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「地域住民」と「野生動物」、「保護」と「管理」をつなぐ仕事【会員活動紹介】

この記事では、日本野生動物医学会の会員の活動を紹介しています。

株式会社野生動物保護管理事務所
関西支社兼地域支援室 主任研究員
獣医師 箕浦千咲
公開日:2026年6月25日


「野生動物問題」と聞いて、皆さんは何を思い浮かべるでしょうか。

クマの市街地出没、シカやイノシシによる農作物被害、あるいは絶滅危惧種の保護かもしれません。では、その最前線で野生動物と向き合いながら暮らしている地域住民の声を聞いたことはあるでしょうか。
今回は、獣害の現場で地域住民と野生動物をつなぐ、私の仕事を紹介したいと思います。

1.「保護」と「管理」は表裏一体

絶滅の危機に瀕している野生動物を助けたい。それが、当時の私にとって「わかりやすい」野生動物との向き合い方でした。

今思えば少し単純だったかもしれませんが、「殺す」より「守る」がやりたい、「管理」より「保護」に興味がある、というのが正直な気持ちでした。
そんな私が大学卒業後に就職したのが、長崎県の離島・対馬にある環境省対馬自然保護官事務所(ヤマネコセンター)でした。

獣医師として交通事故や傷病で保護されたツシマヤマネコの治療や野生復帰訓練に携わる一方で、域外保全、イヌネコの適正飼養の普及啓発、保護増殖事業に関する調整業務など、行政職として幅広い業務を経験しました。
島内のイベントにヤマネコの着ぐるみを着て参加したり、ヤマネコに襲われた鶏小屋を住民と一緒に補修したりしたこともあります。

対馬で暮らし、多くの島民と交流する中で学んだのは、地域の人々が自然に抱く深い愛情と敬意でした。一方で、当時から深刻な「野生動物問題」として認識されていたのがツシマジカによる被害です。
農林業被害だけでなく、希少植物への食害や下層植生の減少に伴う土砂流出など、島の自然環境全体に影響を及ぼしていました。ツシマヤマネコの生息環境も例外ではありませんでした。

ツシマジカによる影響で下草が無くなり、土砂が流出して根が露出した地面

自分がやりたかったツシマヤマネコの、ひいては対馬の自然の「保護」のためには、シカの「管理」は避けて通れない。

「保護」のための「管理」。「守る」ために「殺す」。

その必要性を身をもって体験した、初めての出来事でした。

しかし当時の私は、シカ管理の知識を持っていませんでした。保護と管理の両面から専門家として支援できる存在がいれば――
そう思ったことが、現在勤務している野生動物保護管理事務所(WMO)へ転職するきっかけとなりました。

2.「保護」の仕事から「保護管理」の仕事へ

WMOでは、人と野生動物の軋轢を軽減し、生物多様性を保全しながら共存できる社会の実現を目指しています。

主な顧客は国や自治体で、野生動物の調査、計画策定、捕獲の実施、研修会開催等による住民支援、研究などを一貫して行っています。
野生動物対策では、まず現状を正しく把握することが重要です。そのために実施するのが野外調査です。「どこに」「どれくらい」野生動物がいて、「どの程度の被害が出ているのか」を把握して初めて、適切な被害対策や捕獲目標を設定することができます。

私自身もフィールドに出て調査を行います。野生動物の姿や痕跡を確認し、地域住民の声を直接聞くことで、行政に対しても現場感のある提案ができると感じています。

野外調査写真① ツキノワグマの麻酔下での作業
野外調査写真② イノシシを興奮させないよう隠れてシートの穴から麻酔銃を撃つ

ただ、せっかく国や自治体が適切な「計画」を立てても、せっかく自治体が住民のためにさまざまな補助制度を用意していても、肝心の被害に遭っている住民は、その存在すら知らなかった……ということが、まだまだ多いのが現実です。

動物の増減や環境収容力といった科学的根拠に基づいて管理計画が作られたとしても、捕獲や防除を実際に現場で実行するのは狩猟者や地域住民です。
そのため、住民自身が計画の目的や適切な防除・捕獲手法を理解していなければ、期待した効果が得られないこともあります。

