【386】 45年ぶりに鳥類の新種発見!?—トカラ列島で独自に進化を遂げた希少種トカラムシクイ—
(写真はスズメ目ムシクイ科ムシクイ属イイジマムシクイ)
*
2026年3月18日
公益財団法人山階鳥類研究所
国立研究開発法人森林研究・整備機構森林総合研究所
リンクはこちら。
ポイント
鹿児島県トカラ列島に分布するムシクイ科の鳥は、これまで伊豆諸島のイイジマムシクイと同種とされていましたが、遺伝的、形態的にも、さえずりも異なる未記載種だとわかりました。
トカラ列島の個体群を「トカラムシクイ」として新種記載しました。
国内で新種の鳥が報告されたのは、1981年に記載されたヤンバルクイナ以来45年ぶりとなります。
概要
公益財団法人山階鳥類研究所と国立研究開発法人 森林研究・整備機構森林総合研究所は、ウプサラ大学、イエテボリ大学(スウェーデン)、中国科学院 動物研究所(中華人民共和国)との共同研究で、イイジマムシクイの地域個体群とされてきた鹿児島県トカラ列島のムシクイ個体群が未記載種(新種)であることを発見しました。
日本国内で、新しい学名の命名を伴う鳥類種の報告は、1981年の沖縄本島やんばる地域で発見されたヤンバルクイナ以来、45年ぶり※注1となります。
イイジマムシクイは、東京都伊豆諸島の島々に繁殖分布することは古くから知られていましたが、1989年に発表された論文でトカラ列島中之島でもよく似たムシクイ科の小鳥が繁殖していることが報告されました。
伊豆諸島とトカラ列島は遠く離れていますが、両個体群間の差異は十分に検討されないまま、最初の報告での種同定をもとにともにイイジマムシクイとして分類されてきました(図1)。
今回、私たちはこの2つの地域の個体群の同一性に疑念を抱き、DNA分析により伊豆諸島とトカラ列島個体群の遺伝的な差異を調べたところ、両個体群の分岐年代は古く、280万〜320万年前に分岐したと推定されました(図2)。
さらに、両個体群の形態の差異を調べてみると、トカラ個体群は伊豆個体群よりもふしょ(脚)や嘴と頭部を合わせた長さが短いことが分かりました。また、鳴き声では、さえずりに個体群間で明確な統計的違いがあることが分かりました。
そこで私たちは、トカラ列島個体群の鳥をイイジマムシクイではなく、新種「トカラムシクイ」とすることを提唱しました(図3、図4)。
トカラムシクイはトカラ列島のいくつかの島に生息しますが、確実に繁殖が確認されているのは中之島のみで、生息地が狭く個体数も多くないと推測されるため、絶滅の危険性が高い種といえます。
もともとイイジマムシクイは環境省レッドリストで絶滅危惧Ⅱ類(VU)に指定されていたので、トカラムシクイも今後、同リストにより絶滅危惧のランク付けを検討する必要があるでしょう。
近年、同列島の島々は、松枯れやノヤギによる森林衰退が進行している地域があり、トカラムシクイの生息環境の悪化が懸念されるので、その進行を食い止める環境保全策も必要です。
本研究成果は、2026年3月17日からPNAS Nexus誌で公開されています。
背景
イイジマムシクイ(学名Phylloscopus ijimae)は伊豆諸島の三宅島で採取された標本をもとに1892年に新種記載され、長らく伊豆諸島で繁殖する夏鳥として知られていました。
一方、鹿児島県トカラ列島の中之島では、1988年、ムシクイ科の小鳥が繁殖していることが新たに確認され、その形態とさえずりの類似性から伊豆諸島と共通するイイジマムシクイの新繁殖地として報告されました(Higuchi & Kawaji 1989)。
そのため、同種の繁殖分布は、これまで、伊豆諸島とトカラ列島の島々の一部で繁殖するとされてきました(図1;日本鳥学会 2024)。しかし、伊豆諸島とトカラ列島の間は、直線距離にして約1,000 kmも離れており、両個体群に違いはないのか、私たちは疑問を感じました。
そこで、今回の論文では、2つの地域個体群の間の遺伝的、形態的な違いに加えて、さえずりや地鳴きなどの音声の差異について総合的な分析を行いました。
環境省レッドリスト(第4次)によると、イイジマムシクイは、絶滅危惧Ⅱ類(VU)※に指定されており、「絶滅の危険性が増大している種」として、保全上緊急性が高い種として指定されています。
イイジマムシクイとその近縁種の分類と分布、地域個体群の現状を明らかにすることは生物多様性保全のために重要な研究課題です。
※ 背景内注釈: 2026年3月17日に発表された第5次環境省レッドリストでは、絶滅危惧Ⅱ類(VU)(第4次)から、絶滅危惧IB類(EN)「絶滅の危機に瀕している種」に絶滅ランクが引き上げられました。
研究手法
1)DNA解析
トカラ個体群と伊豆個体群について全ゲノム配列とミトコンドリアDNAチトクロームb領域の一部(1,041塩基)を含む全配列を解読しました。また、近縁種を含むムシクイ科内の分子系統解析を行い、個体群間、または種間の系統関係を明らかするとともに、それらが分岐した年代推定を行いました。
さらに、全ゲノム配列から、集団遺伝学的な解析を行い、限られた地域に分布する両個体群が、遺伝的にどのような状態にあるのか、保全上重要となる遺伝的指標について解析を行いました。
