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予算ゼロから始めるモトツーリズム政策 ― 成功自治体の共通点

モトツーリズム(Motorcycle Tourism)は、バイクによる移動を通じて地域の自然・文化・人との交流を体験する新しい観光スタイルとして注目を集めている。しかし、「観光政策に予算がない」「専門部署がない」といった理由から、導入に二の足を踏む自治体も多い。だが実際には、成功している自治体の多くは“予算ゼロ”からスタートしているのが実情だ。重要なのは、資金の多寡ではなく、「地域資源をどう見立て、誰とつなぐか」という発想の転換である。

1.発想を転換する ― 「ない」から始める政策デザイン
 
モトツーリズム推進の第一歩は、“整備”よりも“発掘”である。新しい施設や道路を整備するのではなく、すでにある地域資源を「走る観光資源」として再編集することが出発点になる。
 例えば、既存の農道や海沿いルートを「絶景ロード」としてSNS発信したり、地元の道の駅やカフェを「ライダーウェルカム拠点」として位置づけたりするだけで、地域の印象は大きく変わる。こうした取り組みには新たな予算を必要としない。むしろ、“認識を変えること”が最大の政策投資といえる。
 筆者が調査した複数の地方都市では、観光協会や地域NPOが自主的にライダー向けマップを制作し、自治体はその広報協力のみを担う形で成果を上げている。官主導ではなく、「官が支える民の創意」が、予算ゼロ政策の核心である。

2.成功自治体の共通点① ― 官民の“共感的連携”
 
成功している自治体には、共通して「共感の輪」がある。つまり、行政・観光事業者・地元住民・ライダーが“地域を走ってもらう意義”を共有している。
 この共感を醸成するためには、行政が「観光客誘致」ではなく「地域の誇りづくり」としてモトツーリズムを位置づけることが重要だ。たとえば、ツーリングイベントを地域行事と一体化したり、地元の高校生や商店街がボランティアとして参加したりすることで、「ライダーを歓迎するまち」の雰囲気が自然に生まれる。
 こうした小さな成功体験の積み重ねが、地域全体のモチベーションを高め、継続的な取り組みにつながっていく。

3.成功自治体の共通点② ― 既存ネットワークの活用
 
多くの成功事例では、「すでにあるネットワーク」をうまく活かしている。
 たとえば、地域スポーツイベントのボランティア組織、観光協会の広報ネットワーク、地元企業とのCSR連携などである。これらを“走る観光”の文脈に組み替えるだけで、新しい価値が生まれる。
 特に、バイクショップやメーカー支店、ライダーコミュニティとの連携は効果的である。彼らは情報発信力が高く、自治体では届かない層に直接リーチできる。行政が旗を振らずとも、こうした「共感する民間プレイヤー」を巻き込むことで、政策の実質的推進力が得られる。

4.成功自治体の共通点③ ― “データより現場”の現実主義
 
予算が限られる自治体ほど、まず現場に出て「走ってみる」「話を聞く」ことを重視している。ライダーや観光客の実際の行動を体感的に理解することが、最も確実な政策形成である。
 例えば、担当職員自身がツーリングイベントに参加し、現地の課題(駐輪場の狭さ、標識の不備、地元との交流機会など)を体験的に把握する。これにより、無駄な調査委託費をかけずに“現場発の改善策”を導くことができる。
 また、地元大学や研究者と連携すれば、調査・評価・発信を含めた“知的インフラ”を低コストで確保できる。

5.政策成功のカギ ― 「共感資本」を蓄える
 
予算ゼロの自治体がモトツーリズムで成功するための最大の資本は、“共感資本(Empathy Capital)”である。
 共感資本とは、人々の感情的つながりを地域資産として活かす考え方であり、金銭に代わる社会的推進力を意味する。自治体がライダーを「迷惑な存在」ではなく「地域を元気にする仲間」として位置づけることで、この共感資本は一気に増幅する。

 モトツーリズム政策の成功は、予算の多寡に左右されない。むしろ、限られた条件の中で“誰が・何を・どう活かすか”という政策創造力が問われる。
成功自治体に共通するのは、「官民の共感」「既存資源の再編集」「現場主義」という三つの要素である。予算ゼロから始めることは、制約ではなく、創造の出発点である。
 いまこそ、地域の“風を感じる観光”としてのモトツーリズムを、共感を軸に育てていく時である。

文責:林恒宏(岡山理科大学経営学部教授)

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