PS6が2029年に延期か──AIが引き起こした「RAMmageddon」の衝撃
メモリが足りない。たったそれだけの理由で、次世代ゲーム機の未来が書き換えられようとしている。Bloombergが2月15日に報じたレポートが、ゲーム業界に激震を走らせた。
PlayStation 6、2028年〜2029年への延期を検討
ソニーが次世代PlayStation(PS6)の発売を2028年、あるいは2029年まで延期する方向で検討に入っている。Bloombergが同社の方針に詳しい関係者の話として伝えた。
当初、PS6は2027年後半〜2028年の発売が有力視されていた。PlayStationは歴代、6〜7年周期でハードを刷新してきた。PS3が2006年、PS4が2013年、PS5が2020年。このリズムに従えば、2027年が「次」のはずだった。
だが、そのリズムを狂わせたのはライバル企業でも技術の壁でもない。AIデータセンターが世界中のメモリを飲み込んでいるという、誰も予想しなかった構造的危機だ。
MST Financialのアナリスト、デイビッド・ギブソンは1月末の時点でPS5のライフサイクル延長とPS6の2028年以降への延期を予測していた。ソニーのCFOであるリン・タオもPS5はまだ「ライフサイクルの中盤」にあると語っている。発売から5年半が経過したハードに対してこの表現を使う意味は明白だ。まだ数年は現役を続けるということにほかならない。
ソニーにとっての救いは、急ぐ理由がほとんどないことだ。PS5の累計出荷台数は2025年12月末時点で9220万台を超え、市場シェアは71.6%。2026年11月19日には『GTA VI』の発売も控えている。
Nintendo Switch 2にも値上げの影
同じBloombergの報道で、任天堂もSwitch 2の値上げを2026年中に検討していることが明らかになった。
Switch 2は2025年6月に発売され、日本語版が4万9,980円、海外版が449ドルで好調な滑り出しを見せた。発売から約4カ月で1036万台以上を出荷し、歴代Nintendo最速の売り上げを記録している。
しかし裏では、任天堂の収益構造が静かに圧迫されている。TrendForceのデータによると、Switch 2に搭載された12GBのRAMモジュールのコストは 41% 上昇した。256GBの内蔵ストレージも8%値上がりしている。任天堂はこの影響で2025年12月以降、約140億ドル(約2兆1,400億円)の時価総額を失った。
任天堂の古川俊太郎社長は京都新聞のインタビューで「中長期の事業計画に基づいてサプライヤーから調達しているが、現在のメモリ市場は非常に不安定」と語り、価格の維持については明言を避けている。調査会社Niko Partnersは、2026年中にSwitch 2がグローバルで値上げされると予測しており、449ドルのスタンドアロン版が廃止され、499ドルのバンドル版のみになる可能性も指摘した。
「RAMmageddon」──40年に一度のメモリ危機
なぜこんなことが起きているのか。答えは明快だ。AIが、メモリを食い尽くしている。
Meta、Microsoft、Amazon、Alphabetの4社だけで、AIデータセンターへの投資額は2024年の2170億ドルから2025年には約3600億ドル、そして2026年には推定6500億ドル(約99兆5,000億円)に膨れ上がる見通しだ。人類史上最も費用のかかった事業に匹敵する規模だと、Bloombergは表現している。
この狂騒的な投資の裏で、Samsung、SK Hynix、Micronの3大メモリメーカーは生産能力の大半をAIアクセラレータ向けのHBM(高帯域幅メモリ)に振り向けた。NVIDIAの最新Blackwellは1基あたり192GBのメモリを搭載する。ハイエンドPCの6倍だ。ラックスケールシステム「NVL72」に至っては、72基のBlackwellチップと13.4TBのRAMを積む。1システムで高性能スマートフォン1,000台ぶん、ハイエンドPC数百台ぶんのメモリを一気に消費する計算になる。
その結果、一般消費者向けのメモリ供給が壊滅的に不足している。
数字が語る異常事態
ある種類のDRAMは2025年12月から2026年1月にかけて 75% 急騰した。小売店や仲介業者は毎日のように価格を改定している。DDR5の32GBキットは2025年秋の90〜120ドルから300〜450ドルへ。64GBキットに至っては、かつて170〜210ドルだったものが現在750ドル以上に跳ね上がっている。PS5が1台買える金額で、メモリが1セットしか手に入らない。「RAMmageddon」と呼ばれる所以だ。
