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観光立国推進基本計画に呼応する自治体戦略としてのモトツーリズム

 2023年に閣議決定された第4次「観光立国推進基本計画」では、日本の観光政策が量的拡大から質的深化へと大きく舵を切った。重点目標として掲げられたのは、「地方誘客の促進」「持続可能な観光地域づくり」「高付加価値型観光の推進」である。これらの方向性は、まさに筆者が長年研究・実践してきたスポーツツーリズムやアドベンチャーツーリズムと深く共鳴するものであり、その中でも「モトツーリズム」は自治体にとって新しい戦略的手段となり得る。
 モトツーリズムとは、バイクによる移動そのものを体験価値とする観光形態であり、自然・文化・人々との出会いを通じて地域の魅力を体感する旅である。本稿では、観光立国推進基本計画の理念に呼応する自治体戦略として、モトツーリズムが果たすべき役割と実践の方向性を論じたい。

1.地方誘客の促進 ―「線」でつなぐ観光の再構築
 観光立国推進基本計画は、「地方への誘客拡大」を重要な柱として掲げている。モトツーリズムの最大の特性は、観光を「点」ではなく「線」で結びつける回遊性にある。ライダーは目的地に直行するのではなく、地域の風景・食・人との出会いを楽しみながら走る。そのため、山間部や海沿い、農村地帯など従来観光ルートから外れていた地域にも新たな経済効果をもたらす。
 自治体はこの特性を活かし、複数地域を結ぶ「広域ツーリングルート」の整備を進めるべきである。例えば、瀬戸内エリアであれば海岸線や離島をつなぐルート、信州であれば山岳・高原・温泉を組み合わせたルート設計が考えられる。こうした「走ることを目的とする観光圏」は、地域間の共創を促し、広域経済圏を形成する契機となる。

2.持続可能な観光地域づくり ― 安全・環境・共生の三本柱
 持続可能性を重視する観光政策の潮流の中で、モトツーリズムは一見すると環境負荷が高いように見える。しかし、適切な制度設計と地域協働によって、その懸念はむしろ解消され、持続可能な地域観光の一翼を担うことができる。
 第一に、安全対策の徹底である。走行ルールやマナー啓発、ライダー向けの多言語交通案内、地域警察との連携により、安心して走れる環境を整備する。第二に、環境配慮型バイク(電動・ハイブリッド車両)の普及支援を進める。観光地におけるEV充電設備の整備は、地域インフラ投資としても有効である。第三に、地域住民との共生である。ライダーと地元住民が交流できるイベントやワークショップを通じて、「バイク=迷惑」ではなく「バイク=地域の友」として受け入れられる文化を形成する。これにより、観光と生活が共存する“持続可能な観光地域社会”が実現する。

3.高付加価値型観光の推進 ― 体験価値と滞在価値の創出
 モトツーリズムは、消費単価の高い層を取り込む観光形態でもある。平均年齢層が40〜60代のライダーは可処分所得が高く、宿泊・食・整備・燃料といった多様な支出を行う。さらに、走行体験と地域文化を組み合わせることで、高付加価値な観光プログラムが創出できる。
 例えば、「バイクでめぐる地酒と温泉の旅」「絶景ロードと地域グルメを楽しむツーリング」「職人との交流を組み込んだ文化体験」など、体験の“深さ”を追求する設計が有効である。また、レンタルバイク事業やガイド育成を通じて、地元企業や住民が参画する仕組みを整えれば、地域経済循環が生まれる。筆者の研究では、こうした“体験の共同創出”こそが観光の質を高める鍵であることが示されている

 観光立国推進基本計画の理念を現実化するためには、自治体が「地域資源をどう動かすか」という発想転換が必要である。モトツーリズムは、観光を「移動」と「体験」で結び、地方誘客・持続可能性・高付加価値という三つの国家的目標を同時に達成し得る戦略である。
 道路や景観、文化、そして人を結ぶ「走る観光」を政策として位置づけることで、地域は単なる観光地ではなく「旅の目的地」として再定義される。モトツーリズムは、観光立国の新しい時代における“地方創生のエンジン”として、自治体が積極的に取り組むべき国家連携型の観光戦略である。

文責:林恒宏(岡山理科大学経営学部教授)

(一社)モトツーリズム推進機構のサイトはこちら

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