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モトツーリズムの社会的価値

社会的価値(social value)とは、個人や組織、事業、活動が社会全体に与える非金銭的な貢献や意味を指し、公共性、持続可能性、共通善への寄与という観点から評価される価値概念である。観光分野においても、この社会的価値を意識した活動が求められるようになって久しい。近年、バイクを活用した旅行形態である「モトツーリズム」が注目される背景には、単なるレジャーや消費活動を超えた社会的意義が存在する。本稿では、モトツーリズムの社会的価値を「コミュニティ形成」「地域文化とアイデンティティの再生」「持続可能な地域社会づくり」から考察する。

第一に、モトツーリズムはコミュニティ形成に寄与する。バイクという移動手段は個人の自由や独立性を象徴する一方、ツーリング先ではライダー同士や地域住民との交流が生まれやすい特性を持つ。全国各地で開催されるバイクミーティングやイベントは、世代や職業を超えた交流の場を提供し、都市と地方、訪問者と住民の新しい関係を築く契機となる。こうした人的ネットワークの広がりは、観光を媒介とした社会的つながりを強化し、孤立しがちな地域や個人に新たな関係性をもたらす。

第二に、モトツーリズムは地域文化やアイデンティティの再生を促す。バイクは機動性に優れ、一般的な観光ルートでは訪れにくい場所へのアクセスを可能にする。その結果、地元の小規模な食堂、伝統工芸、歴史的遺産など、地域固有の資源が再評価される機会が増える。さらに、ライダーの発信力は高く、SNSを通じた情報拡散によって隠れた観光資源が可視化され、地元住民の地域に対する誇りや愛着が高まる。これらは地域アイデンティティの再構築に寄与し、文化継承の循環を生み出す。

第三に、モトツーリズムは持続可能な地域社会づくりに貢献する可能性を持つ。二輪車は四輪車よりもエネルギー効率が高く、少人数・分散型の移動形態を基本とするため、自然環境や生活環境への負荷を相対的に軽減できる。また、観光客が広域に分散して移動することで、一極集中型観光によるオーバーツーリズムを緩和し、地域資源の持続的活用に資する。加えて、モトツーリズムは地域住民との直接的な交流を通じて互いの理解を深め、観光客受け入れの心理的障壁を下げることで、観光と生活が調和した地域社会の形成を後押しする。

以上のように、モトツーリズムは金銭的価値を超えた公共性と共通善への寄与をもたらす観光形態である。単なるツーリングの楽しさにとどまらず、人と人、地域と地域を結び、文化を再生し、持続可能な地域づくりに貢献する。この社会的価値を最大化するためには、行政や観光事業者がモトツーリズムを地域政策や観光戦略に組み込み、ライダー、住民、事業者が共創する仕組みを整えることが求められる。モトツーリズムは、地域社会に新たなつながりと未来志向の価値をもたらす可能性を秘めている。

文責:林恒宏(岡山理科大学経営学部教授)

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