二輪メーカーが注目すべきモトツーリズム市場の次の10年
二輪産業は今、大きな節目を迎えている。少子高齢化や都市部の駐輪環境問題など構造的課題が続く一方で、ポスト消費社会における「体験価値」への需要増大、インバウンドのツーリング人気、EV・サステナブル社会への転換といった潮流が新たな市場機会を生み始めている。その中心に位置するのが、移動そのものを価値として捉える「モトツーリズム」である。
次の10年、二輪メーカーは製品発想から“体験発想”へ、販売戦略から“旅のエコシステム構築”へと舵を切る必要がある。本稿では、モトツーリズムの観点から見た二輪市場の未来を展望する。
1.体験価値市場の急成長 ― SNS世代が牽引する新需要
モトツーリズム市場の成長を支える最大要因は、「体験の可視化」と「共有文化」である。
特に20〜40代のライダーは、「どこを走ったか」「何を体験したか」をSNSで発信し、その投稿が次のライダーを誘引する。
これにより、ツーリングは個人的趣味から“共有される旅”へと進化している。
今後10年で重要になるポイントは次の通り:
・景観×文化×食を組み合わせた“物語性のあるルート”が支持される
・ライダー同士のコミュニティが、メーカーの新たなファン層を生み出す
・旅の体験をデータ化し、パーソナライズされたサービス提供が加速
つまり、性能競争だけでは市場は伸びず、「体験をデザインできるメーカー」が強者となる。
2.インバウンドツーリズムの爆発的伸び
訪日外国人のツーリング需要は近年急増しており、次の10年でさらに拡大する。
理由は明確である:
・日本は世界でも稀な安全・快適な長距離ツーリング環境を持つ海・山・
川・集落の多様な景観変化が短距離で楽しめる
・日本の食・文化体験が“非日常性の高い旅”として評価されている
二輪メーカーにとっては、インバウンド向け以下の戦略が不可欠となる:
・多言語対応のルート・ガイド整備
・レンタル&サブスクリプション型サービスの拡充
・海外ディーラー連携による国際的なツーリング商品造成
今後の成長市場は、国内ではなく「世界から日本へ」の流れが主戦場になる。
3.EV転換期における“モビリティ観光の再発明”
EVバイク普及は避けられないが、航続距離や充電問題は依然として課題である。しかし、モトツーリズムはこの課題をむしろ“価値”に変える。
・充電ステーションを「地域交流拠点」として機能させる
・のんびりと地域を巡る“スロー・ツーリズム”との相性が良い
・静粛性により、自然体験の質が向上する
メーカーにとって重要なのは、EV車体の性能競争ではなく、EVで走る旅の価値そのものを設計することである。
「EVツーリング対応地域」や「エコ・ツーリング認証ルート」の創設など、政策と連動した市場形成が進む可能性も高い。
4.メーカーは“走る旅のプラットフォーマー”へ
今後、メーカーに求められる役割は明らかに変わる。
単なる“車体の供給者”から、以下のような旅のエコシステムをつくるプレイヤーへ転換する必要がある。
・ルート開発・デジタルマップ提供
・宿泊・飲食・体験と連動したツーリング商品造成
・地域DMO・自治体との観光政策連携
・走行データを活用した安全支援・アプリサービス
特に、走行データ・観光消費データの利活用は、次の10年でメーカーが競争優位を得る最大要素となるだろう。
「バイクは買って終わり」ではなく、「旅する毎に価値が増す」モデルへ移行することが求められる。
5.次の10年で市場を握るのは“旅を編集できるメーカー”
これからの二輪産業は、
・モノ(車体)
・コト(体験)
・データ(行動・嗜好)
・コミュニティ(仲間・共創)
の四層で競争が進む。
特に重要なのは、旅のストーリーを編集し、提供できる力である。
旅を編集できるメーカーとは、
・どの地域と組み
・どんなルートをつくり
・どの体験を組み合わせ
・どうデジタルで接続するか
をデザインできる企業である。
この能力こそが、次の10年の成長企業を分ける決定的要因となる。
モトツーリズム市場は、製品市場ではない。
ライフスタイル市場であり、観光市場であり、体験市場である。
そしてこの複合市場を牽引できるのは、旅を設計し、地域と共創し、EV時代の走行体験をリデザインできるメーカーである。
次の10年、二輪産業の成長エンジンはエンジン音ではなく、“走る旅の価値”そのものだ。
モトツーリズムを軸とした戦略こそが、二輪産業の未来を切りひらく最重要テーマとなるだろう。
文責:林恒宏(岡山理科大学経営学部教授)
(一社)モトツーリズム推進機構のサイトはこちら
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