半導体製造装置大手Lam ResearchのCEO、ティム・アーチャーは2月に韓国で開催されたカンファレンスでこう語った。「我々はかつて経験したことのない規模のものに直面しようとしている」
恐ろしいのは、これがまだ序章にすぎないという点だ。AIの巨大投資はまだ本格化すらしていない段階で、すでに価格は暴騰し、在庫は枯渇している。
Micron、29年続いたCrucialブランドを終了
この危機の象徴的な出来事がある。メモリ大手Micronは2025年12月、29年間にわたり自作PCユーザーに親しまれてきた消費者向けブランド「Crucial」の終了を発表した。2026年2月末までに出荷を停止し、全リソースをAI・エンタープライズ向けに集中させるという決断だ。
世界3大メモリメーカーの1社が消費者市場から撤退する。この一事だけで、事態の深刻さは十分に伝わるだろう。
テスラのイーロン・マスクは1月28日の決算説明会で、メモリ不足の根本解決のために自社で半導体製造施設「TeraFab」を建設する必要があると宣言した。「チップの壁にぶつかるか、ファブを作るか。2つに1つだ」──そう語っている。Appleのティム・クックもiPhoneの利益率が圧迫されると警告し、Micronはこの状況を「前例のない」ものと呼んだ。
ゲーム業界への構造的インパクト
問題の本質は、価格の一時的な高騰ではない。メモリメーカーが生産構造そのものをAI向けに組み替えてしまったという、不可逆に近い変化だ。
IDCの分析によれば、2026年にはデータセンターが高性能メモリチップ生産の 70% を消費する。HBM向けのウェーハ生産比率は2025年の19%から2026年には23%に拡大する見通しで、HBM1GBの製造には通常のDRAM3GBぶんのウェーハが必要になる。これは文字どおりのゼロサムゲームだ。AIに割り当てられた1枚のウェーハは、スマートフォンやPCやゲーム機に届くことはない。
新工場の建設は進んでいるが、即効性はない。Micronのアイダホ新工場は2027年稼働予定で、意味のある生産量が見込めるのは2028年以降だ。Samsungの平澤やテキサスの拡張もHBMとエンタープライズDRAMが最優先とされている。半導体調査会社SemiAnalysisのレポートは、この状況を「40年に一度の不足」と形容した。
次世代コンソール、全社が岐路に立つ
ソニーだけの話ではない。次世代Xboxの発売も2027年が「最良のシナリオ」とされ、搭載予定のMagnus APUはソニーのチップより高コストだと報じられている。メモリ危機が落ち着かない限り、消費者が受け入れられる価格帯での発売はどのメーカーにとっても困難だ。
PS3が599ドル(現在の貨幣価値で約960ドル)で発売された2006年を思い出す人もいるだろう。あのとき何が起きたか、ソニーは忘れていないはずだ。
PC市場でも、Dell、HP、Lenovo、ASUSが15〜30%の値上げを発表している。600ドルのノートPCが8GBのRAMしか搭載できない──5年前なら「エントリーモデル」と呼ばれたスペックが、2026年の標準になりつつある。
待つことの意味
皮肉なことに、PS6の延期はゲーマーにとって必ずしも悪い知らせではないかもしれない。PS5 Proは好調で、PSSR 2.0によるアップスケーリングとマルチフレーム生成が2026年中に実装される見込みだ。ハードの性能はまだ引き出しきれていない。
メモリ価格が落ち着くのを待って適正価格で発売するのと、今すぐ高額なコンソールを出して市場を冷やすのと、どちらが賢明かは明らかだろう。
ただし、任天堂にはその猶予がない。Switch 2はすでに市場に出てしまっている。値上げはもはや「するかどうか」ではなく「いつ、いくら」の問題だ。最も不利なタイミングで新ハードを投入した代償を、これから支払うことになる。
ゲーム機の未来は、ソニーや任天堂の会議室ではなく、世界中のAIデータセンターで決まりつつある。半年後にこの記事を読み返したとき、状況はもっと悪くなっているだろうか。それとも、出口の光が見え始めているだろうか。
参照元
Bloomberg - Rampant AI Demand for Memory Is Fueling a Growing Chip Crisis
Micron Technology - Announces Exit from Crucial Consumer Business
他参照
#PlayStation6 #PS6 #NintendoSwitch2 #メモリ不足 #DRAM #AI半導体 #ゲーム業界
いいなと思ったら応援しよう!
記事が役に立ったと感じていただけたら、チップで応援いただけると嬉しいです。いただいた支援は、より深い調査と分析のための時間に充てさせていただきます。灯台を灯し続けるための燃料になります。