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抹茶は、チョコになると静岡のいまになる。カネス製茶/和茶倶楽部に見る、お茶スイーツの静かな進化

抹茶という言葉を聞いたとき、少し前までなら、まず思い浮かぶのは茶碗の中の静かな緑だったかもしれません。

茶筅で点てる抹茶。
和菓子とともにいただく抹茶。
あるいは、少し改まった場で味わう、日常から少し離れた飲みもの。

けれど、いま抹茶は、もう少し違う場所にも広がっています。

抹茶ラテになり、アイスクリームになり、チョコレートになり、テリーヌになり、手土産になり、海外のカフェメニューにもなっている。抹茶は、飲むものとしてだけではなく、“味わいを設計する素材”として、さまざまな菓子や飲料の中に入りはじめています。

その変化を、静岡の製茶会社から見てみると、少し面白い輪郭が見えてきます。

今回見てみたいのは、静岡県島田市のカネス製茶と、その通販ブランドである和茶倶楽部です。

カネス製茶は、1957年創業、1978年設立の製茶会社です。
事業内容として、日本茶の製造・卸販売・OEM、抹茶を中心とした海外輸出・OEM、ネット通販「和茶倶楽部」の運営、そしてラグジュアリー・ボトリングティーブランド「IBUKI bottled tea」の運営を掲げています。
つまり、茶葉をつくり、売るだけではなく、お茶を菓子やギフト、レストラン向けの高付加価値飲料へと展開している会社でもあります。

ここに、いまの日本茶の変化が、かなりよく表れているように思います。




抹茶は、世界的な素材になりはじめている

まず押さえておきたいのは、抹茶がいま、国内だけの静かな嗜好品ではなくなっていることです。

農林水産省の資料によると、令和7年、つまり2025年の緑茶輸出額は721億円となり、過去最高額となりました。その背景として、健康志向や日本食への関心の高まりに加え、抹茶を含む粉末茶の需要拡大が挙げられています。

ここで重要なのは、海外で伸びている日本茶需要のかなりの部分が、必ずしも急須で淹れるリーフ茶だけではない、という点です。

農林水産省は、海外ではお菓子や飲みもののフレーバーとして「MATCHA」が広く認知されており、特にアメリカでは抹茶を含む粉末状の緑茶の輸出量が多い傾向があると説明しています。

つまり、抹茶は茶道の文脈からだけではなく、カフェ、スイーツ、チョコレート、焼き菓子、ラテ、ノンアルコールペアリングといった、別の食文化の中で再解釈されている。

そのとき抹茶は、「伝統」そのものというより、苦み、うまみ、香り、色、余韻を持つ、かなり個性の強い食材になります。

ただ甘いだけではない。
ただ香るだけでもない。
舌に残る苦みがあり、後からくるうまみがあり、見た目の緑も強い。

だからこそ、チョコレートやクリーム、バター、カカオ、和三盆、あんこと組み合わされたときに、抹茶は単なる“和風フレーバー”ではなく、菓子全体の印象を変える素材になるのだと思います。

緑茶輸出額は2025年に721億円へ。抹茶を含む粉末茶需要の拡大が、日本茶の新しい流通を後押ししている。【出典】農林水産省「お茶の輸出実績」

抹茶とは、そもそも何なのか

ここで一度、抹茶そのものを確認しておきたいと思います。

抹茶は、ただ緑茶を粉にしたもの、というわけではありません。

農林水産省は、てん茶、つまり抹茶について、収穫前に被覆資材で茶園を2〜3週間程度覆った「覆下茶園」から摘んだ茶葉を蒸し、揉まずに乾燥させ、そのてん茶を茶臼などで微粉末状にしたものが抹茶だと説明しています。

この説明を読むと、抹茶の味わいが、なぜ普通の緑茶とは違うのかが少し見えてきます。

茶葉を覆って育てる。
日光を制限する。
揉まずに乾燥させる。
それを細かく挽く。

そうやって生まれるのが、あの濃い緑色であり、うまみであり、苦みであり、粉としてそのまま食材に混ぜ込める性質でもあります。

抹茶菓子の面白さは、ここにあります。

抹茶は、抽出して飲むだけではなく、粉末として生地やクリーム、チョコレートに直接入り込むことができる。だから、チョコレートのなめらかさの中にお茶の苦みを重ねたり、テリーヌの濃厚さの中に茶葉の青さを沈めたりできる。

