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甘味の名は「理(ことわり)」。日本料理の名店”恵比寿くろいわ”の手土産は、なぜ余韻まで美しいのか

日本料理の最後に出てくる甘味を、ただのデザートだと思っていたら、少しもったいないのかもしれない。

恵比寿にある日本料理店「くろいわ」には、かつて「理(ことわり)」という名の甘味が手土産として紹介されていた。

甘味の名が、「ことわり」。

この名前だけで、少し足が止まる。

かわいらしい名前でも、季節の花をそのまま写した名前でもない。
「甘いもの」に対して、「ことわり」という、少し硬く、静かで、深い言葉が置かれている。

なぜ、日本料理店は甘味に「ことわり」と名づけたのか。

そこには、くろいわという店が料理に向き合う姿勢と、懐石かいせきの最後に出される甘味が持つ意味が、重なっているように思う。




恵比寿くろいわという店

恵比寿くろいわは、東京・恵比寿にある日本料理店である。

公式サイトでは、自店を「二十四節気にじゅうしせっきを御料理で表現する日本料理店」と説明している。御献立おこんだてのページには「ことわりはかる」という言葉が掲げられ、日本の気候である二十四節気にじゅうしせっきを、店主お任せの料理で表現していると記されている。料理は単品ではなく、すべて懐石かいせきの仕立てで供される。

この時点で、「ことわり」という言葉は、単なる商品名ではないことが見えてくる。

くろいわにとって料理とは、目の前の食材をおいしく調理するだけではなく、季節の移ろいをどう受け止め、どう一皿のなかに置くかという営みなのだろう。

春には春のことわりがある。
夏には夏のことわりがある。
秋には秋のことわりがあり、冬には冬のことわりがある。

それは、説明されすぎるものではない。
むしろ、食べる側が、椀の香りや、器の温度や、口の中に残る余韻から、少しずつ感じ取っていくものなのだと思う。

くろいわの御献立おこんだてページには、献立表を用意していないとも記されている。

あらかじめ言葉で説明された料理を食べるのではなく、その日、その時、その季節に出されたものを受け取る。

その姿勢と、「ことわり」という言葉はよく似合う。

恵比寿くろいわ

「理(ことわり)」とは何か

ぐるなび「接待の手土産」には、恵比寿くろいわの「理(ことわり)」が、2018年入選品として掲載されている。

そこでは「ことわり」は、懐石かいせき料理の甘味として提供されている生菓子なまがしであり、柚餅子ゆべし浮島うきしまの詰め合わせとして紹介されている。

柚餅子ゆべし
浮島うきしま

この組み合わせも、派手ではない。

クリームや果物で視覚的に華やかさを出す現代的なスイーツではなく、どちらかといえば、静かな菓子である。

柚餅子ゆべしは、餅粉や水あめ、蜂蜜に加え、白味噌や醤油、落花生やアーモンドが使われている。甘味でありながら、香ばしさや発酵の気配まで含んでいるところに、料理店の菓子らしさがある。浮島うきしまは、白あんや卵、米粉などを使った蒸し菓子で、軽さとしっとりした口どけを持つ。

