走りたくなる道づくりと二輪事業者の共創戦略
モトツーリズムが注目される中で、「どこへ行くか」以上に「どの道を走るか」が旅の価値を左右する時代に入っている。二輪ユーザーにとって道は単なる移動インフラではなく、体験そのものを生み出す舞台である。走りたくなる道をどうつくり、どう活かすのか。その問いは、もはや行政だけで完結するものではなく、二輪メーカー、販売店、用品・ギアメーカー、そして地域が共に取り組むべき共創のテーマとなっている。
1.「走りたくなる道」とは何か
走りたくなる道とは、単に舗装状態が良い道路を指すのではない。視界の抜け、カーブの連続性、交通量とのバランス、季節による景観変化、立ち寄りポイントとの関係性など、複合的な要素が重なり合って成立する体験空間である。二輪ユーザーは速度や効率だけでなく、「気持ちよさ」や「記憶に残る感覚」を求めて道を選ぶ。近年の行動データやSNS投稿を見ても、名所そのものより“そこへ至る道”が語られる場面は多く、道そのものが観光資源化していることは明らかである。
2.道を観光資源に変える発想転換
これまで道路は、維持管理の対象であり、コストとして捉えられがちであった。しかしモトツーリズムの文脈では、道は「価値を生む資産」へと再定義される。絶景ロードや生活道、農道であっても、ストーリーを与え、安心して走れる環境を整えれば、立派な観光コンテンツとなる。重要なのは新設ではなく再編集であり、既存の道をどう魅せ、どうつなぐかというデザインの視点である。
3.二輪事業者が果たすべき役割
ここで重要な役割を果たすのが二輪事業者である。メーカーは車両性能だけでなく、「どんな道で、どんな体験をしてほしいか」という思想を地域と共有できる存在だ。販売店は、実際の走行者の声を最も多く知る現場拠点であり、リアルなルート情報や課題を行政にフィードバックできる。用品・ギアメーカーもまた、安全性や快適性の観点から「この道をどう走るか」を支える重要なパートナーである。走りたくなる道づくりは、事業者にとって自社製品の価値を実証するフィールドでもある。
4.共創によって生まれる新しい価値
行政が道を管理し、事業者が製品を売る、という分業モデルだけでは、走りたくなる道は生まれにくい。必要なのは、官と民が目的を共有し、役割を重ね合わせる共創である。たとえば、二輪事業者が地域と協力して試走イベントやデータ収集を行い、その結果をもとに安全対策や情報発信を行う。こうした取り組みは、道の質を高めると同時に、地域と二輪産業の信頼関係を育てる。結果として、道は「また走りたくなる場所」となり、継続的な来訪と消費を生む。
走りたくなる道づくりは、単なるインフラ整備ではなく、体験価値を設計する行為である。そしてその価値は、二輪事業者と地域が共に考え、共に育てることで最大化される。道を中心に据えた共創戦略は、モトツーリズムを一過性のブームではなく、持続可能な地域資産へと昇華させる鍵となるだろう。走りたくなる道の先にあるのは、産業と地域が共に成長する未来である。
文責:林恒宏(岡山理科大学経営学部教授)
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