飲む茶葉ではなく、食べる茶葉になる。

ここに、いまの抹茶菓子の広がりがあります。


カネス製茶/和茶倶楽部は、お茶を“菓子の素材”として見ている

和茶倶楽部の面白さは、製茶会社を背景に持ちながら、お茶を茶葉のまま売るだけではなく、スイーツとして展開しているところにあります。

たとえば「おとなの生チョコシリーズ」。
和茶倶楽部のリリースでは、このシリーズは日本茶鑑定士・小松幸哉氏の監修のもと、静岡県の豊かな食材を素材の魅力が感じられる生チョコレートにしたオリジナルスイーツと説明されています。抹茶、焙茶、甘酒、柚子、味噌などの展開があり、「本物のおいしさを少しだけ、丁寧に味わう」大人のための嗜好品という位置づけがされています。

この説明が、かなり象徴的です。

抹茶チョコというと、どうしても「抹茶味のチョコレート」とだけ捉えがちです。
でも、製茶会社がつくる抹茶チョコは、本来もう少し違う見方ができるはずです。

それは、チョコレートを使って、お茶の輪郭をどう立ち上げるか、という試みです。

抹茶の香りをどこまで残すのか。
苦みをどれくらい前に出すのか。
カカオや乳脂肪の重さに、お茶の青さをどう通すのか。
甘さを強くするのか、それとも余韻を残すのか。

抹茶は、香料のように少し加えれば成立する素材ではありません。入れすぎれば渋く、少なすぎればぼやける。色は出ても、香りが立たないこともある。甘さで覆えば食べやすくなりますが、お茶らしさは薄くなる。

その意味で、抹茶菓子は、実はかなり繊細な“編集”の食べものです。

カネス製茶/和茶倶楽部のスイーツを読むときには、「抹茶が入っているかどうか」だけではなく、お茶の専門性を、菓子の中にどう移し替えているかを見ると面白くなります。

和茶倶楽部の「おとなの生チョコシリーズ」。抹茶や焙茶など、お茶を“飲むもの”から“少しずつ味わう嗜好品”へ移し替えている。

抹茶がチョコになるとき、静岡は“味”として立ち上がる

抹茶チョコレートは、いまでは珍しいものではありません。コンビニにも、百貨店にも、観光地にもあります。

だからこそ、ただ「抹茶チョコです」と言うだけでは、もう差別化しにくい。

では、カネス製茶/和茶倶楽部のような製茶会社由来の抹茶菓子をどう読むべきなのか。

ひとつの答えは、静岡という産地の現在形として読むことだと思います。

静岡は、長く日本茶の代表的な産地として知られてきました。けれど、いま茶の世界は、国内の茶葉消費だけを見ていては捉えきれません。輸出、OEM、抹茶原料、ギフト、カフェメニュー、レストラン向けノンアルコール飲料。日本茶は、飲む習慣の中だけではなく、外食や贈答、海外市場の中でも意味を持ちはじめています。

カネス製茶が展開する「IBUKI bottled tea」も、その流れを示す事例です。

同ブランドは、カネス製茶が「本物の日本茶の価値を世界へ広げていく」ことをミッションとして立ち上げたラグジュアリー・ボトリングティーブランドです。2026年には、新茶のみを使用した数量限定商品「IBUKI 2026 FIRST flush」も発表されています。リリースでは、レストランにおけるノンアルコール需要の高度化やティーペアリングの普及にも触れられており、日本茶を高付加価値な体験として届けようとする姿勢が見えます。

これは、抹茶菓子と無関係ではありません。

ボトリングティーは、お茶をワインのような場へ移す試み。
抹茶生チョコやお濃茶テリーヌは、お茶をショコラや洋菓子の場へ移す試み。

どちらも、やっていることは近いのだと思います。

つまり、茶葉をそのまま売るのではなく、お茶の価値を別の体験形式へ翻訳する

この翻訳の感覚が、いまの静岡の製茶会社にとって、とても重要になっているのではないでしょうか。

カネス製茶が展開するラグジュアリー・ボトリングティー。茶葉を“飲料”から“体験”へ拡張する動きは、抹茶スイーツの展開とも重なって見える。

お濃茶テリーヌ・ショコラに見る、茶と洋菓子の交差点

和茶倶楽部の展開の中で、特に象徴的なのが「お濃茶テリーヌ・ショコラ」です。

これは、神楽坂のフレンチレストラン「Le Coquillage」とのコラボ商品としてリリースされたもので、同店の人気スイーツ「テリーヌ ドゥ ショコラ」の高級抹茶バージョンと説明されています。

