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現代超訳『新未来記』(ジヲスコリデス(蘭語)、近藤真琴 訳述、明治11年 )、その11

おまたせしました。今回から、現代超訳『新未来記』第四編に進みます。
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さて話を戻すと、その日はもう夕暮れどきになっていたので、三人は連れ立って博物館を出て行った。
大通りに出たころ、どういうわけか四方が明るく、まるで昼のようになっていた。
そこで、昔、各国の町々で夜を照らしていたガス灯のようなものがあるのかと思って、あたりを見回したけれども、これだと思うものは見えなかった。

そのうち、ふと空を見上げると、何ということか。
いま西の山に入ったと思った夕日が、いつのまにか高い空にまた昇り出て、町を照らさぬ隅もなく、まぶしいほど明るくなっていた。

よくよく見ると、この日輪は、ほんものの太陽の姿ではなく、人の手で作ったものであるらしい。
はるか向こうにもまた一つ、西にも一つ、東にも、南にも、同じような光があった。

私は、それを半空のはるか上にあるものとばかり思っていたが、実はそれほど遠い距離でもなかったので、これにもひどく驚いて、歩いていた足は思わず止まってしまった。
すると巴哥(ベーコン)は、それを見つけて言った。

「あなたは、この不夜灯をごらんになったのですか。
昔、嘉永・安政のころから、ロンドンやパリでは、このような方法で外を照らした所も、まれにはあったと聞きます。
この方法がしだいに広まり、ガラス屋根ができたころから、このように一般に開けたのです。」

私は言った。
「私がこれまでいつも見てきた灯火は、石炭の気を取り、それを管を通して町々へ導き伝え、夕方に火をともすガス灯です。
ところが、今この光は、輝きがとりわけ強く、昔の家のガス灯のたぐいではありません。
また、その色も白くて、ガス灯の色とは大いに違っています。
どうか詳しく教えてください。」

すると巴哥は言った。
「いやいや、これはガス灯ではありません。
ガス灯は今でも田舎の、人家のまばらな土地では、用いる所もあります。
けれども、このような大都会の中では、別の強い光をもつ材料を燃やして街を照らすのです。
そして、ここを照らしているこの不夜灯は、電気によって作ったものです。
これに多くの鏡をかけ、多くのガラスをはめ込んで、あの日輪の明るい光に似せる力を得たので、
『夜ではない』という意味で、不夜の機械と名づけたのです。」

このような話を聞いたので、私は、
「電気、あるいは瑪屈涅多を用いるとなると、ふつうのガス灯などとは違って、費用もさぞ多くかかるでしょう」
と言った。
すると巴哥(ベーコン)は首を振って、

「あなたの察しなさるようなことではありません。
世界の中には、磁石の鉱山が非常に多くあるので、瑪屈涅多で作られるものは、とりわけ安価に得られるのです。
それは、あの粘土から飢を取り出す法が容易であることからもわかるでしょう。
また、燃え尽きたあとに残る灰は、堅い物質ですから、機械にかけて作り直し、瑪屈涅多の気を吸い寄せさせて、再び灯火にすることもできるのです。
それゆえ、若干の瑪屈涅多を一度手に入れれば、永久に尽きない明るい光を出す泉になるとも言えるでしょう。」

と言った。

それを聞き終えて、私はひそかに心の中でこう思った。
十九世紀の人の世のありさまは、文明開化の尊い時代だと誇っていたけれども、今の世のこの開明ぶりと比べれば、何と言ったらよいだろう。
以前、幻が「まだ開けていなかった昔の世」と言ったのを、もっともだと思うと同時に、それを恥ずかしくも感じた。
そう思う心が顔にまで現れて、顔色に出たのであろう、巴哥は早くもその気配を悟って、

「あなたが今の時代のありさまを、なおもっと詳しく知りたいなら、明日もお供して、宇宙をわたって旅をいたしましょう。」

と言った。

これを聞いて私は驚いた。
空の旅、宇宙を渡る船といえば、ただ見せ物の遊びにすぎない気球なら知っている。
けれども、今の巴哥の言葉つきは、まるでそれが実際に用に立つものであるように聞こえたので、
一度乗ってみて、今の世がどこまで開けているかを知ることができたなら、どんなにうれしいことだろうと思って、心は浮き立ち、躍るほどであった。
それでもなお気がかりだったのは、風雨や晴雨の定まらない空模様のことであった。

その顔つきを巴哥は見るやいなや、

「風雨のことは心配なさるな。
今朝、私はもうすでに占晴館の『オロヂセ』へ行って、それを尋ねてきました。
すると、世界各地の占晴館はみな、一月十四日までは天気も晴れやかで、風雨はないと言うので、
空を旅する人々は、儲力の器を数多く携えるには及ばない、と聞きました。
それで、わが友の幻とともに、船出を定めたのです。」

