北海道におけるモトツーリズムの推進
日本のモトツーリズムを語るうえで、北海道ほど象徴的なフィールドは存在しない。果てしなく続く直線道路、雄大な地平線、変化に富んだ四季の風景、地域ごとに異なる食文化、そして広大な大地が生み出す“走る自由”。バイクで走るという行為そのものが観光価値になる場所は、日本の中でも北海道をおいて他にない。国内外のライダーが憧れる「最北のツーリングロード」は、今や観光資源であると同時に、地域振興の新たな可能性を秘めた重要な政策テーマとなっている。
本稿では、北海道が持つモトツーリズムのポテンシャルと、今後の推進の方向性について論じたい。
1.北海道が生み出す“圧倒的な走行体験”
北海道の魅力は、第一に「スケールの大きさ」にある。十勝平野に広がるまっすぐな道路、道北の荒涼とした景観、オホーツクの海風を感じる海沿いルート、知床の原生自然、富良野・美瑛の丘陵地帯など、わずかな移動でも劇的に風景が変わる。
これは、ライダーにとって“目的地ではなく移動そのものが旅になる”体験を生む。
ツーリングの本質は「風を感じること」「風景の中に没入すること」であり、北海道はその欲求を最大限に満たす稀有な地域である。海外ライダーからの人気が高いのも、こうした“世界水準の走行体験”が提供できるからに他ならない。
2.食と温泉と自然がつながる“滞在型モトツーリズム”
モトツーリズムは“走ること”に偏りがちな印象があるが、北海道の場合は「滞在体験」との相性が非常に良い。
道内には多様な温泉地が点在し、食材の豊かさは国内随一である。海鮮、乳製品、ジンギスカン、農産物など、地域ごとの食文化は旅のクオリティを大きく高める。
さらに、キャンプ場やライダーハウス、ゲストハウスなど、ライダーの滞在に適した拠点が数多く存在する。
これらの資源を組み合わせることで、“走る”と“泊まる”をつなぐ滞在型モトツーリズムが成立しやすい。地域がこれを政策的に編集すれば、「走行体験→食・温泉→交流・滞在」という観光消費の循環が生まれ、地域経済への波及効果は非常に大きくなる。
3.広域ルート構築による“北海道ブランド”の強化
北海道の課題は、魅力は広大である一方で、観光資源が点在しており、連動性が弱いことである。
ここで鍵となるのが「広域ツーリングルート」の構築である。
たとえば、
道東の自然を巡る“オホーツク・知床ルート”
道北の雄大な気候と海風を走る“宗谷・稚内ルート”
山岳と丘陵をつなぐ“富良野・美瑛・十勝ルート”
文化を味わう“函館・道南ルート”
こうしたストーリー性のある広域ルートを設計し、地図・アプリ・道の駅情報・ガイド拠点と連動させることで、“北海道全体がひとつの走る観光圏”として機能するようになる。
4.安全・安心の確保と受入環境の整備
北海道は気候が厳しく、天候変化も激しいため、安全対策は最重要課題である。
路面情報、通行止め、動物飛び出し、急激な気温差など、ライダーが遭遇しやすいリスクをデジタルで共有し、安全と快適を両立させる仕組みが必要だ。
また、ガソリンスタンドや補給拠点が少ない地域では、休憩スポットの情報提供や、EVバイクの充電インフラの整備も欠かせない。道の駅を中心とした「ライダーウェルカム環境」の整備は、訪日ライダーにも大きな安心感を与える。
5.地域住民とともにつくる“ウェルカム北海道”
北海道のモトツーリズムを推進する際に欠かせないのは、地域住民との協働である。交通安全、マナー啓発、地域文化の共有など、観光客と生活者の共生を意識した取り組みが重要だ。
地域イベントとツーリングイベントを連動させる、地元ガイドを育成する、子ども向け安全教育とセットにするなど、住民参加型の取り組みは“ライダーに優しい北海道”のイメージを醸成する。これにより、モトツーリズムは観光だけではなく、地域との交流を促す文化的な活動として定着するだろう。
北海道は、日本で最もモトツーリズムのポテンシャルが高い地域であり、その魅力は世界水準である。広大な自然、変化に富む景観、多様な滞在資源、そして地域ごとの文化。これらを体系的に結びつけ、“走る観光圏”としてブランド化することで、北海道は国際的なモトツーリズムの先進地域となり得る。
モトツーリズムの推進は、観光振興にとどまらず、地域経済の活性化、住民との共生、国際交流の深化をもたらす。北海道が持つ“走る自由”の価値を最大限に引き出し、次世代ツーリズムのモデルとして世界に発信すべき時が来ている。
文責:林恒宏(岡山理科大学経営学部教授)
(一社)モトツーリズム推進機構のサイトはこちら
