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モトツーリズムをバーンド・H・シュミットの経験価値で分析する

近年、モトツーリズムは単なる移動手段としてのバイク旅から、体験価値を中心とした観光形態へと進化しつつある。バーンド・H・シュミット(2000)が提唱した「経験価値マーケティング(Experiential Marketing)」は、消費者の感情や感覚、思考、行動、関係性を基盤にした価値創出の理論であり、モトツーリズムの魅力を多角的に分析するうえで有効である。本稿では、シュミットの5つの経験価値モジュール(Sense、Feel、Think、Act、Relate)を用いて、モトツーリズムの可能性を探る。

  1. Sense(感覚的価値)
    モトツーリズムの最大の魅力は、五感を通じたダイナミックな体験にある。バイクでの走行中に感じる風の流れ、季節ごとの匂いや温度変化、視界いっぱいに広がる自然や街並みのパノラマは、自動車や公共交通機関では得られない没入感を生み出す。日本の海岸線や山岳ルート、四季折々の風景は、ライダーに強い感覚的価値を提供し、旅の記憶を鮮烈に残す。

  2. Feel(情緒的価値)
    バイク旅は、自由や冒険心を象徴する体験として多くの情緒的価値をもたらす。ライダーは孤独な探求者でありながら、同時に同じ道を走る仲間との共感を得られる存在でもある。特に地方のホスピタリティとの出会いは、「歓迎されている」という安心感や、地域とライダー双方の感情的つながりを強める。この感情的価値はリピート訪問や口コミ拡散につながり、モトツーリズム市場を拡大する原動力となる。

  3. Think(認知的価値)
    モトツーリズムは、ルート選定、宿泊手配、地域情報収集など、旅の計画段階から認知的な関与を求める体験である。ライダーは新たな道や文化に触れながら思考を刺激され、地域固有の歴史や文化資源を学び取る機会を得る。例えば、日本各地の絶景ロード、温泉地、地域祭りなどは、知的好奇心を満たし、旅を「学びのプロセス」に変える。

  4. Act(行動的価値)
    バイクは行動そのものを体験価値に転化させる。ライダーは自らハンドルを握り、路面の状態や天候に対応しながら旅を進める。これにより、主体的で能動的な観光行動が促進され、達成感や自己効力感が醸成される。また、ツーリングイベントやライダーミーティングのように、行動を共有する場があることで、参加型・体験型観光の価値がさらに高まる。

  5. Relate(関係的価値)
    モトツーリズムは、ライダー同士、地域住民、観光事業者との関係性を構築する力を持つ。SNSを介した情報共有や、バイクコミュニティとの連帯感、地方での交流体験は、単なる個人の旅行を超えて「共同体的経験」へと発展させる。これにより、観光消費はモノやサービスの取引を超えて、社会的絆を形成するプロセスとなる。

出所:筆者作成

バーンド・H・シュミットの経験価値モデルを通じて見ると、モトツーリズムは感覚的・情緒的な価値に留まらず、認知的・行動的・関係的価値を含む総合的な体験の場を提供することが分かる。これらの価値は地域資源との結びつきを深め、単なる観光消費を超えた「経験の共創」を可能にする。したがって、地方自治体や観光事業者は、この五感・感情・知性・行動・関係性を意識した施策設計を行うことで、モトツーリズムを地域振興の戦略的ツールとして活用できるだろう。


引用参考文献
バーンド・H・シュミット(2000)経験価値マーケティング: 消費者が何かを感じるプラスαの魅力,ダイヤモンド社

文責:林恒宏(岡山理科大学経営学部教授)

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