どうして、あの人が? 誠実なだけでは昇進・昇格できないシンプルな理由。
誠実な人が、一生懸命に仕事をしています。しかし、昇進・昇格とはどこか無縁で、給与の上昇も緩やかだったりします。
その裏で「どうして、あの人が?」と感じてしまう昇進・昇格があったりもします。少し、不公平に感じます。
こうしたことに、表には出さないまでも、悔しい思いをしている人もいると思います。

今回は、昇進・昇格に関わるとても大切なことについて、信頼性の高い研究論文を参照しつつ考えてみます。これまた参考文献が多いので、最後にリストとしてまとめておきます。不公平を感じている人はもちろん、人材育成に悩むマネージャーにも読んでいただきたい記事です。
■ 誠実さは汎用的なパフォーマンス予測因子
誠実さ(conscientiousness)とは自己統制、責任感、計画性、勤勉性、達成志向などを含む性格的な特性を指します。
Costa & McCrae (1992) は、誠実さを「目的志向的で、組織化され、信頼できる行動傾向」として位置づけています。また、John & Srivastava (1999) も「衝動の制御と計画的行動の遂行能力」として整理しています。
この誠実さが職務パフォーマンスの汎用的な予測因子であることは、Barrick & Mount (1991) など、複数のメタ分析により一貫して示されてきました。
さらに誠実さはすべての職種カテゴリ(各種専門職、警察、管理職、営業など)で有意な正の相関を示す特性なのです(r ≈ 0.20 / 中程度の相関)。
ただし Hurtz & Donovan (2000) は誠実さについて「すべての状況で最強」というよりも「最も一般化可能(generalizable)」な特性である点を強調しています。
■ 不都合な真実:誠実さは後からでも育つ
もちろん、誠実さには遺伝的な傾向もあります。Yamagata et al. (2006) によれば、誠実さの遺伝率は 49%(日本のサンプル)とのことです。
しかし同時に、Roberts et al. (2006) によれば個人の誠実さは20代〜40代にかけて、後天的にも大きく成長するのです。
昔はだらしなかったのに、いまでは立派な人として尊敬されているような人、周囲にいませんか?
さらに Roberts et al. (2003) では「仕事における責任の増大」が誠実さの向上と有意に関連していることが示されました。
具体的には、より責任ある役割(自律性の高い仕事、他者への責任を伴う職務など)を担うようになった個人ほど、時間の経過とともに誠実さが高まる傾向があったのです。
■ 経営者や人事が考えていること
誠実さはもちろん、採用段階で"ある程度"までは大切な要素(r ≈ 0.20 / 中程度の相関)として評価します。
ここでいう誠実さとは、指示されたことをコツコツやる誠実さです。いわば「受動的な責任感」です。そうした誠実さは、責任ある役割を与えることによって育成可能です。
しかし経営者や人事が昇進・昇格の場面で評価するのは「過去に責任ある立場を取ろうとしてきたか」「責任ある立場から逃げなかったか」といった行動の特性、つまり「能動的な責任感」です。
スナップショットとしての誠実さに含まれるのは、遺伝的な影響も含めた「受動的な責任感」にすぎない点には、特に注意してください。
端的に言うなら、
経営者や人事は、個々の人材について「自ら、責任に向かっていけるか」「その上で、逃げないか」を、見ています。繰り返しますが、これは「能動的な責任感」です。
そもそも人間には、責任が分散されやすい多人数な組織環境では、責任を回避する傾向(逃げる傾向)があります(Fischer, P., et al., 2011)。特に「傍観者効果(bystander effect)」として知られています。
つまり、組織的な問題を「自分ごと化」できる人材は、そもそも少ないのです。傍観者でありたいのが、人間らしい人間なのです。
そして同論文では、もう一つ非常に重要なことが述べられています。
「誰も動かない → 自分も動かない」「誰かが動く → 行動が連鎖する」という事実です。つまり、組織的な問題に対して、一人でも立ち向かおうとする人材が出てくると、その組織全体の行動が変わるということです。
組織全体に蔓延する傍観者効果を破壊する人材であること。もはや、リーダーシップの定義ですね。専門的には変革リーダー(change leader / transformational leader)と呼ばれる人材です。
■ 誰もが注意すべきこと(変革リーダー育成の視点)
リスク回避性には、大きな個人差があります。つまり、責任を取ることに対する恐怖は、人によって全く異なるということです。
また、ここには小さいながらも堅固な性差もあります。女性の方が、そもそもリスク回避性が高いのです(進化心理学的な統計的傾向であり、個々人の能力差を示すものではありません)。
また、そうした傾向が認められる背景には差別的な環境や無意識バイアス(ステレオタイプ)も大きな影響を持っています。だからこそ、女性の活躍推進には組織側の支援がとても重要になるのです(ダイバーシティ文脈)。
ここには誤解も多いので、気になる方はぜひ、以下の記事も参照ください。
「自ら、責任に向かっていけるか」「その上で、逃げないか」という行動特性は重要です。しかし、そうした人材はそもそも少ないのです。
なので「自分ごと化」できる人材が足りないと嘆くのはやめましょう。それはどこの組織でも共通する傾向です。
だからこそ実務的には「その責任をまっとうするだけの潜在能力があるか」を見抜き、そうした人材を、適材適所にアサインすることが重要です。
専門的には「ホットジョブ・アサイメント(hot job assignment)」と呼ばれるもので、背伸びが必要な修羅場経験への人材の割り当てが、これに相当します。経営者や上司など、上役から見える仕事(注目される仕事)であることも重要です。
具体的には新規プロジェクトのリーダーやトラブル対応の主担当、新規大型案件の対応などが「ホットジョブ」になり得ます。