「あなたも乗ろうという気があるなら、明日の朝早く、かくかくの場所でお会いしましょう。」
そう約束して二人と別れ、街の曲がり角まで行った。

その時、そこに往来の人を乗せる馬車があったので、
「宿屋まで送ってくれ」
と頼んで、これに乗りこんだ。

今まで乗っていた馬車はみな、街を走るうちに、車輪のきしる音が耳にうるさいほどで、車の上に乗っている人は、話し声さえ聞こえないほどであった。
ところが、今この車に乗ってみると、ごとごとひびく音もなく、馬につけた四つの鈴が、調子をそろえて鳴るだけであった。

このように耳ざわりな響きがないのは、どういうわけか、と問う人もなかったので、口には出さずに過ぎた。
けれども、こうした響きは、ほかでもなく、車輪を包んでいる鉄のたがによるのだろう。
それを今の世では改めて、別のものを用いるようになったので、このような響きもなくなったのであろう、と、心の中で問い、心の中で答えた。

そうして進むうちに、ほどなく、諸国の人を泊める宿というだけあって、広いばかりでなく美しい宿屋に着いて、そこに泊まった。

宿に入ってみると、不思議なことには、諸国の旅人が何百何千人も、場所がせまいほど集まっていながら、ものを言う人がいないばかりか、咳さえする者もなく、ひっそりと静まり返って見えた。
それはなぜだろうと思っていると、
その少し広い座敷の中に、清らかな管弦の音と、歌の声が聞こえてきた。

その調子は、むやみに高ぶるものではなく、いよいよのどかな春の日に花の中で鳴く鶯のようでもあり、
秋の野ごとに松虫の鳴きしきる絶え間に交じって、雲の間を飛ぶほととぎすの声のようでもあり、
あるいは霜の夜をうらむようなきりぎりすの声のようでもあり、
または深山の水の音、遠山の松に吹く風のようでもあって、
実際には梢を鳴らしているわけでもないのに、
久しい間、上がる声、下がる調子のおもしろさに、しばらく心を奪われて聞き入っていた。

ところが、その歌の節まわしは人が歌うようでありながら、
ほんとうに人の声とも思えなかった。
あたりを見回して探してみても、歌う子どもも、歌う女の姿も見えない。
そうはいっても、声はたしかに聞こえるので、
その声はどこから出てくるのだろう
と、また見回してみると、
座敷の中に高い机が備えてあり、その上にのせた小さな箱があった。
そして、そこから出ている響きなのだと、今になって初めて知ったのである。

そこで私は、
この器械は、俗にいうオルゴールのたぐいで、長い年月のあいだにいっそう精巧になったものだろう
と思った。

机のまわりに立ち並んで聞いている人々は、だれも彼も、ささやき声ひとつ立てず、その箱を見つめながら、みな黙って聞いていた。

しばらくして音楽が止んだので、私はその人々のそばへ寄って、

「今聞いていた音楽は、自鳴楽器ではありませんか。
ただ弦や笛の音だけでなく、歌の節まわしまでおもしろく、まことに不思議な器械です。」

と言った。

すると、それを聞くやいなや、人々は返事もできないほど驚いて、みなこちらを見つめた。
その中から、たちまち一人の少年が出てきて、

「あなたはどこの人ですか。そのようなことを言うとは。
自鳴楽器をご覧になったことがあるのですか。
これは『テレボ……』と名づける伝声の機械であることをご存じないのですか。」

と言った。

そう言われて、私は心の中で、
なるほど、これは伝声機であったのか
と思った。

そもそも伝声機というものは、昔、巴業という博学の人が見出した理に基づいて、列乙斯が考え出した、言葉を遠くへ伝える器械である。
その仕組みは、針金を螺旋の形に曲げたものを、鉄で作った釘に巻きつけ、そこへ電気を流す。
それを手だてとして、物の音や人の声までも、はるか遠い所へ伝えて、手に取るように聞こえるようにするのである。

また、その声の高低は、流す電気の断続の早さ遅さによって起こる空気の振動が、一秒の間に何回あるか、その数の多い少ないによるものだと、早くから知られていた。

そこで私は、これに答えて、

「伝声機なら、私も知っております。」

と言い、昔の発明のことから、列乙斯が作った器械の仕組み、人の声を遠い場所へ伝える道理はこうこうであると、くわしく語った。

そして、

「その時から二百余年も過ぎたのだから、日々の新しい改良によって、このような器械になったのでしょう。」

と話した。

すると、人々はみな黙って聞いていたが、しばらくして、私が昔のことに明るいのを感じた人も多くあったらしく、

「伝声機は、それほど古いものだったのか。」

などと互いに言い合った。

そのうち一、二人が私のほうへ進み寄って、

「あなたの今のお話で、知らなかった昔のことも知ることができました。
この機械の起こりをご存じなら、今日ここでこれを使うことも、たやすく理解できるでしょう。」

と言って、くわしく話して聞かせてくれたので、私はその事情を知ることができた。


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