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イワンの馬鹿 トルストイ ゴワゴワの手が教えてくれたこと|夜明けの読書室

🕓 朝4時、静けさの中に、すべてが始まる。
墨の香、音楽の余韻、走ることで整う思考。


ゴワゴワの手の記憶と、イワンの馬鹿のこと。

少しだけ付き合ったひとがいた。
手を握ったときに、彼女の手が少しゴワゴワしていて、ちょっと驚いたけど――なんだか、それがとても好きだった。

あたたかくて、ちゃんと生きてる人の手だった。

手って、何かを語るよね。
その人がどんな日々を生きてきたのか、何を大切にしてきたのか。

そんなことを思い出すのは、トルストイの寓話『イワンの馬鹿』を読み返したときだった。
最後の場面、あのシーンが忘れられない。

「一番汚れた手、ゴワゴワした手の者から順に、食事に招かれる――」



イワンの馬鹿――あらすじと、もう一つの読み方

イワンは、三人兄弟の末っ子。
兄たちはそれぞれ、軍人と商人として「出世」していくけれど、イワンだけはどこかのんびりしていて、いつも人に騙されたり、損をしたり。村では「馬鹿」と呼ばれている。

でも、彼は決して怒らない。見返りも求めない。
いつも誰かのために働き、困っている人がいれば手を差し伸べる。

ある日、悪魔が兄たちを誘惑し、戦争や金儲けに導いていく。
けれどイワンにはその誘惑が通じない。欲に興味がないから、騙されることもない。

やがてイワンは、武器もお金もない村を作る。みんなが助け合い、よく働き、豊かに生きている。戻ってくるものたちも何もいわずに受け入れる。
そこには競争も争いもない。

だけど泥にまみれた労働の手が、いちばん尊ばれている。

聖なる「馬鹿」のちから
トルストイのこの作品には、ロシア正教の「聖愚者(ユロージヴィー)」の精神が流れているという。
これは、以前、モスクワにいる元同僚から聞いた。
世間から見れば愚かに見える者が、実は神に最も近い存在であるという逆説。

トルストイとガンジー――思想が伝播する力

いま、手元にトルストイの『人生論』と『ガンジー自伝』がある。
それを読むたびに、時空を超えて思想が受け継がれていくことを実感する。

南アフリカ時代の若きガンジーが、トルストイの『人生論』を読み、深く感銘を受けて手紙を書いたという。
そして二人は、実際に手紙を交わした。

トルストイの「無抵抗」「非暴力」の思想は、まさにガンジーの生涯を貫く理念の根幹となっていった。
そこには、武器ではなくペンで、権力ではなく文化で、人の心を変えていく力があった。

トルストイの精神が、ガンジーの行動となり、やがて世界を変える運動へと繋がっていった。

たった一冊の本が、一通の手紙が、人を変え、時代を動かす。
文学の力、思想の力――その重みを感じずにはいられない。

あの手を、ふと思い出す
そんな大きな歴史を感じながら、ふと、あの子のゴワゴワした手を思い出す。
自分のことより、家族のことを優先していた彼女の手。

『イワンの馬鹿』を思うとき、『ゴワゴワの手』を考える。

🎵今日の音楽🎵

現在のウクライナ出身、“神の手”を持つピアニスト――スビャトスラフ・リヒテル。
彼が奏でるロシアの音楽家、チャイコフスキーとラフマニノフの世界。
聴いているのは、僕の宝物。2枚組のレコードBOXから。


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