経営者や人事は、潜在能力があるけれど、リスク回避性も高い人材の背中を「ホットジョブ・アサイメント」によって、押し続ける必要があるのです。
なお、経営者やマネージャーが特に注意したいのは「ホットジョブ・アサイメント」は、単に負荷をかけるだけでなく、心理的安全性を確保しながら背中を押すという視点を持つことです。
とにかく、特定の人材がリスク回避性を抱えていても、小さな成功体験を積むことで、その人の行動は変わるのです。いわゆる自己効力感(self-efficacy)を育成すれば、変革リーダーを増やすことが可能なのです(Bandura, A., 1977)。
個人としても、自分自身のリスク回避性を認識した上で、能力的な棚卸しをしつつ、意識して責任に対して向かってみることが重要です。
■ まとめ
誠実さによって成果を出すことは、とても大切なことです。しかしそれは、突出した人材としての評価項目ではなかったりします。
昇進・昇格しやすいのは、組織の問題を自分ごととして捉え、傍観者であることをやめ、自ら、責任に向かっていける人材です。
ただし、こうした人材は、そもそも少ないことを認識する必要もあります。
だからこそ経営者や人事は、個々の人材の潜在能力を慎重に評価しつつ、その人材のリスク回避性を認識し、背中を押し続ける必要があります。
リスク回避性の高い人材であっても、小さな成功体験を積み上げることで、責任に向かっていけるように成長します。
すでに誠実な人は、組織の問題に対して、意識して責任を取ろうと行動すること(能動的な責任感の発露)が肝要です。それが、あなたの昇進・昇格における最後のパズルのピースになってるかもしれません。
参考文献:
・Barrick, M. R., & Mount, M. K. (1991). The Big Five personality dimensions and job performance: A meta-analysis. Personnel Psychology, 44(1), 1–26.
・Costa, P. T., Jr., & McCrae, R. R. (1992). Revised NEO Personality Inventory (NEO PI-R) and NEO Five-Factor Inventory (NEO-FFI) professional manual. Odessa, FL: Psychological Assessment Resources.
・Hurtz, G. M., & Donovan, J. J. (2000). Personality and job performance: The Big Five revisited. Journal of Applied Psychology, 85(6), 869–879.
・John, O. P., & Srivastava, S. (1999). The Big Five trait taxonomy: History, measurement, and theoretical perspectives. In L. A. Pervin & O. P. John (Eds.), Handbook of personality: Theory and research (2nd ed., pp. 102–138). New York: Guilford Press.
・Mount, M. K., Barrick, M. R., & Stewart, G. L. (1998). Five-Factor Model of personality and performance in jobs involving interpersonal interactions. Human Performance, 11(2–3), 145–165.
・Yamagata, S., et al. (2006). Is the Genetic Structure of Human Personality Universal? A Cross-Cultural Twin Study from North America, Europe, and Asia. Journal of Personality and Social Psychology, 90(6), 987–998.
・Roberts, B. W., Walton, K. E., & Viechtbauer, W. (2006). Patterns of mean-level change in personality traits across the life course: A meta-analysis of longitudinal studies. Psychological Bulletin, 132(1), 1–25.
・Roberts, B. W., Caspi, A., & Moffitt, T. E. (2003). Work experiences and personality development in young adulthood. Journal of Personality and Social Psychology, 84(3), 582–593.
・Fischer, P., et al. (2011). The bystander-effect: A meta-analytic review on bystander intervention in dangerous and non-dangerous emergencies. Psychological Bulletin, 137(4), 517–537.
・Bandura, A. (1977). Self-efficacy: Toward a unifying theory of behavioral change. Psychological Review, 84(2), 191–215.
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