②【脳卒中深堀り】急性期10m歩行「28秒」の意味:転倒予後予測
はじめに
「明日、担当患者さんの疾患を必死に検索して夜を過ごしていませんか?」
かつての私がそうであったように、若手時代は目の前の「歩行自立」というゴールに必死でした。しかし、臨床を10年以上積み重ねて見えてきたのは、自立の先にある「生活の質」を守ることの難しさです。
「自立はするだろう。けれど、このバランスの危うさは後々響くのではないか……」
現場でそんな予感を感じ、なくてはならない視点だと思いながらも、明確なデータとして持っていなかったがゆえに、今ひとつ自分の感覚に頼ってしまっていた部分がありました。
先日、X(旧Twitter)で佐藤佑太郎さん(https://x.com/yutarojpt6)が紹介されていた論文(POSTGOT研究)は、まさにその「感覚」の裏付けとなるものでした。急性期評価が持つ、1年後の未来を予言する力の強さを改めて突きつけられた思いです。
今回は、臨床10年超の理学療法士として、このエビデンスをどう解釈し、既存の知見と組み合わせて「明日からの臨床」にどう落とし込むべきか。その戦略を整理します。
論文の骨子:発症1週間以内の「10m歩行」が転倒を予見する
本記事で紹介するのは、スウェーデンのイェーテボリ大学の研究グループによる以下の論文です。
Persson CU, et al. Clinical tests performed in acute stroke identify the risk of falling during the first year: postural stroke study in Gothenburg (POSTGOT). J Rehabil Med. 2011;43(4):348-353.
[DOI: 10.2340/16501977-0677]
対象: 初発の脳卒中患者(発症1週間以内)96名
評価時期: 発症1週間以内(Within the first week)
追跡: その後1年間(3, 6, 12ヶ月時点)の転倒状況
主要なカットオフ値(1年後の転倒予測)
10m歩行テスト(10MWT): 0.35 m/s
Timed Up & Go (TUG): 27秒
Berg Balance Scale (BBS): 45点
特筆すべきは、10m歩行テストが実施不可能だった群の転倒リスク(オッズ比)が6.06倍と極めて高かった点です。
「10m/28秒」という数字をどう噛み砕くか
臨床現場では「0.35 m/s」という速度で言われるよりも、「10mを何秒で歩けたか」の方がイメージしやすいでしょう。換算すると、約28秒です。
私の率直な感想としては、**「10mに28秒もかかるなら、確かにそれは転ぶだろうな」という現場感覚と一致します。一方で、「20秒前後で歩けていれば、意外とリスクは下がるのか」**という点は、一つの安心材料になるかもしれません。
【考察】TWISTと転倒予測の「隙間」を埋める
これまで、TWISTアルゴリズムによって「回復期を退院する時点で歩行が自立しているか否か」の見通しを立てるだけでも、リハ計画の大きな柱になると考えていました。
しかし、今回の知見はその予測をさらに**「補完」し、「増強」してくれる**素晴らしいものだと確信しています。
「歩けるようになる(TWIST)」という結果に、「しかし、転倒リスクが残る(今回の論文)」という解像度が加わることで、私たちが渡すべきバトンの内容はより立体的になります。
解像度の高いバトンを渡す
もちろん、回復期のスタッフの皆様は百も承知のことと思いますが、あえて一言添えさせていただくなら、以下のような提案が可能になります。
「TWIST上は自立が予測されますが、歩行速度の観点から1年後の転倒リスクが懸念されます。筋力やバランスの強化はもちろん、たとえ早期退院となったとしても、転倒予防の観点での指導を重点的に入れておいた方が良いかもしれません」
自立するかどうかの0か1かの議論を超えて、「その人の1年後の生活をどう守るか」。この視点こそが、急性期PTにとっての醍醐味ではないでしょうか。
臨床家としての批判的吟味
もちろん、この研究のサンプルサイズ(n=96)は決して多くありません。また、試験を妨げる重篤な合併症や再発例は除外されています。
この知見を鵜呑みにするのではなく、「自分の目の前の患者さんではどうか?」を追跡し、検証し続ける。100記事書いたその先に、自分自身の臨床データでエビデンスを追い越していく。そんな姿勢を大切にしたいと考えています。
おわりに
急性期の評価は、単なる現状把握ではありません。1年後の患者さんの笑顔を守るための「最初の一手」です。
明日からの10m歩行テスト、今までとは少し違う景色が見えてくるはずです。
参考URL: Journal of Rehabilitation Medicine (Full Text)
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