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中部地方におけるモトツーリズムの推進

 中部地方は、日本列島の中央に位置し、海・山・高原・湖・平野が凝縮された希有な地域である。富士山、北アルプス、日本海沿岸、伊豆半島、信州の高原地帯、そして伝統的な町並みが残る内陸エリアなど、変化に富んだ地勢はライダーにとって格別の魅力を持つ。高速道路網も発達し、東西南北どの方向にもアクセスしやすい中部は、実は日本でも屈指のモトツーリズム適地である。
 本稿では、こうした中部地方の特性を踏まえ、モトツーリズムの推進に向けた方向性を地域政策の視点から考察する。

1.多様な地形が生む“走行体験の宝庫”としての中部
 中部地方の最大の魅力は、短時間の移動の中で、高度・景色・気候が劇的に変化する点にある。信州の山岳道路を走れば、標高による気温差で空気が変わり、曲線の連続がライダーの集中力を刺激する。富士五湖周辺では、湖面と山々が作り出す静謐な風景の中を流れるように走ることができる。日本海側に目を向ければ、越前海岸や能登半島のワイルドな海景が広がり、外洋の風がライダーの体感温度を一変させる。
 こうした多様な気候・景観・地形が連続する地域は世界的にも希少であり、中部は“世界水準のツーリングフィールド”として確かな価値を持つ。これらを体系的にルート化するだけで、国内外のライダーを惹きつける観光商品となる。

2.地域文化との接続で深まる“旅の物語性”
 中部地方は、風景だけでなく文化資源の厚みも特筆すべき点である。飛騨高山、金沢、松本、長野、甲府、静岡など、歴史・工芸・食文化の蓄積が豊かな都市が点在している。これらを単なる観光地ではなく、“走って訪れるべき文化拠点”として編集すると、ツーリングの満足度は一気に高まる。
 たとえば、木曽路の宿場町を巡る“歴史回廊ツーリング”、富士山を周回しつつ湧水文化と食を楽しむ“富士山環状ルート”、能登や飛騨を結ぶ“工芸文化リンクルート”など、ストーリー性のある旅の設計が可能である。走る体験と文化体験の統合こそが、中部のモトツーリズムの真価を引き出す鍵となる。

3.中部地方が抱える課題と、その克服に向けた方向性
 一方で、中部地方のモトツーリズム推進には課題も存在する。山間部の道路は気象条件の影響を受けやすく、通行止めや路面状況の変化が多い。また人気エリアでは混雑が生じ、ライダーにとってストレスとなるケースもある。
 これを克服するためには、デジタルによる情報発信と道路管理の高度化が必要である。リアルタイム道路情報、気象データと連動したルート提案、安全走行支援アプリなどを整備し、ライダーが安心して旅を計画できる環境を整えることが求められる。特に標高差の大きい地域では、季節別・時間帯別ルートの提案が有効であり、観光DXとの連動が不可欠である。
 さらに、地域住民との共生も重要な政策テーマである。ライダーとのコミュニケーション機会を増やし、マナー啓発、交通安全イベント、地域清掃活動などを通じて、ライダーが“地域の味方”であることを示すことで、歓迎ムードを醸成できる。

4.広域連携で実現する“中部スーパールート”構想
 中部地方は、単独の県の魅力だけで完結しない広域的な旅が可能な地域である。
 静岡から山梨、長野へ抜ける縦走コース、富山・岐阜・石川を結ぶ日本海側の文化ルート、愛知を起点に伊豆・信州へ展開する高速アクセスを活かした広域モデルなど、都府県を跨いだツーリング構造が自然に形成される。
 これを観光政策として制度化すれば、「中部スーパールート(仮称)」のようなブランド化が可能である。広域DMOや各県の観光部局、警察、道路管理者が協調し、統一ガイドラインやルートマップを作成すれば、国内外ライダーにとって分かりやすい魅力が生まれる。
 また、中部国際空港・富士山静岡空港・小松空港など空港網が充実しているため、レンタルバイクによる周遊型インバウンドの受入環境整備を進めれば、海外市場を積極的に取り込むことができる。

 中部地方は、地形の多様性、文化資源の厚み、交通アクセスの良さという三拍子が揃った、日本屈指のモトツーリズム適地である。その潜在力を最大限に引き出すには、広域連携によるルート構築、デジタル技術を活用した道路情報の高度化、地域文化を活かしたストーリー型の旅の編集が欠かせない。
 モトツーリズムは、単なる観光施策にとどまらず、中部地域全体のブランド価値を高める戦略であり、地域経済の新たなエンジンとなり得る。今こそ、中部地方は“走る旅の中心地”として世界に発信する準備を進める時である。

文責:林恒宏(岡山理科大学経営学部教授)

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