【166】 狸と与太郎
(*写真はペンギン目ペンギン科オウサマペンギン属コウテイペンギン)
*
与太郎は毎日隣村へ遊びに行って、まだ日の暮れぬうちに森を通って帰って来ました。
「あの森は狸がいていろいろのものに化けるから、日の暮れぬうちに帰らぬと怖ろしいぞ」
とお母さんが言いきかせているからです。
ある日、太郎はうっかり遊び過ごして真暗になって帰って来ました。森の中に入ると、忽ち一丈もある位の一つ目入道が出ました。
「ヤア。大きな伯父さんが出て来た。眼玉が一つしかないんだね。面白いなあ。僕と一緒にうちへ遊びに来ないかい」
と与太郎は言いました。一つ目入道は見ているうちにロクロ首になりました。
「ヤア。綺麗な首の長い姉さんになった。変だなあ。どうしてそんなに長くなるの。もっともっと長くして御覧」
と言いました。ロクロ首は今度は鬼の姿になりました。
「オヤ、鬼になった。お節句の人形によく似てる。可笑しいなあ。もっといろんなものになって御覧」
化け物は与太郎がちっとも怖がらないのでつまらなくなって、狸になってしまいました。それを見ると与太郎は真青になって、
「ワア狸が出たあ。化けると大変だ。助けてくれ」
と言いながら一所懸命逃げて行きました。
『狸と与太郎』(夢野久作)
*
「【160】 鳥獣戯画のニホンノウサギ」で紹介した「鳥獣戯画(模本)」を見て、何か気づいたことはないだろうか?
ウサギとカエルの数が突出しているものの、いろいろな動物が出てくる。登場順で並べてみると、
ウサギ、サル、シカ、カエル、キツネ、イノシシ、ネズミ、ネコ、キジ、ミミズク、ウマ、ウシ、タカ、イヌ、ニワトリ、水犀、麒麟、豹、羊、虎、獅子、龍、象、獏、ヒト、ヘビ。漢字表記は幻獣。干支の動物すべてがいる。
しかし、タヌキとクマがいない。これはなぜだ? 民話にもよく出てくる日本人に馴染み深い動物ではないのか?
*
私は、日本オタクの在日アメリカ人と裏高尾の小仏峠にバードウォッチングに行ったことがある。山道にはなぜだか信楽焼の狸が置かれていた。
すると彼は、「なぜ山の中にペンギン像が? これも日本の伝説か何かか?」と食いついて来た。
ペンギンじゃねーよ。タヌキだよ、でも実際のタヌキとは全然違うし、ここに置かれてる理由は知らん。意味なんてねーわ。
と説明したが、納得されなかったようだ。