2)外部形態の比較
形態の解析では、50個体のオス個体を用いて、翼の長さや嘴の長さなど5部位を計測し、両個体群の違いを統計学的な手法を用いて解析しました。
3)音声解析
音声解析では、著者らが録音した音声と野生動物メディアの公開データベースで収集した音声データから、伊豆個体群33個体とトカラ個体群29個体のさえずりと、伊豆個体群6個体とトカラ個体群5個体の地鳴き(さえずり以外の音声)を選んで用いました。
解析には音の高さや長さなど12の測定値を変数として、両個体群の音声的な差異を統計解析しました。
研究成果
1)分子系統解析の結果、伊豆個体群とトカラ個体群の分岐年代は古く、280万〜320万年前に分岐したと推定され、また両個体群と一番近縁なのは、センダイムシクイであることが明らかとなりました(図2)。集団遺伝解析の結果では、両個体群間で遺伝的交流がないこと、遺伝的多様性が低いこと(伊豆個体群よりもトカラ個体群の方が低い)が分かりました。
また、両個体群とも過去に個体数の減少を経験したが、その影響から生じる遺伝的な悪影響から回復しつつある傾向にあることも分かりました。
2)外部形態の解析では、両個体群間で羽色の違いはなく、体サイズの違いもわずかではあるが、トカラ個体群の方が、ふしょ長(脚の長さ)と全頭長(嘴の先から後頭部までの長さ)が有意に小さいことが分かりました。
3)音声解析では、両個体群ともに2つの異なるタイプのさえずりが認められました。両タイプともに個体群間の判別分析において、高い判別率を示し、統計的に識別可能なことが分かりました。地鳴きに関しては、サンプルサイズが不足していることとも影響して、両個体群間の違いは認められませんでした。
4)上記の結果から分類の再検討を行い、トカラ個体群は、伊豆個体群と比べて進化的に独自の特徴を持つことから、イイジマムシクイとは別種のトカラムシクイ(英名Tokara Leaf Warbler、学名Phylloscopus tokaraensis)として新種記載することを提唱しました。
記載に用いられるタイプ標本は、現在、山階鳥類研究所で保存されています(図3、図4)。
研究の意義
国内の鳥類の分類学的研究は、その大半が明治時代に外国の研究者によって新種の記載が完了し、もう研究され尽くしてしまったように一見おもわれます。しかし、日本国内の鳥類の個体群には、いまだ発見されていない隠れた多様性が埋もれている可能性があることを本研究の成果は裏付けています。
このような隠蔽種の発見は、近年メボソムシクイ上種やオガサワラカワラヒワの研究例がありますが、これらは全てもともと亜種として認識されていたものが、分類学的再検討によって独立種となったものです。
しかし、本研究の重要な発見は、トカラ列島に以前から「イイジマムシクイ」が分布することは知られていましたが、それがこれまで記載されていない、「未記載種」であるということを明らかにした点です。
このために、本研究では新しい学名をトカラ個体群の個体に与えて、新種記載を行いました。日本国内で、新しい学名の命名を伴う鳥類種の報告は、1981年の沖縄本島やんばる地域で発見されたヤンバルクイナ以来であり、その意味において、「45年ぶりに鳥類の新種発見」と言えるのです。
トカラ列島は、南北1,200 kmにも及ぶ南西諸島の中で、九州と中琉球を繋ぐ地域として、また生物地理区の境界と言われている、渡瀬線を跨ぐ地域として、生物地理学的に興味深い地域です。本研究はトカラ列島の生物地理を解明する材料を提供し、その成立過程の解明に貢献できるかもしれません。
※注1
近年では、世界的に希少な海鳥、オガサワラヒメミズナギドリが2015年に小笠原諸島で発見された研究例や、2020年にこれまでカワラヒワの亜種とされていた、オガサワラカワラヒワが独立種に分類の再検討がされた例などがある。
※注2
本種の捕獲は、環境省、文化庁の許可を得て行われた。
今後の予定・課題
トカラムシクイとイイジマムシクイの両種が、どのように種分化し、現在の繁殖分布域に定着してきたのか、まだその進化の過程については、詳しく解明されていません。今後は、その謎に迫る研究ができたらよいと考えています。また、世界でトカラ列島(鹿児島県十島村)にしか分布しないこの固有種をどのように絶滅の脅威から守り、保全していくのかについては、今後の課題といえます。
特に同列島は火山島が多いことから地震や噴火による生息環境の破壊のリスクと常に隣り合わせです。また、ニホンイタチなどの外来捕食者の脅威といった問題もあります(関 2024)。そのため、今後も注意深く個体数のモニタリング等の調査を行う必要があるとおもわれます。

(地理院地図を加工して作成)

(ミトコンドリアDNAチトクロムb領域の分子系統樹に基づく)

(雄成鳥、2017年6月10日トカラ列島中之島捕獲)

(雄成鳥 標本番号YIO-76774山階鳥類研究所蔵)
*
元々私はこのブログを、愛鳥啓蒙目的で書き始めたのだが、すっかり脱線してしまっている。
しかし、久しぶりにいいニュースに出会った。
1981年のヤンバルクイナ発見絡みのブログは、「【133】 渡瀬庄三郎とヒメインドマングース」あたりから読んでいただきたい。
