PS6はRAM高騰でも発売を遅らせない──Sonyの「退路なき選択」
「RAMmageddon」と呼ばれるメモリ危機のさなか、PlayStation 6の延期は避けられない──そんな空気が支配的だった。だが、事態は別の方向に動き始めている。
延期より、払うほうが安い
SonyがPlayStation 6の発売スケジュールを維持する方向で動いていると、複数の情報筋が伝えている。
ハードウェアリーカーとして知られるMoore's Law Is Dead(MLID)は最新の動画で、「RAMに余分な金を払うことは、発売を遅らせる理由にはならない」と指摘した。その背景にあるのは、Sonyがすでに踏み込んだ「引き返せない投資」の規模だ。
Wccftech.comの報道によれば、SonyはTSMCの3nmプロセスによる製造枠を2027年第2四半期に確保済みだという。ここから撤退すれば、単なる遅延では済まない。TSMCにおける優先顧客としての地位を失い、他社の後塵を拝すことになりかねない。コンソールは8年以上にわたって製造が続く長期契約だ。一度手放した製造枠を取り戻すのは、容易ではない。
MLIDはさらに、SonyがOrion APU(PS6の心臓部となるカスタムチップ)の設計に「数年間で数千万ドル規模」の投資を行ってきたと述べている。GDDR7の価格高騰は痛手だが、数十億ドル規模の生産サイクル全体を止めるコストとは比較にならない。
Sonyにとっての選択肢は「高いメモリを買って予定通り出す」か「すべてを止めて、もっと大きな損失を被る」かの二択になりつつある。
Bloombergの「2029年延期説」との温度差
2026年2月15日、Bloombergは匿名の関係者の話として、SonyがPS6の発売を2028年、あるいは2029年まで延期することを検討していると報じた。AI需要によるメモリ不足が深刻化し、GDDR7やNANDストレージの価格が急騰。数カ月で数倍に跳ね上がった部品もある。
この報道は大きな衝撃をもたらした。PS5が2020年11月に発売されたことを考えれば、2029年のPS6は世代間ギャップとして過去最長になる。
だが、MLIDの最新情報はそれとはトーンが異なる。「延期の決定は下されていない」というのが一貫した主張だ。APUの製造とRAMの選定は別の意思決定であり、チップ生産を進めながらメモリ構成の最終決定を先送りにできるという。PS4でも、RAMを4GBから8GBに倍増させたのは開発のかなり後半だった。
Reliable Insider MLID confirmed that the decision to delay the PS6 has not been made yet by Sony.
— MBG (@xMBGx) January 3, 2026
He claims Sony already has contracts with TSMC to start manufacturing the PS5 APU mid 2027 and a decision on how much RAM it will end up having will be made very close to launch.… pic.twitter.com/HWJF0Dqcbs
正直なところ、Bloombergの報道とMLIDの情報は矛盾しているわけではない。Sony社内で「延期も選択肢に入っている」のは事実だろう。ただ、「検討している」と「決定した」の間には深い溝がある。
PS5の前例──Sonyは危機でも止まらなかった
振り返れば、PS5の発売も順風満帆とは程遠かった。
2020年、世界はパンデミックの真っただ中にあった。GDDR6の価格は上昇し、半導体の供給は逼迫。物流は混乱の極みにあった。それでもSonyは発売日を動かさなかった。米国向けに航空便で60便以上を手配し、通常の海上輸送の数倍のコストを払って初期出荷を確保した。
あのとき払った「余分なコスト」は、結果的にPS5を史上最も成功したローンチのひとつにした。初動で市場を押さえることの価値を、Sonyは身をもって知っている。
PS5は世界的危機の中で生まれた。その経験が、今のSonyの判断を支えている。
小幅なスライドの余地
ただし、「延期しない」は「1日たりとも動かさない」を意味しない。
Wccftech.comの報道によれば、2027年末の発売予定が2028年初頭にずれ込む程度の「小幅なシフト」はあり得るという。2027年第2四半期に製造を開始し、在庫を積み上げながらRAMの最適な調達タイミングを待つ戦略だ。最終的な発売時期の決定は、2027年初頭の製造開始直前まで持ち越される見込みだという。
RAMの構成もまだ確定していない。24GB、30GB、36GBといった選択肢が取り沙汰されており、市場価格の動向を見極めてからギリギリで決める方針だ。PS4のRAM倍増と同じ手法である。
メモリ危機の「新しい日常」
問題の根源は構造的だ。
Samsung、SK Hynix、Micronの三大メモリメーカーは、利益率の高いAIアクセラレータ向けのHBM生産を最優先にしている。Micronの幹部は「2026年分の生産能力はすべて売約済み」と明言し、IDCはメモリ不足が2027年後半まで続くと予測する。
データセンターが世界のメモリチップ生産の約70%を消費するという推計もあり、コンシューマ向け製品はその「残り」を奪い合う構図だ。GDDR6のスポット価格は2025年7月から約60%上昇し、GDDR7はさらに高い水準にある。
これは一時的な混乱ではない。テック大手各社のAIインフラ投資は2026年に6,500億ドル(約102兆円)規模に達する見通しで、メモリ需要は構造的に膨らみ続ける。
かつてのパンデミック不足は「回復」で終わった。今回のメモリ危機には、終わりが見えない。
価格という名の地雷
PS6が予定通り出たとして、消費者が直面するのは「いくらで買えるのか」という問いだ。
PS6に30GBのGDDR7を搭載した場合、メモリだけで150〜200ドル(約2万3,700〜3万1,600円)の製造コストが上乗せされる可能性がある。一部のアナリストは、次世代コンソールの小売価格が700〜800ドル(約11万〜12万6,000円)に達しうると指摘する。PS5 Proが749.99ドルで発売されたことを考えると、「据え置き機」の価格帯は明らかに変質しつつある。
折しも、Xboxは3月5日に次世代機「Project Helix」のコードネームを正式に公表した。新CEO アシャ・シャルマは「性能でリードし、XboxとPCのゲームを遊べる」と宣言している。ValveのSteam Machineもメモリ高騰の影響で発売が遅れている。
次世代機戦争は、性能ではなく「誰がメモリ危機をどう乗り越えるか」で勝敗が決まるかもしれない。
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