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観光DXの次に来る「移動DX」 ― モトツーリズムが拓く新領域

 観光産業は近年、「観光DX(デジタルトランスフォーメーション)」によって大きな転換期を迎えている。AIやIoT、データ連携を活用した観光マーケティング、スマート決済、バーチャル体験など、観光体験の高度化が進む一方で、「移動」そのもののデジタル化は依然として遅れている。だが、観光の本質は「移動すること」にある。目的地での体験価値を最大化するためには、移動手段そのものを最適化し、デジタルによって“旅のプロセス”を革新する必要がある。
 この観点から、筆者が研究・実践してきたモトツーリズム(Motorcycle Tourism)は、「移動DX」の中核を担う可能性を秘めている。

1.観光DXから「移動DX」へ ― 体験の主役は“道”になる
 観光DXは主に「滞在」や「消費」段階のデジタル化を対象としてきたが、観光の原点は移動そのものにある。旅は「どこへ行くか」だけでなく、「どう行くか」によって価値が変わる。モトツーリズムは、移動そのものを観光体験として再定義する代表例である。
 ライダーは走行ルート、道路状況、天候、風景、地元住民との交流など、五感を通じて地域を感じる。デジタル技術を導入することで、これらの情報を可視化し、より快適で安全な走行体験を設計できる。
 具体的には、AIによる最適ルート提案、AR(拡張現実)を活用した観光ナビゲーション、センサー情報による安全走行支援などが挙げられる。これらを地域データ基盤と連携させることで、「観光DX」の次に来る「移動DX」の基幹産業が生まれる。

2.モトツーリズムが生み出すデータと地域価値
 
モトツーリズムの強みは、ライダーの移動データが地域分析資源になる点である。どの道が選ばれ、どこで休憩し、どの施設に立ち寄るかという行動データは、観光行動のリアルな流れを可視化する。これにより、自治体は交通量の最適化や安全対策だけでなく、観光拠点の配置や商業連携をデータに基づいて設計できる。
 本連載でも、モトツーリズムと「道の駅」の連携が地域回遊性を高め、消費を地域内に循環させる仕組みを生むと論じた。これをデジタル基盤で支えることこそ、移動DXの実装である。たとえば、ライダーの走行データをクラウドで共有し、人気ルートをAIが解析して「地域推奨ルート」として発信する。これにより、観光情報の一方的発信ではなく、ユーザー参加型の観光データ循環が生まれる。

3.安全・環境・体験の三位一体化
 
移動DXの推進には、「安全」「環境」「体験」の三つの視点が不可欠である。まず、安全面では、IoTセンサーやGPSトラッキングによる危険箇所の検知、クラウド連携による事故情報の共有などが進む。これにより、ライダー個人の安全と地域全体の防災力が高まる。
 次に、環境面では、電動バイクやハイブリッド車の導入が進み、エネルギー管理データを統合することで、低炭素型観光モビリティの実現が可能となる。観光庁や経産省が掲げる「持続可能な観光」政策との整合性も高い。
 そして体験面では、モトツーリズムが提供する「移動の自由」「風を感じる感覚」がデジタルによって拡張される。たとえば、ARグラスでルート上の文化・歴史情報を提示しながら走ることで、まさに“走りながら学ぶ観光”が実現する。

4.自治体と産業界が担うべき役割
 
移動DXの実装には、官民の協働が必須である。自治体はデータインフラ整備と地域間ルートの調整を担い、バイクメーカーやIT企業は車両・デバイス・アプリ開発を進める。さらに大学・研究機関が走行データ分析や社会実装モデルの検証を支えることで、産官学連携型の移動DXエコシステムが形成される。

 観光DXの次に来るものは、間違いなく「移動DX」である。目的地の魅力を最大化するためには、移動の質を革新しなければならない。モトツーリズムはその実証フィールドであり、走行データを通じて観光・交通・地域経済を統合する新たな社会基盤を提供する。つまり、「観光地を訪れる旅」から「移動そのものが価値を生む旅」への転換である。モトツーリズムを核とした移動DXこそ、地方創生と観光産業再構築の次の一手である。

文責:林恒宏(岡山理科大学経営学部教授)

(一社)モトツーリズム推進機構のサイトはこちら

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