①【新人:脳卒中】「麻痺肢の促通」を知らずに臨床に出るのは“縛りプレイ”のムリゲーです
【今回のテーマ】
新人理学療法士に向けた「脳卒中リハビリの基礎」となる第一回です。筋力増強や可動域訓練だけでは対応できない「麻痺」に対して、なぜ「促通」が必要なのか、その神経学的メカニズム(ヘブ則)と臨床での具体的な考え方を学びます。
【免責事項】
※本記事は、臨床10年超の理学療法士としての経験に基づく情報提供を目的としており、医療行為ではありません。金融商品、物品についての記載があってもそれらの使用を推奨するというのはあくまで個人の見解であることを明記します。それによって生じたいかなる問題も責任を取りかねます。
※個別の事例は考慮しておりませんので、実際の診断や治療方針については、必ず主治医や所属施設の専門医の指示に従ってください。
※本記事は執筆時点(2026年3月)の知見に基づいています。所属組織とは無関係な個人の見解です。
はじめに
いよいよ始まる【脳卒中シリーズ】の第1回です。(※もし別の記事から飛んできて、先におさらいをして戻りたい方は [▶ 新人さん向け基礎の記事へ戻る] をご利用ください)
⚠️ 読者の皆さんへ:この連載の歩き方
「理論はいいから、今すぐ起き上がりや移乗のコツを知りたい!」という方は、まず第4回(起き上がり・座位)や第5回(移乗)から読んでみてください。
でも、動作の回を読んだ後に、ぜひまたここ(第1回)に戻ってきてほしいのです。なぜなら、ここには「なぜその動作が重要なのか」という理論が詰まっているからです。この理論を知っているかどうかで、あなたのリハビリの効果は劇的に変わると約束します。
1. 脳のリハビリは「PTのコントローラー」で考えよう
「筋トレやストレッチの重要性はわかる。でも、麻痺って本当に運動で良くなるの?」
新人時代の私は、弛緩して重たい患者さんの足を前にして、途方に暮れていました。もしあなたが今、そんな疑問を抱いているなら、この記事がその答えになります。理学療法士が持つべき「技術のコントローラー」には、多くの新人が見落としている、絶対に無視してはいけない「第4のボタン」が存在するのです。
Aボタン:筋力増強(筋トレ) → 筋肉という「デバイス」を強くする
Bボタン:可動域練習(ストレッチ) → 関節という「パーツ」を滑らかにする
Xボタン:離床(とりあえず起こす) → 活動量という「プレイ時間」を確保する
脳卒中リハビリにおいて、プロとして絶対に使いこなさなければならないのが「Yボタン:促通(神経を繋ぐ)」です。断線しかかっている神経の配線を、もう一度繋ぎ直すこの「Yボタン」こそが、脳卒中リハの核心なのです。
2. ヘブ則のルール①:脳は「一致」を強化する
では、どうすればその「配線」は繋がるのか。そのルールが「ヘブ則」です。脳の神経回路は、「運動しようという意図」と「実際の運動」のタイミングが重なったときに強化されます。
臨床での工夫: 本人が「動かそう!」と思った瞬間に「動いた!」という実感が伴わせること。
パパPTの視点: 子供が初めて自転車に乗れたときの「漕ごう!」とした瞬間に親が押す感覚。あの「意図」と「結果」が一致した瞬間に、脳は学習します。
3. ヘブ則のルール②:脳は「行ったこと」しか学習しない
脳には「行ったことしか学習しない」という、少し厳しいルールもあります。
課題の特殊性: 共同運動パターンで膝が伸びても、それを「歩行(股伸展+膝伸展)」に応用することはできません。
丁寧な練習: 20分の介入枠の中で、代償動作ばかり繰り返すと、脳は「間違った配線」を強化してしまいます。
4. 「動いた!」の実感を生む工夫 — 促通(Facilitation)
全く動かない手足を「動いた!」と実感してもらう技術を「促通」と呼びます。私は川平法(促通反復療法)などの考え方を参考にしています。
私がよく行う「簡単な促通」の具体例:キッキング
誘導と抵抗: 片手で下肢の伸展を誘導しつつ、もう片方の手であえて「抵抗」を入れます。
錯覚を利用: 誘導が抵抗にわずかに勝つように調整すると、患者さんは「自分の力で押し切った!」という錯覚を得やすくなります。
ただし、注意も必要です。筋収縮が賦活されてきたら、絶妙なタイミングで介助(Yボタンの補助)を弱めていく「段階的なフェードアウト」が、最終的な自立を支えます。
5. おわりに:Yボタンを押し続けよう
正直に言えば、私も若手の頃はただ足を動かしているだけの時期がありました。A・B・Xボタンしか持っていなかったからです。
でも、諦めずに「どうすればこの収縮が出るか」とYボタン(促通)を探求し続けるうちに、患者さんの体が答えを教えてくれるようになりました。脳卒中リハビリは、配線修理のスペシャリストとしての仕事です。プロとして誇りを持って「Yボタン」を押し込みましょう。
【最後に】
最後までお読みいただき、ありがとうございました。今回は脳卒中リハの根本となる「促通」の重要性についてお伝えしました。
「Yボタン(促通)」の大切さは分かったけれど、いくら押しても反応が薄い……。そんな時、私たちの頭の中には「配線のどこが、どう壊れているのか?」という地図が必要です。
次回は、その地図の読み方を解説する [▶ 第2回:麻痺の正体は「道」の寸断〜皮質脊髄路を理解してYボタンを修理する〜] をお届けします。ぜひ続けてご覧ください。
この「脳卒中シリーズ」を最初から順に学びたい方は、以下のリンクをご活用ください。
また、現場ですぐに活かせるその他の知識も体系的にまとめています。
・[▶ 【リスク管理シリーズ】急変を防ぐための実践的観察ポイント]
・[▶ 【思考振る舞いシリーズ】臨床で使える現場力:目標設定・他職種連携・接遇]
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