ここで面白いのは、抹茶が「和菓子」の枠の中だけに置かれていないことです。

テリーヌ・ショコラという、濃厚で、なめらかで、カカオやバターの存在感が強い洋菓子。その中に抹茶が入る。

これは、単なる和洋折衷ではありません。

抹茶には、チョコレートの重さを引き締める苦みがあります。
チョコレートには、抹茶の青さを包み込む脂肪分と甘さがあります。
両者がうまく噛み合うと、甘いのに重すぎず、濃いのに余韻が残る。

特に「お濃茶」という言葉が使われているところにも注目したくなります。

お濃茶は、薄茶よりも濃く練る茶のイメージを持つ言葉です。もちろん、菓子名としての「お濃茶」がどこまで茶道上の濃茶と対応しているかは慎重に見なければなりませんが、少なくとも消費者には、「軽い抹茶風味」ではなく、「濃厚な抹茶感」を期待させる言葉として響きます。

抹茶スイーツの市場では、この“濃さ”の表現がとても重要です。

薄い抹茶味では物足りない。
でも、ただ苦ければいいわけでもない。
甘さの中に、ちゃんと茶葉の気配があること。

そのバランスに、製茶会社が関わる意味があるのだと思います。

フレンチのテリーヌ・ショコラに、製茶会社の抹茶を重ねる。抹茶が“和風味”ではなく、洋菓子の構造を変える素材として使われている。

お茶を贈る、から、お茶の体験を贈るへ

もうひとつ見逃せないのは、和茶倶楽部のスイーツが、かなりギフトを意識していることです。

お茶は、もともと贈答と相性のよい商品でした。
お歳暮、お中元、法事、内祝い。
きちんとしたもの、失礼のないもの、日持ちするもの。

でも、若い世代や現代の手土産感覚からすると、茶葉だけを贈ることには少し難しさもあります。

急須を持っていない人もいる。
淹れ方がわからない人もいる。
日常的に茶葉を使う習慣がない人もいる。

そのとき、お茶スイーツは、お茶への入口になります。

抹茶生チョコなら、開けてすぐ食べられる。
テリーヌなら、特別感がある。
ロールケーキやどら焼きなら、家族で分けられる。
ボトリングティーなら、食事の席に置ける。

茶葉を贈るのではなく、お茶のある時間を贈る

この転換は、かなり大きいと思います。

和茶倶楽部の母の日ギフトのリリースでは、和風ロールケーキやティーバッグを組み合わせたギフトセットが紹介され、製茶会社を母体に持つ同社の商品は日本茶鑑定士が監修していると説明されています。

ここにも、茶葉だけではなく、スイーツ、メッセージ、ティーバッグ、季節行事を組み合わせて届ける発想があります。

昔ながらのお茶ギフトが「よい茶葉を贈る」ものだったとすれば、いまのお茶ギフトは「お茶を楽しむきっかけを贈る」ものになっているのかもしれません。

茶葉だけではなく、ロールケーキやティーバッグを組み合わせることで、“お茶のある時間”そのものを贈るギフトへ。

抹茶菓子の新しさは、派手さではなく“編集”にある

茶葉を知っている会社が、抹茶をチョコレートへ移す。
お茶を知っている会社が、テリーヌやどら焼きやロールケーキへ移す。
日本茶を、ボトリングティーとしてレストランやギフトの場へ移す。

それは、ひとつの素材を、別の文脈へ置き直す作業です。

抹茶を「伝統」として守るだけではなく、
抹茶を「流行」として消費するだけでもなく、
抹茶を、いまの食卓や贈りものや外食文化に合う形へ編集していく。

この“編集”こそが、いまのお茶スイーツの新しさなのだと思います。

抹茶は、チョコになると、ただ甘くなるわけではありません。

茶碗の中にあった緑が、箱の中に入り、手土産になり、誰かの午後に届く。
静岡の茶葉が、ショコラの中で、もう一度違う輪郭を持つ。
日本茶の産地が、飲む文化だけではなく、食べる文化としても更新されていく。

カネス製茶/和茶倶楽部を見ていると、そんな静かな変化が見えてきます。

抹茶は、いま世界的なブームの中にあります。
けれど、そのブームを本当に面白くするのは、流行の大きさではなく、ひとつひとつの会社が、茶葉の価値をどう翻訳しているかだと思います。

カネス製茶の抹茶スイーツは、その意味で、静岡の“いま”を映している。

派手な発明というより、静かな進化。
飲むお茶から、味わうお茶へ。
茶葉から、菓子へ。
そして、菓子から、贈られる時間へ。

抹茶がチョコになるとき、そこには、ただの和風フレーバーではなく、日本茶がこれからどこへ向かうのかという、小さな手がかりが入っているのかもしれません。


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