甘味でありながら、甘さだけで押し切らない。

味噌や醤油の気配。
落花生やアーモンドの香ばしさ。
白あんのやわらかさ。
蒸し菓子の湿度。

それは、食後に強い印象を残すための菓子ではなく、料理の最後に静かに置かれるための菓子なのだと思う。

つまり「ことわり」は、デザートというより、懐石かいせきの結語に近い。

恵比寿くろいわの手土産として紹介されていた「理(ことわり)」。柚餅子と浮島を詰め合わせた、懐石の余韻を持ち帰るような甘味。

甘味は、料理の終わりではない

懐石かいせきの最後に出される甘味には、不思議な役割がある。

それは食事の締めでありながら、単に満腹感を完成させるためのものではない。
口の中を甘くして終わるためだけのものでもない。

むしろ、その日食べた料理の記憶を、最後にどう整えるか。
季節の印象を、どんな余韻として持ち帰ってもらうか。
そのための、小さな結びである。

だから、くろいわの甘味に「ことわり」という名が与えられていることは、とても象徴的に見える。

「理(ことわり)」とは、道理であり、筋道であり、物事の本来のあり方を指す言葉でもある。

ぐるなびの紹介文でも、「ことわり」について、料理の理という意味に加え、慎ましく真摯に向き合いながら本筋を求めることだと説明されている。

甘味にまで、その言葉を与える。

そこには、食事の最後まで料理である、という感覚があるのではないか。

最後だから軽くする。
最後だから甘くする。
最後だから印象的にする。

そうではなく、最後だからこそ、その店が料理に向き合う姿勢が見える。

甘味は、料理の終わりではない。
料理の考え方が、最後にもっとも小さな形で現れる場所なのかもしれない。

懐石料理としての御食事内では、季節を表現した御菓子が提供される。

手土産として持ち帰るということ

くろいわの公式サイトには、御手土産のページも用意されている。

そこには、懐石かいせき内で好評を得ている御菓子を、御手土産として販売していることが記されている。贈答や進物、ハレの日にふさわしい生菓子なまがし干菓子ひがし棹菓子さおがしの箱詰めを、注文制で承っているとも説明されている。

ここで大切なのは、これが単なる物販ではないということだ。

街で偶然見つけて買う菓子とは、少し性格が違う。
ネットで気軽に取り寄せるギフトとも違う。

くろいわの手土産は、基本的には店の料理体験とつながっている。

現在は、通常販売の商品をオンラインで選んで買うというより、店に直接相談し、食事の予約にあわせてお願いする形が自然なようだ。公式サイトにも、注文は受け取り希望日の3日前まで、宅急便や郵送ではなく店頭受け取りであること、御手土産は季節の廻りに合わせて内容が異なることが記されている。

だからこそ、「ことわり」は、ただ買うものとしてではなく、食事の余韻として受け取るのがいちばんふさわしい。

くろいわで食事を楽しむ。
その日の季節を、料理として受け取る。
そして帰り際に、もうひとつの余韻として手土産を受け取る。

それは、店の外へ持ち出せる料理の記憶である。

誰かに贈る場合も、単に「おいしい和菓子を買ってきました」ではない。

「今日、こういう料理を食べてきた」
「その店の最後に出る甘味には、こういう考え方がある」
「その余韻を、少しだけ持ち帰ってきた」

そういう伝え方ができる手土産なのだと思う。

手土産には写真の干菓子の他に、生菓子もあり、理は棹菓子として紹介されている。

「理」と名づける静けさ

いまの時代、手土産にはわかりやすさが求められがちだ。

写真映えすること。
有名であること。
限定感があること。
パッケージが美しいこと。
誰に渡しても説明しやすいこと。

もちろん、それも大切だ。

けれど、「ことわり」という名前の甘味は、少し違う場所にある。

すぐに意味がわかる名前ではない。
かわいらしさで目を引く名前でもない。
むしろ、なぜ甘味に「ことわり」なのかと、受け取る側に一呼吸を求める。

その一呼吸が、美しい。

料理店の手土産とは、店の名前を持ち帰るものではない。
箱の美しさだけを持ち帰るものでもない。

本当に良い手土産は、その店が何を大切にしているのかを、小さな形で持ち帰らせてくれる。

恵比寿くろいわの「理(ことわり)」という甘味は、まさにそのような存在なのだと思う。

食事の最後に出る甘味。
季節を映す菓子。
料理の余韻を閉じるもの。
そして、店の外へ持ち帰ることのできる、小さな思想。

甘味の名は「ことわり」。

その静かな名づけの奥に、日本料理店が最後の一口にまで込める、料理の本筋が見えてくる。


店舗情報

所在地 〒150-0013 東京都渋谷区恵比寿4-11-12
電話番号 03-5793-9618
営業時間 
【月曜日~土曜日】17:30~22:00(最終入店 20:00)
【毎月最終日曜日】当面の間、営業停止
定休日 日曜日、別途不定休
お部屋
カウンター席 8名様
1階個室 2名様(テーブル・椅子)
1階個室 4名様(テーブル・椅子)
3階個室 8名様(掘りごたつの座敷。5名より)
※個室に限り子供同伴可。食事もご相談の上、準備可。
※別途1階個室2名用は、2,200円(税込)、1階個室4名用は、4,400円(税込)。
※別途3階個室5名用は利用人数に関わらず、一律7,700円(税込)。また、5名様※全席禁煙
※来店の際は予約推奨。
※キャンセル料金は営業日日にかかわらず、1週間前から50%、3日前から100%。


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