一生懸命、お金や労力をかけて防除対策を行っているにもかかわらず、方法そのものが間違っていて十分な効果が得られず、それを長年続けた結果、「何をしたって野生動物には効かない。殺すしかない」と疲弊し、怒りを募らせている住民もたくさん見てきました。

最終手段である捕獲でさえ、不適切だったり非効率的だったりすることがあります。例えば、サルの群れを捕獲する過程で群れを分裂させてしまい、結果として被害を拡大させてしまうこともあります。
そうして対策がうまくいかないまま、「野生動物」への「怒り」の感情だけが大きくなっていく――そんな悪循環が、実際に今、日本各地で起こっています。

実際に現場で獣害に遭っている住民自身が、正しい防除対策や捕獲方法を知らなければ、獣害が解決することはありません。それどころか、悪循環により生じた野生動物に対する負の印象から、「野生動物の価値」に目を向けることは少なくなり、結果的に共存は遠のくばかりです。
行政が悪いわけでも、住民が悪いわけでもありません。
強いて言えば、両者の声を聞いている私たちこそが、その間をつなぐ役割を果たさなければならないのだと思っています。

3.「行政」と「地域住民」をつなぐ

環境省職員として行政側を経験し、対馬では島民の一人として地域で暮らしました。その経験を活かして、現在特に力を入れているのが地域支援業務です。
日頃から心掛けているのは、現場で聞いた住民の声を行政へ丁寧に伝えること。そして、その声をもとに被害軽減につながる方法を提案することです。
そうした積み重ねの結果、これまで調査や捕獲業務を中心に受託していた自治体でも、住民向けの防除対策研修会や、地域に継続的に関わる伴走型支援業務が生まれました。

住民とともに獣害防止柵(支柱通電式複合柵)の設置作業を行っている様子

私の目標は、このような地域に深く入り込む支援を全国各地に広げることです。そして、行政と住民をつなぎ、「被害が減った」という声を一つでも多く聞くことです。
そんな中、社内では「地域支援室」という新たな部署が新設され、私も関西支社との兼任職員として携わることになりました。地域支援に特化した部署として、行政と住民の双方に貢献できる新たな取り組みを模索する日々を送っています。

4.「地域住民」と「野生動物」をつなぐ

正しい対策によって被害が軽減すれば、「被害がないなら野生動物がいても構わない」「むやみに殺す必要はない」という意識の変化が生まれます。
実際に、被害が減った住民の方から「今はいてもいいと思えるようになった」という言葉を聞いたことがあります。そのとき私は、「住民を救うことが野生動物を救うことになるんだ」と実感しました。

野生動物を守る方法は治療だけではありません。正しい防除対策や適切な捕獲管理を広めることで、無計画な捕獲や必要以上の殺処分を減らし、彼らの価値を守ることができます。
かつての私は、治療という手段で野生動物の「保護」に関わりたい獣医師でした。しかし今は、治療という手段に限らず、自分にできる方法で地域住民と野生動物の双方を救いたいと考えています。

そして、その結果として地域住民と野生動物をつなぐ役割を果たすこと。それが、私が目指す野生動物保護管理のかたちです。


この記事の執筆者

株式会社野生動物保護管理事務所 関西支社兼地域支援室
主任研究員・獣医師 箕浦千咲

大阪府立大学在学中は内科学研究室に所属しながら、長期休暇のたびに全国各地の動物園で実習をさせていただきました。中学から大学まで吹奏楽部でクラリネットを担当し、社会人になった今も楽団で演奏を続けています。もともとは犬派でしたが、ツシマヤマネコに出会ってからすっかりネコ派になりました。でも実は猫アレルギーです。対馬で暮らした4年間は私にとって大切な財産です。対馬の魅力は何といっても魚のおいしさと人の温かさ。機会があればぜひ訪れてみてください。



編集:日本野生動物医学会 広報委員会

https://www.jjzwm.com/

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