻尾を振ってアピールする。
何でって、みんなそうしていたからだ。
それがペットショップの作法だろ?

とうちゃんとかあちゃんが通り過ぎた時、
オイラは尻尾をぶんぶん振ってやった。

作戦が功を奏して、オイラと、隣のタヌキ顔が選ばれた。
かあちゃんがオイラと、タヌキを抱いてよしよししてくれた。

オイラ、思わずうれしょんしちまった。
うれしょんなんて、13年間それ一度っきりだ。

嬉しかったのかと言われるとよくわからない。
そんなオイラをみていたとうちゃんの怪訝そうな顔。

オイラは今も覚えている。


我が家には、オイラの先代、ノスケという犬がいた。
血統書はついていないが、自称柴犬だったらしい。

鼻が長く、足も長く、大きさも普通の柴犬と比べるとでかい。

でも、成長したオイラをみて、かあちゃんが、

「ノスケはちゃんと柴犬だったんだね」

そういった。

オイラは、ノスケそっくりなキツネ顔のちょっと大きめな柴犬に成長した。

ノスケは「ザ柴犬」と言わんばかりの性格だった。
とうちゃんが一番で、家族以外には警戒心が強く吠えかかることもある。
頼りになる番犬だったらしい。

オイラだって、とうちゃんが一番で、家族以外には吠えかかる。れっきとした柴犬だ。

ただし、いつも室内で過ごし、子供の頃からアトピーで今では腰痛持ちの座敷犬だけどな。

血統書なんて紙切れは何の役にも立たない。
そういうことだ。


オイラはとうちゃんと一緒にいるのが好きだった。
いつもとうちゃんの後をついて回った。

とうちゃんは1日に3回、散歩に連れて行ってくれた。
オイラがグイグイ引っ張りすぎて、とうちゃんの腰痛が悪化したこともある。

それでもとうちゃんはオイラの頭をぽんぽんってしてくれた。

夕飯になると、オイラはとうちゃんの足元にお座りして待機した。
じっと待っていると、おかずを少しだけ分けてくれる。

そして、頭をぽんぽんってしてくれる。

寝る時だって一緒だ。
とうちゃんのベッドの足元がオイラの定位置だ。

勢い余ってとうちゃんのアバラにダイブしたことあったけど
とうちゃんはしかめっ面で、頭をぽんぽんってしてくれた。

ちょっといびきがうるさい時もあったけど、
オイラ、とうちゃんが大好きだった。


いつもみたいに出かけたとうちゃんは、まだ帰ってこない。

とうちゃんと一緒に寝ていた部屋には、
いつの間にか世話係が住み着いた。

世話係は名の如く、世話を焼くのが大好きだ。

庭では野菜を育て、軒下ではメダカを増やして愛でている。

オイラの世話にも余念がない。
お手おかわりが嫌いなオイラに、

「年取っても、これくらいできるよね」

とか意気込んで芸を仕込みにかかる。

「今日の手作りご飯どうかな?」

そういって、野菜と肉を煮込んだなんとも言えないブツを差し出す。

寝る時はオイラ専用のふかふかベッドを用意してくれた。
頭も体もヨシヨシしてくれる。

あんなに嫌だったお風呂だって、世話係に

「気持ちいいね〜ジロさん。ね、気持ちいいでしょ?」

なんて言われているうちに、悪くないと思いだしている。

でもやっぱり、世話係は世話係だ。

オイラのとうちゃんとは違う。


最近オイラ、独り言が増えた。

玄関で寝ていると、アウアウ突然声が出ることがある。
寝言かと思いきや独り言に近いかもしれない。

散歩に行って立ち止まると、急にアボォオオオオって
変な声出ることもある。

それを見て世話係がぶつぶつ言っている。

「ジロさん、ついにボケてきたかも」

横目で見ながらフンと鼻を鳴らす。
それを見ていたかあちゃんがボソリと言った。

「とうちゃんが迎えにきたか?」

オイラの耳がピンとなった。
とうちゃん?
とうちゃんが迎えにくる?

かあちゃんまでどうしたんだ。
とうちゃんがオイラを迎えに来るはずないだろう。

だってとうちゃんは、帰ってくるんだからな。

とうちゃんが帰ってきたら、またみんなで散歩に行くんだ。


オイラはジロ。
血統書付きの柴犬だ。

今日も食う寝る散歩の毎日だ。

足腰が弱って立ち上がるのも一苦労。
散歩だってオムツハーネスの重装備。
ご飯はアレルギー対策ずみのお手製だ。

ふかふか低反発の専用ベッドに
オイラ専用、顎のせクッション。

こんな毎日も悪くない。

今日もオイラは玄関でうたた寝をする。
玄関がいつ開いてもいいように、こうしておけば安心だ。

あの日、うれしょんしたオイラを怪訝そうに見ていたとうちゃんが
笑いながらオイラの頭をぽんぽんってしてくれた。

オイラにとって時間なんてのは、たいした意味はない。
だからとうちゃん、
いつでも帰ってきていいんだぞ。

オイラはジロ。
今日もなんとかなってるぞ。


13年前のオイラととうちゃん



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